13
班員の視線の先に目をやると、そこには遠くからでは建物の死角になって発見できなかった10m級の巨人が居た。私達の方に目を向けるも、その目はすぐに逸らされてしまい隊列の中に侵入するように歩き出した。目の前に5人もの人間が居るのにも関わらず、私達を気にも止めずに横切ろうとするその行動はまさに奇行種と言った感じだ。
「黒の煙弾を撃って!」
私は班員の1人に指示を出し、リヴァイの顔を一瞬見てから班員達の方に向き直った。
「あの巨人は私とリヴァイとで片づけるから、みんなは周りから他の巨人が来ないか見張ってて。もし他の巨人が現れたらすぐに索敵に移って欲しい。私達もあの奇行種をやったらすぐに加勢するから。」
「はい!分かりました!」
「リヴァイ、それで良いよね?」
「当たり前だ。あんなのすぐに片づける。」
「じゃあ私が囮をするから、リヴァイはうなじを削いで。」
「あぁ、分かった。」
これがリヴァイの初めての実践になる。
今のところ付近にあの巨人以外は見当たらないし、動きもそれほど速くなさそうだ。まぁ奇行種だから油断はできないけど…。しかも周りには点々と木や、以前は人が住んでいたと思われる建物があって、巨人を討伐するには絶好の条件が揃ってる。
(もしリヴァイが取りこぼすようなことがあっても、私がすぐに仕留めればいい。)
「リヴァイ行くよ!」
「あぁ。」
馬を班員達に預け、私とリヴァイは歩みを止めない奇行種の方に向かってガスを噴かせ、私はそまま奇行種の前に躍り出た。
「こっちよ!」
わざと大きな声を出して注意を引きつける。私の姿を目で捉えたのか、そいつは一瞬動きをピタリと止めた。
でも次の瞬間、その奇行種は私を目がけて大きく右手を振りかざした。
「名前分隊長ーっ!!!」
班員達の悲鳴のような叫び声が耳に入る。
(大丈夫、私はこんなノロマに掴まったりはしないっ!)
すぐ近くにあった木にアンカーを刺し、思い切りガスを噴かせて巨人の右手を交わす。
その動きを目で追っていた巨人が、再び私に向かって手を伸ばしたその時―、
「死ね。」
発せられた言葉と同時に、ザシュッと肉を削ぐ音が聞こえ巨人がその場に倒れ込む。
その動きを見ていた私は思わず息を呑んだ。
リヴァイの動きがあまりに早く、巨人を仕留めたその斬撃は非の打ちどころがないと言っても良いほどに深く正確に巨人の急所を抉っていたから。
『縦1m横10cm』
動き回る巨人を相手にしながらその範囲を正確に削ぐことは、何年も調査兵団に属する者であってもなかなか難しいというのに。それをこのリヴァイという男は初めての討伐でいとも簡単にやってのけた。それに立体機動での動きだって、一緒に訓練をしていた時の何倍も速かった様に感じた。
リヴァイは近い将来きっと人類の希望のような存在になる、そんな予感に私の胸は喜びに震えた。
「リヴァイ…、あなたは私が思ってた以上の人だったみたい。」
「何がだ…。チッ、きったねーな。」
喜びの表情を浮かべる私とは裏腹に、リヴァイの表情は険しく、どこかから取りだした自前のハンカチで自分の手を懸命に拭っていた。
(そうだ、リヴァイは潔癖症だった。)
そのことを思い出した私は目の前のリヴァイの姿に笑いを堪えることができなかった。だってあんなにかっこよく巨人を倒した後なのにこれなんだもん。
「おい名前、何笑ってんだ。」
「ううん、何でもない。さっ、早くみんなの所に戻ろう。また巨人が来たら面倒だから。」
「…そんなもん来たらすぐにぶっ殺してやる。」
そんな頼もしいセリフを言いながらも自分の手を拭き続けるリヴァイを半ば引っ張るようにして、私は班員達の元へ急いだ。