12
開門と同時に全速力で馬を走らせ、旧市街地を駆け抜ける。
「進め!!進めええええ!!」
誰かの怒号が聞こえてくる。
隊列に近づいてくる巨人を掃討する援護班を横目に、私たちは貯蔵プラント設置地点である目的地を目指した。今回の壁外遠征は、調査はもちろんのことウォールマリアでの補給ルートの確保が1番の目的だ。酵母を置くための貯蔵プラントを各地に展開し、ウォールマリア奪還の為の航路を築く。
ウォールマリアの陥落によって、調査兵団が長年築き上げてきたシガンシナ区からの航路は失われてしまった。あれだけの航路を築き上げる為に、一体何千もの調査兵団の兵士達が死んでいったのかと思うと、巨人を憎む気持ちと悔しさが心の中でぐちゃぐちゃに混ざり合い胸が押し潰されそうになる。
旧市街地を抜けてしばらく馬を走らせると、次列中央からエルヴィンの大きな声が聞こえてきた。
「長距離索敵陣形!!展開!!」
その声と同時に広がっていく隊列。
「みんな行くよ!!」
私もエルヴィンに負けないくらいの大きな声で叫んだ。
ここからは本当に死と隣り合わせと言っても過言ではない任務が始まる。もう旧市街地の援護班は遥か遠く見えなくなってしまった。
馬の手綱を握っている手が汗ばむ。
いよいよこれからだ…。
長距離索敵陣形を展開させてからしばらく馬を走らせていると、横目に大きな影が見えた。
それと同時に叫ぶ班員。
「名前分隊長!!巨人です!!」
「…通常種だね。信煙弾を撃ってくれる?」
「は、はい!分かりました!」
赤の信煙弾が班員から発射され、次々と他の班が同じように撃つ。
少し間をおいてエルヴィンからの緑の煙弾が見えた。
「私が撃つね。」
私は久しぶりの煙弾を空に向けて放った。
「リヴァイ、あれが通常種の巨人。どう?思ってたより大きかった?」
少し笑みを含みながら尋ねてみると、リヴァイはたった一言だけ、
「間抜けヅラだな。」
と呟くように答えた。
これには私も班員達も顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。
「もう笑わさないでよ。間抜け面だなんてそんな感想初めて聞いたんだけど。」
「本当の事を言っただけだ。」
表情ひとつ変えずに呟くリヴァイ。
どうして彼はこんなに落ち着いているんだろう。
ここに来る前はどんな生活をしていたの?
巨人なんか怖くないと思える程の辛い体験をいっぱいしてきたの?
そんなこと聞けないけど、彼には聞いてみたいことがたくさんある。
リヴァイと一緒に居るとドキドキする、リヴァイのことがもっと知りたい…。
この感情の正体に気付かない程私は鈍感じゃなかった。いつか彼に想いを打ち明ける日が来るんだろうか、その時彼はどんな表情をするんだろうか。
この想いの行き着く先なんて今は全く想像ができない。
でも1つだけはっきりと分かっているのは、私がリヴァイを特別な意味で好きだということ。今までの壁外調査の時には感じなかった「絶対に生きて帰ろう」という思いも、リヴァイへの感情のせいだと思う。
私は手綱を握り直し目的地の方角を見つめた。
でもその時、1人の班員が焦ったように大きな声を上げた。
「名前分隊長!!奇行種です!!」