アネモネの咲く頃に | ナノ


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それから3日後、やっと班の編成と配置決めが全て完了した。決してふざけ合ってたから3日もかかったのではなく、毎回完成までにはこれぐらいの時間がかかってしまう。
索敵班、補給班、荷馬車護衛班など、それぞれの班の役割を考えて班員を振り分けていくのはなかなか大変で…。
年長組から新兵までそれぞれの技量も考えて振り分けないといけないため、この作業は毎回かなりしんどい思いをする。この3日間、それぞれの仕事の合間に話し合いをしてやっと完成させた。


「よしっ!さっそくエルヴィンに見せに行こう!」
「ちょっと名前見せといてよ。私は研究があってすぐに行かないといけないんだ。」
「俺も用が…。」


すぐにエルヴィンに見せるように提案した私だったけど、2人の口から返ってきたのは予想外の言葉だった。


「えーしょうがないなぁ。」


ハンジは研究に行かないといけないんじゃなくて、行きたくて仕方ないのと、ミケのあの表情は絶対に昼寝だな。うん間違いない。


この2人はエルヴィンに見せたらそれで終わりだと思ってるんじゃないだろうか。修正するように言われたらまた会議再開なのに。


「エルヴィンにやり直しって言われたらすぐ呼びに行くからね。」
「もちろん!私は研究室にいるからね。」
「あぁ、分かった。」


(ほんとに返事だけは良いんだから。)


マイペース過ぎる2人の分隊長を見送り、私は1人でエルヴィンの部屋に向かった。



「エルヴィン、名前だけど入って良い?」
「名前か、入ってくれ。」


部屋に入るとエルヴィンが優しい表情で迎え入れてくれた。


「班の編成のことかな?」
「そう。完成したから見て欲しいの。」
「いつもすまないね。それにしても、あとの2人はどうしたんだ?」
「ハンジとミケは…それぞれ仕事が忙しいみたい。」


(本当は2人とも趣味の活動中ですエルヴィン団長。本当にあの2人は仕方のない人達なんです!)


…なんて私の心の叫びは伝わる訳もなく、エルヴィンは優しく微笑んだ。


「そうか。せっかくこうして名前が来てくれたんだ。お茶でも淹れよう。」
「私がやるからエルヴィンはこの紙を見てて!」


さすがに団長にお茶を淹れてもらうのは申し訳なく思い、私は彼の手からティーカップを取り上げ、代わりにさっきまで3人で必死に考え完成させた紙を渡した。



エルヴィンの部屋にある紅茶は、お花の甘くてとても良い香りがして心まで落ち着いた。


「はいどうぞ。」
「ああ、すまない。」
「どうかな?今回の編成は。」


私達のまとめた紙をまじまじと見ているエルヴィンに、ティーカップを渡しながら恐る恐る聞いてみた。


「ああ。これで良いと思うが、名前の班は今回が初めての壁外調査になるリヴァイもいるがどうして右翼索敵に?」
「うん。確かにリヴァイが初めての壁外調査だからもっと中央の方にしようかとも思ったんだけど、他に適した班がなかったのとリヴァイなら大丈夫だって3人で判断したの。」


私の班の配置は最後の最後まで3人で悩んだ。リヴァイは初めての壁外調査だけど、かなり力を付けている。いきなり索敵に配置されるのは普通の兵士だったら厳しいと思うけど、リヴァイならきっと大丈夫。


「随分リヴァイを高く評価しているんだな。」
「うん。リヴァイは凄いよ。この短期間で私達が何年もかけて得た技術をほぼ体得しようとしているもの。何よりもリヴァイの素質を見抜いたエルヴィンが凄いと思う。」
「そうか。名前がそう言ってくれるなら間違いないな。」
「それにすぐ隣の索敵支援班にハンジの班をつけたから、もし何かあっても安心だよ。すぐ助けに来てくれると思うから。」
「ハンジの班か。よし分かった、今回はこれで行こう。」
「やったぁ!」


合格を言い渡された私は思わずガッツポーズをした。さようなら会議漬けの日々!


「随分と嬉しそうだな。」
「そりゃ嬉しいよ。修正しなくて良いんだもん。」
「名前はリヴァイがここに来てから表情も感情表現も豊かになったな。」
「そうかな?…でも、それ最近よく言われるの。」


エルヴィンは私の過去を全部知っている唯一の人。訓練兵時代からの同期であるハンジにさえ話せていないことも全て…。


「最近はね…あんまり孤独に感じなくなったの。忙しくてそれどころじゃない感じ。無理して笑うとリヴァイに気持ち悪ぃって言われるし…。」
「そうなのか。」


エルヴィンは私の言葉に少し驚いた顔をした。


「うん。最初はリヴァイと衝突もしたけど、最近は嫌な奴じゃないって分かった。それにリヴァイとの事で心配してくれるハンジや仲間達にも、頼りたいなって思ってきたの。」


本当にリヴァイが調査兵団に来てから自分の中の色々な事が変わりつつある。粗暴で神経質で不器用でほんとは優しい男が1人来ただけで、何でこんなに変化しつつあるんだろう。


「そんな話を名前から聞けて嬉しいよ。」


そう言ってエルヴィンは私の頭を優しく撫でてくれた。温かくて大きな手に私は目を細める。


エルヴィンは優しくて、あまり記憶に無い私のお父さんもこんな人だったら嬉しいなっていつも思う。


今日はエルヴィンとゆっくり話せて良かった。壁外調査の日まで、まだまだやるべきことはたくさんある。
どんなに大変でも、全力で頑張ろうと思えた。




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