アネモネの咲く頃に | ナノ


  08


エルヴィン達との会議の後、私がその足で訓練中のリヴァイのもとへ向かったのは、どうしても伝えたい事があったから。


訓練場に着くと、リヴァイは真剣な表情で立体機動装置の整備をしている所だった。


「リヴァイ、ちょっといい?」
「名前か、何だ。」
「今ね、次の壁外調査についての会議があったの。次の壁外調査は2週間後を予定するんだって。」
「…そうか。」


壁外調査って聞いても全く動じないどころか表情一つ変えないなんて、やっぱりリヴァイはただ者じゃない。みんな初めての壁外調査なんて恐怖で自分を見失いそうになるのに。


「それでね、リヴァイは私の班に入る事になったの。」
「そうか。ヘマして俺の足を引っ張るなよ。」
「なっ!?そっちこそ!…ってこんな事を言いたいんじゃなくて、私が言いたかったのは……ちゃんとリヴァイのこと守るからってこと。例え私が死ぬ様なことがあってもちゃんと守るからね。」


リヴァイは何も言わずにただこっちを見ているだけだった。いつもみたいに不機嫌な顔はしてないけど、その表情からは感情が読み取れない。


(きっと余計なお世話だとか思ってるんだろうな。)


「とにかく、それを言いたかったの。訓練中に邪魔してごめんなさい。」


何も言ってこないリヴァイとの空間が気まずくなって、足早にこの場を立ち去ろうとした時、ふいに掴まれた私の腕。
あまりに突然のことに胸がドキッと高鳴る。


「おい、名前。」
「な、何!?」
「お前あんまり責任感じて無茶すんじゃねぇぞ。」


リヴァイの口から出た言葉があまりに意外なものだったから、私は今きっと変な顔をしていると思う…。


「おい聞いてんのかマヌケ面。」
「ちゃ、ちゃんと聞いてるから!まさかそんなこと言われるなんて思って無かったからびっくりしたの。」
「……フン。」


そう言ってリヴァイは私の腕から手を離した。


「…リヴァイは優しいね。」
「何だいきなり。」


リヴァイはすっごく怪訝な顔を向けてきたけど、彼が本当は優しいことを私はもう知ってる。一見分かりにくくて、不器用な優しさだけど。


「でもね…リヴァイ。私はリヴァイや仲間を守る為なら何だってする。みんなを守る為の無茶ぐらいはさせてよ。…じゃあまたね。」
「…名前、待て…。」


リヴァイは私を呼び止めようとしたけど、私は1度もリヴァイの方を振り返らずに自室を目指して走った。


リヴァイに掴まれていた腕がまだ熱く、顔まで熱い気がする。胸の鼓動もまだうるさいままだ。こんな事は生まれて初めてで…。一体自分はどうしてしまったんだろう。


(私、もしかしてリヴァイのこと…。)


いや、今は次の壁外調査のことに集中しないといけない。
班の編成や配置を始め、この2週間やらなければいけないことは山積みなんだから。


(今はこのドキドキの正体を考えるんじゃなくて、みんなを守る事を考えないと。)


そう思って首を横に振ったけど、その日、胸の高鳴りはなかなか鳴り止んではくれなかった。




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