君の知ってる僕は半分


アルヴィンには最近悩みがあった
今までに人を騙し欺いて生きてきたため、人と付き合うのは上手い方だと自分でも思っている
現に初めて合ったジュードやミラともすぐに溶け込めた
数回疑われかけた事もあったが、それを誤魔化すことは容易かった
人と関わるにあたって、アルヴィンは常に自分との間に壁を作っていた
これがあれば、素の自分を隠し、嘘の自分をいくらでも作ることが出来たからだ
例え誰かが壁を超えてこようとしても、さらに壁を作れば問題無かった
そんなアルヴィンの自己防衛とも言える行為を完全に無視する存在が現れた
それが最近の悩みの元とも呼べるレイア・ロランドだった
彼女はアルヴィンが今まで会ったことのないタイプの人間だった
年上にため口で話す、さらには君付けで呼ぶ、いきない難易度の高いハイタッチを要求してくる、
少し思い出しただけでも、これほど疑問が浮かんでくる
なにより、あの人のペースを乱す感じがどうも好きになれなかった
と、レイアについてあれこれ考えを巡らせてたら、向こうから声が聞こえた


「おーい!アルヴィン君!」


その声の主は、今アルヴィンを悩ませている張本人、レイアだった


「おう、どうした、レイア?」


思考を一時中断し、いつもの様に作り笑いを顔に貼り付ける


「皆がそろそろ出発するって。だからアルヴィン君を探しに来んだよ」

「ん、分かった……で、おたくはなんで俺を探しに来んだ?」


彼女の話によると、ジュード達はレイアにアルヴィンを探してきてとは頼んでない
つまり、彼女が自分からアルヴィンを探しに来たのだ
アルヴィンからしてみたら、それはひどく可笑しく思えた


「なんでって、アルヴィン君が見当たらなかったからだよ?」


当然だと言わんばかりに、レイアは言う


「そうか。じゃあ俺を見つけた事だし、早く帰ったら?俺ももう少ししたら行くから」


悩みの元とも言える人と今は話す気は起きず、アルヴィンはレイア冷たくあしらう
だが、それは彼女の一言により、無意味に終わった


「そんなこと言って、どうせまた一人でどっか行っちゃうでしょ?」


そう問いかけ、返事を聞く前にアルヴィンの手を取った
かと思うと、もうすでに手を引き歩き始めていた


「ちょっ、レイア!」


突然の事に頭が付いていかないアルヴィンに、レイアは「してやったり」とでも言わんばかりの笑顔を向けた
いきなり手を引かれたために、バランスを崩しかけたがそこはなんとか転ばずにすんだ


「こうでもしないとアルヴィン君は一緒に来てくれないでしょ?」


決して悪そびれる気が一切なく、だからこそその行動にも清々しさを感じられると同時に、少し苛立ちも感じてしまった


「だからって、いきなり引っ張ることも無いだろ?」


もう諦めたのか、おとなしく後ろを歩くアルヴィンはレイアにその感情が気づかれない様に取り繕いながら、小さな不満をこぼす
そんな小さな不満に気を悪くするでもなく、レイアは急に止まり、後ろを振り返った


「じゃあさ、私があそこでアルヴィン君の手をとらず歩いても、ちゃんと私の後ろついてきてくれた?」


その『どうせついてきてくれないでしょ?』などと自分を分かりきったかのような発言に、アルヴィンの苛立ちが増す
案の定、そのあとにレイアは「絶対ついてきてくれないもん」と言い、むくれる
そして「でしょ?」と首をかしながら目を合わせる


「……」


この短時間にコロコロと表情を変えるレイアからなぜか目をそらせないでいる
そんなレイアを見ていたら、さっきまでの苛立ちが嘘のように消えていった


「あっ!やっと力抜いたね!」


いきなりそんな事を言うものだから、アルヴィンは驚き、目をそらして明後日の方向を向いてしまう


「んなこと、なんでわかるんだよ……」

「アルヴィンってさ、いつもここんとこをギューってしてるでしょ?」


自分の眉間を指さしながら、レイアはここだよとアルヴィンに示す


「でもほら、今はギューってなってないんだよ。……自分でもわかる?」


そんなとこ、自分じゃ見れないからわかるわけないだろ、と思いながら確かに、普段より目元が疲れないなと感じる自分がいた


「……まぁ」


自分でも何が何だかわからないため、今はそう答えることが精一杯だった


「皆でいるときも、そうやって力抜いてればいいのに」


また歩き始めてしばらく経ち、皆の声が少しずつ大きくなってきた頃にふと言われた


「私……もっとアルヴィン君のこと、知りたいな。だけど……」


今までつないだままだった手を話され、少し手が寂しくなる


「皆にはなんでかわかんないけど、知られたくない。だから、早くいつも通りのアルヴィン君になってから来てね!」


そう言い残し、彼女は走り去って仲間の元へ行ってしまった
今まで、自分が周りに取り繕っていることに気づいた人が何人いたのだろうか
否……気づいた人自体がいたのだろうか
多分、いないだろう
そんなアルヴィンの行為を見抜き、さらには『もっと知りたい』と言った彼女
そんな彼女だからこそ、今まで以上に警戒しなければいけなかったのに、簡単に壁を壊されてしまった
彼女の事で悩んでいたからこそ、彼女の侵入を許してしまった
そして……自分の弱さとも言える部分を見せてしまった


「早く、いつもの調子に戻さなきゃな……」


そう思うのに、彼女の言葉が頭から離れず、それが出来ないでいた


「レイアになら……アルフレドで……」


接してもいいのか?
いや、接したいと思った


「……俺、なんでそんなこと……」


なぜこう思ったのか、自分でもわからなかった
でも、レイアになら自分を曝け出しても良いと思えた


「んなこと、思ったこと一度もなかったのに……」


そして……レイアにアルフレドを知って欲しいとそう願う自分がいた
なんで、と問いかけても答えてくれる人は誰もいなかった








 

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