短編 | ナノ


▼ ハローハローグッバイ!


「え、嘘。」

「嘘なんかじゃねぇし」


日付、ついでに年がバトンタッチする約15分程前の事。目の前の燃え滾るような紅い髪の男は少々ぐちゃぐちゃになった書類を両手でひらひらさせながら意地悪く笑っている。

因みに、男の耳には瞳の色と同じ金色に輝くピアスが嵌められていた。書類には、殴り書きの様な汚い字が並べられている。この書類は此処最近の事件などのレポートだ。


男の名前はアラタ。このガルシアファミリーというマフィアを仕切るボスである。

短気で血の気が早く、喧嘩っ早い彼の性格から、色々と怖がっている輩も居る位だ。

アラタは、国内でもトップクラスの強さを誇る一流マフィアのボスである事。それは良いのだが、こうして毎月レポートという悪夢に魘される事には飽き飽きしていた。

否、彼にとっては初っ端からやる気失せる一環であるこの報告書作り。机に向かって数十分もしない内に投げ出してしまう彼は、ファミリーでもある数々のイベントにはほぼ不参加で、報告書作りに明け暮れていたという事例が多々ある中、誰もが今年の正月も不参加だと思い固めていた所だった。


そんな彼が、見た目は雑だが既に全て書き終わったであろう報告書を両手にひらひらさせながら意地悪く笑っている。



「終わったの?」

「まぁな、お陰様で」



そう得意げに笑ってみせる彼。

そして、先程から信じられないとばかりに大きな瞳をぱちくりさせている少女は彼率いるガルシアファミリーの幹部だ。彼女は、両親をマフィア同士の乱闘で失い、アラタに助けられ、今ここにいる。

最近では裏で伝説のマフィアを蘇らせ、天下統一を目指しているイグラシア教会、否、イグラシアファミリーとの戦いに明け暮れていた。



「・・・良かったね、」

「何で嫌そうなんだよ」

「別にー」



別に嫌では無いのだが。

というか、そんなに嫌そうな顔をしていたのだろうか。少し不安になり、自分の頬を突っぱねてみる。

するとケラケラとアラタに笑われる訳で。


「・・・笑う事ないでしょ」

「いや・・・、あれは、ない・・・っ」

「黙れ何時まで笑っとんじゃこのアホタ死ね!」

「休め休め。句点を入れろ(笑)」

「(笑)じゃ無いでしょ!さっきまで変な雄叫び上げながら机と睨めっこしてた癖にっ!」

「うっせ」


アラタに睨まれ、口篭る。すると点けていたテレビが新年を迎えた事を告げた。

しめた、そろそろと微妙に揺れ動く右手がリモコンに伸びる。するとその右手に気が付いたアラタが乱暴にその右手を払い、掴んだ。

そしてそのまま壁へと投げられて。投げることは無いだろ!と文句を付けるとアラタの顔が近づいて来て、やっと自分の置かれている状況を把握できた。


掴まれていた手は開放され自由になったが両サイドをアラタの手で囲まれる。目の前には晴矢。後ろは壁であって、背中はピタリとついている。四方を囲まれた。逃げ道は、無い。最悪だ。

こう調子に乗ってきたアラタは歯止めが利かない。思う存分遊ばれる。


最後の手段として私が使用したのは、カイリ達との“新年明けましておめでとう、今年があの憎きイグラシアを捕る本番だ!頑張ろう!あれ、俺達ってこんな悪いマフィアだったっけ。まあどーでもいーよね楽しけりゃ!パーティ”の事である。既に危ない唇を重々しく開く。



「ア、アラタ。年明けちゃった、よ。パーティ行こう?ね?」

「嫌だ。今更行っても遅ぇだろ。だりィ」



完全に拒否された。だが私は諦めない。まだ希望は残っている。アラタだって昨日からカジノで潜入捜査。捜査って訳でも無かったが35、6時間ぶっ通しで結構疲労が溜ってる筈だ。

それに私はパーティに行きたい。アラタが大人しくしてくれていれば、私は思いっきりパーティに行ける筈だ。



「なら、寝たら?アラタだって疲れてるし、ね。だるいな、んっ・・・!むぐぅ、」



がしっ。思いっきり、頬を掴まれる。変な顔、と笑うアラタが憎たらしい。お前の所為だろ。

負けずとアラタを睨めば「おー、怖い怖い」と馬鹿にされる。

本当、この馬鹿殺っても良いだろうか。



「・・・パーティ、行くか」

「え、良いの!?」

「良い訳ねぇだろ馬鹿か」

「だと思ったよ!もう死んでしまえこの糞ドS!」

「黙れドMが。どうせ俺が寝ればお前は楽しいパーティに行けるとでも思ってたんだろ。残念だったな。今年は二人共不参加だ。」



目の前で意地悪く笑う男に無償に腹が立つ。

いっそこのまま首を絞めてやりたい気分だ。だが先程から私達の体制は変わらない。

否、アラタが先程より近くなってる気がする。


黄金の切れ長の瞳からは男らしい雰囲気が醸し出る。その下から伸びる亀裂は印象的だ。意地悪く笑う彼も、太陽の様に笑う彼も、格好良いと、思う。これなら他の女の子達から人気があるのも可笑しくない。

だが今はそんな事を考えている場合ではない、と思い直す。



「嫌だ!私はパーティに行きたいの!!」

「駄々捏ねんじゃねぇよブス。大人しくしてろ。今年の新年パーティは二人でやろうぜ」



また抵抗しようとしたら、「お前、置かれている状況が分かってねぇようだな。」とより一層距離を詰めてくるアラタ。

これ以上アラタに歯向かうと、こいつの性格だ、危機感を持った所でもう遅いだろう。



「・・・・・・・今年だけだからね」

「おす」



もう、本当に敵わない。本当に腹立つ。萎える。

これじゃ良いムードの一つ出来やしない。何がしたいんだ、こいつは。大人しくパーティに来れば良いものを。


じりじりと距離が先程から全く変わらない。アラタは顔を近づけるも、ギリギリの所で止める。どうやら私を焦らそうとしている様だ。糞、このドSめ。

一時置いて、アラタが漸く口を開く。



「お前に、プレゼントっつー物があるんだがな、」

「プレゼントって、」



確か、この前のクリスマスの時の物だろう。前記にもあったが、彼はクリスマスの時も、一人だけ報告書作りをさせられていたのだ。自業自得である。

だがその為に彼は私の為に買っていたクリスマスプレゼントという物も渡せず、雰囲気も作れず、一人寂しく机と睨めっこで一夜を過ごしたのである。勿論、私は翌日彼にプレゼントを渡したが、張本人は忘れたという。

だから、今日という訳か。何だ何だと期待に胸を膨らませていたが、手の中から出てきたのは期待から大きく逸れた物だった。否、実際そんな胸無いんだけどね。



「―――は。」

「“は。”って何だよ。高かったんだからな、此れ。」

「高かったって、幾等なんでも此れは無いよアラタ!リボンは無いよ!古いよ!」

「つべこべ言ってんじゃねぇ。折角の俺様からのプレゼント、大事にしやがれ」



出て来たのはリボンだった。それも、只のリボンではない。ご丁寧にファーとフリルがあしらわれている。そしてド真ん中には鈴が。無駄にデカく派手なそれは、只のリボンでは無かった。だが失望は大きい。

もっと、プレゼントと言えばアクセサリーとかだろ。否それしか無いだろ。だけど何だ、この目の前のは。リボンってなんだリボンて。何の時代だよ、古すぎる。それに自棄に誇ってるし。

だが、そのリボンからはちゃんとした彼の“気持ち”と言うものが感じ取れた。これが、彼なりの“愛情表現”なのだろう。

ちょっと、ちょっとだけだけど、嬉しい。




「時期的には遅れたけどな、首にでも付けとけ。一生お前は俺のだって、見せ付けてやれ」




私はお前の犬か!





   NewYear:( 世界が消えてなくなるまでの3秒でキスを交わそう )




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