帰ることのできない場所にきて、どうにか手に職を持つことが出来たのは幸運だった。
そんな風に考えながら、ナマエはしみじみと拳を握りしめた。
重たい酒樽を運ぶことに慣れた掌は硬化しているようだが、それを今更悔いるつもりもない。
気の良い店主に気に入られ、ベリーを稼ぐ術を見つけて生きていけるようになったのだから、これからもしばらくはこのままでいるつもりだ。
そんな決意を胸に町中を歩いていたところで、すれ違った町人の声がふとナマエの耳へと入った。
「おい、港の船見たか?」
「ああ、見た! ありゃあ『白ひげ海賊団』だぜ!」
聞こえた言葉に思わず足を止めて、ナマエの目が歩いていく通行人を見やる。
もちろん知り合いでも無い彼らはナマエに気付くことなく離れて行ってしまい、それをしばらく見送ったナマエの視線が港の方へと向けられた。
「……『白ひげ海賊団』」
耳慣れないようで耳慣れた、知らない筈なのに知っている海賊団の名前を口から紡いで、ナマエはそれからきょろりと周囲を見回した。
相変わらず町中は人が溢れているが、今のところまるで見たことのない通行人は見当たらない。
ナマエの知る噂によれば、『白ひげ海賊団』はそれほど悪辣ではないらしい。目が合った瞬間に絡まれるようなことはないだろう。
そして、多数の賞金首を抱えた、ある意味では有名人集団でもある。
見てみたいな、と少しばかり考えてみたものの、まさか見知らぬ人間を見かけたらいちいち『白ひげ海賊団の人ですか』と尋ねるわけにもいかない。
「……あ、うちの店には来るかな」
海賊と言うのは酒好きだと思い出して、ナマエはぽつりと呟いた。
彼は、恐らくこの町で一番だろう酒屋で働いているのだ。
店番じゃない
店番でした
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