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「………………」

 これは、何やらまずい気がする。
 そう把握したナマエは、一呼吸吸い込んですぐに、その場から素早く駆け出した。

「待てよい!」

 後ろからどうしてか声が掛かったが、振り返っている余裕も、『なんで待たなきゃいけないんだ』と訊ねてやる余裕もない。
 真後ろで駆け出した足音がしたのを聞いて、ナマエはすぐさま道を横切り、人ごみへと紛れ込んだ。
 海軍の中で戦う術よりも先に覚えた『逃げ』は、誰にも負けぬ自信がある。
 海兵が逃げてどうするつもりだと唸ったのはナマエ達を鍛えた教官だったが、人間兵器のような彼らからのしごきを受けなくてはならない立場になった時、ナマエは更に逃げの技法を学んだのだ。
 痛い思いや怖い思いをしたくないのなら、とにかく逃げるしかない。
 受けてたっていてはいくら体があっても足りないですと、そう言ったナマエに拳骨をくれようとしたのも確か教官だった。
 人ごみの中を縫うように進むナマエを追いかけた『海賊』が何かを引っかけたのか、時折後ろから軽い悲鳴や怒号が上がる。
 それらを無視して追いかけてくる気配を感じながら、ナマエはあまり体格の良くない自分の体をうまく使って人影や物陰を伝い隠れ、どんどん遠くへと逃げていく。

「おい、待て、ナマエ!」

 なぜ『不死鳥マルコ』がナマエの名を知っているのかは知らないが、無事に逃げおおせた以上、ナマエには知る必要も無いことだった。



end

リセット