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「そうなんですか、おめでとうございます」

 打ち明けられた言葉を受けて祝福の言葉を述べたナマエは、それじゃあ、と呟いてからその場で屈みこんだ。
 カウンターの内側にある酒瓶の一つを掴まえて、それのラベルを検める。
 いつだったかの古酒市でナマエが買いつけてきた酒を一つ掴まえて、立ち上がったナマエはそれを目の前の相手へと差し出した。

「これ、おまけです」

「お? いいのか?」

 前へと差し出したそれを見て、コックコートの男が少しばかり不思議そうな顔をする。
 それへ向けてはいと頷き、ナマエは更に相手の方へと酒瓶を近付けた。
 古酒市で購入したその酒は、ナマエが初めて目利きしたものだった。
 記念に持っておけと店主に渡されたのだが、ナマエはもともと強い酒を好まないので、所持していても酒を熟成させることしかできない。

「その代わり、次に買い付けにいらっしゃったとき、よかったら感想をきかせてください」

 俺には飲めないので、と言葉を繋げると、その言葉を聞いた『海賊』がナマエと酒瓶を見比べてから、それじゃあ遠慮なく、とその手でナマエが差し出した酒瓶を掴まえる。

「今日の主役に飲ませてみるわ。ありがとな、兄ちゃん」

 そうしてにかりと笑って言い放った男に、ナマエも笑顔を返した。







 倉庫の半分が空になるだなんてこと、今までにあっただろうか。
 機嫌のいい店主に夕食を振舞われたナマエが店から送り出された時、見上げた空はすっかり黒く染まっていた。

「あー、働いたなァ」

 しみじみと声を漏らして、それから大きく伸びをする。
 今頃、『白ひげ海賊団』はどこかの店か船の上で誕生日祝いの宴でも行っているのだろうか。
 それとももうお開きの時間だろうか、なんて考えながら夜更けの道を歩いていたナマエがふと足を止めたのは、海沿いに続く道の先に、壁へもたれかかっている男の姿を見つけたからだった。
 ふわりと揺らいだ向かい風が潮の香りの中に混ぜ込んだ酒の匂いと、ぐでんぐでんになっているらしい男の様子に、酔っ払いらしいということを理解する。
 外灯の近くで今にも座り込んでしまいそうな男の姿に、うわ、とナマエが声を漏らした。

「あの人、大丈夫かな……」



ほっとこう

介抱しよう

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