紙袋の中身は、ナマエの傍らにいる誰かさんの誕生日プレゼントだ。
それを考えると秘密にしていた方がサプライズの時に驚かせることが出来るような気がしたが、少しばかりマルコの顔を見やったナマエは、その考えをすぐさま放棄した。
片手で袋を支えながら口を開いて、それから袋を傾けて、中身が相手に確認できるようにする。
「マルコ隊長の誕生日プレゼントです」
そうして言葉を向けると、言われたマルコの方がわずかにその目を丸くした。
つい、とその目がナマエの方から逸らされて、何かを確認するようにわずかにさ迷ったあと、ようやく今日の日付を思い出したのか、ああ、と小さく声が漏れる。
「……そういや、そうだったよい」
忘れてた、と続いた言葉に、ナマエは軽く首を傾げた。
「船、騒がしくしてなかったですか?」
大所帯の白ひげ海賊団では、クルー達それぞれの誕生日を逐一祝ってはいられない。
それでもその例外となっているのが船長と、そして十人余りの隊長格達で、マルコも当然『宴』を開かれる対象だ。
不思議そうなナマエを見やり、騒がしいのなんていつものことだろいと呟いたマルコが、はあ、と軽くため息を零した。
「あいつら、わざとあんなにぎりぎりで書類を持ってきたんだろうねい……」
「わざとですか」
「あんだけ大量に持ってこられたら、おれだって対応しなくちゃなんねえだろい」
それじゃあ船を降りられないし酒場にも行けやしねェ、と続いた言葉に、なるほどとナマエが頷く。
確かに、祝うための宴を開くのに主役が不在なのは問題だ。そしてサプライズ好きなクルー達のこと、マルコに直接『誕生日祝いをするから船にいろ』なんて言えなかったに違いない。
何とも遠回しで迷惑な手法だ、とまで考えてから、あれ、とナマエは声を漏らした。
「でもマルコ隊長、降りてますよね」
ナマエがいるこの大通りは、モビーディック号から一番近かった港町のものだ。
当然ナマエが佇んでいるのは陸の上で、マルコだってそうだろう。
あえて部屋に缶詰めにされていたのなら、ナマエがマルコと遭遇することなどあり得なかったのではないだろうか。
不思議に思ってナマエが見上げると、マルコがじろりとナマエを見下ろした。
それから、伸びてきたその手がナマエの手から串を奪い取り、肉の最後の一かけらがその口へと吸いこまれる。
「あ」
「……んなことより、さっさと帰るよい。ほら、来い」
ナマエの貴重な食料を齧り、もぐもぐと頬を膨らませて咀嚼したマルコは、それから串を片手に足を動かし始めた。
すたすたと歩き始めた相手に、慌ててナマエもその後を追いかける。
開いていた紙袋を閉じ、待ってくださいと言いながら横に並ぶと、もう一度マルコがちらりとナマエを見やった。
「マルコ隊長、あの」
「……どっかの誰かさんがあんまりにも帰ってこねェから、迷子になってんじゃねェかと思ったんだよい」
視線を受け止めて話しかけようとしたナマエの方へ、そんな風に言葉が落ちる。
まあ無事だったみたいだけどねい、なんて続けたマルコの隣で、ナマエはぱちりとその目を瞬かせた。
それはつまり、心配してくれたということだろうか。
そんな風に考えが到ると、途端にどこかがこそばゆい気持ちになって、へらりとわずかに口元が緩む。
弛んだナマエの顔に気付いてマルコがわずかに眉を寄せたが、怒っているのとは明らかに違うその顔に、ナマエの顔は引き締まることを知らない。
「マルコ隊長」
「……何だよい」
「誕生日、おめでとうございます」
感謝の気持ちを込めて言葉を紡いだナマエに対して、しばらくの沈黙ののち、ありがとよい、とマルコが応えた。
その声があまりにも柔らかで優しげだったものだから、ナマエの顔はやっぱり引き締まらないままだった。
end
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