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 時間はいくらあっても足りないのだから、船で食事をとっている余裕はないだろう。
 そう考えたナマエは、昼食を島でとることに決めて船を降りた。
 相変わらず有名な『白ひげ海賊団』の船は、島内の集落や町からそれほど離れていない場所へ着岸していて、ナマエ一人でも移動には全く問題がない。

「うん、いいものが買えたな」

 ナマエがそんな風に一人呟いた時、空はオレンジ色に染まり始めていた。
 入り込んだ賑やかな町中で昼食すら後回しにして探し回ったおかげで、随分と良いものが買えた。
 これと、船に置いてある『プレゼント』を合わせて渡せば、どちらか片方くらいは喜んでもらえるだろう。
 いい買い物をしたとにまにま口元を緩ませながら考えて、ナマエの手が紙袋を抱え直す。
 その途中でぐう、と腹が音を立て、明らかな空腹を主へと訴えた。
 それによって自分が空腹だったことを思い出したナマエの目が、きょろりと周囲を見回す。
 もうじき夜が来る。
 船に戻れば『宴』の準備が始まるのは間違いないことで、腹いっぱいに食事をとる時間もなければ必要も無いが、小腹くらいは満たしてからいかねば準備の最中にぐうぐうと腹を鳴らすことになるだろう。
 さすがにそれは恥ずかしいなと考えて、ナマエは目にとまった屋台へと近付いた。
 いらっしゃい、と声を掛けてきた店主の手元で、何の肉かは分からない肉がいくつか串に刺され、じゅうじゅうと小気味よく音を立てている。

「すみません、一串」

「あいよ!」

 言葉と共にベリーを差し出したナマエへ、店主は元気よく返事をして焼きたての一串を差し出した。
 タレまみれのそれを片手で受け取って歩き出すのを再開しながら、ナマエが行儀悪く串に刺さった肉切れの一つへ噛り付く。

「あ、うまい」

「へえ、どれ」

 初めて食べる風味の味わいにナマエが呟いたところで、そんな風に声が掛かった。
 それと共に串を掴んでいたナマエの手が掴まれて、ぐいと後ろへ引っ張られる。
 驚いたナマエがそれを追うように視線を向けると、ナマエが購入した食料に噛り付く男の顔が視界に入った。
 人の肉をもぐりと噛みしめ、まあイケるねい、なんて言いながら唇についたタレを舐めた相手に、ぱち、とナマエが瞬く。

「……え、マルコ隊長?」

 どうしてここにいるのだろうかと、戸惑ったナマエの口からはそんな言葉が漏れた。
 それを聞き、ナマエの手を逃がした海賊がナマエの隣へと並ぶ。

「一日中書類とにらめっこしてつかれちまったからねい、抜け出して来たんだよい」

 気分転換だ、と続けた上で、少し眠たげにも見えるその目がナマエを見下ろした。

「誰かさんがおれを手伝ってくれねェからだよい」

「あ、いやその……」

 そうして放たれた言葉に、ナマエはどうしてマルコが自分を呼んでいたのかにようやく思い至った。
 ナマエ自身はあまり自分を優秀だとは思わないが、マルコは書類が多くなった時、よくナマエを呼ぶのだ。
 すみません、と謝ろうとして、しかし自分が相手に『居留守』じみたことをしたと思い出したナマエの手が、自らの口を封じる為に串の肉を押し込む。
 やはり旨いそれを噛みしめ、ごくりと飲みこむ間に言葉を選んでから、ナマエはそろりと口を動かした。

「それは大変ですね、お疲れ様でした、マルコ隊長」

「まだ終わってねえんだよい。お疲れさまも何もねえ」

「船に戻ったら手伝います」

「おう、そうしろい」

 ナマエの言葉に偉ぶって頷いたマルコは、ナマエの言葉ににじんだ誤魔化しに気付いているのか気付いていないのかも分からないほどにいつも通りだ。
 そのことにほっと息を吐きながら、とりあえずナマエが最後の肉を口に入れようとしたところで、ところで、とマルコが言葉を放ちながらナマエの方へと手を伸ばした。

「何を買ったんだよい?」

 そして尋ねながら軽く紙袋を引っ張られて、あ、とナマエは声を漏らした。



教えない

教えた

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