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 ちょうど昼食時であることだし、軽く食べてから島へ降りることにしよう。
 そう心を決めて、ナマエはその足を食堂へ向けた。
 相変わらず騒がしい一部屋だが、いつもよりずいぶんと人が少ない。恐らく、そこにいない半数以上は島へと降りているのだろう。
 自分も早くそちらへ行こうと心を決めて、ナマエは置かれた大鍋から自分が食べる分を皿へと盛り付け、トレイと共に一つの椅子へと座った。

「頂きます」

 両手を揃えて一礼し、その手がスプーンを掴まえる。
 柔らかく煮込まれた何かの肉入りのシチューらしきものを口へ入れたところで、とん、とその肩が叩かれた。

「ナマエ、帰ってたのかよい」

「んぐっ」

 そうして真後ろから放たれた声に、ナマエの口からはおかしな声が漏れた。
 それから、ぎしりと体を軋ませて振り返ると、そこには見間違えようのない髪形の海賊が佇んでいた。

「マルコ隊長……」

「島へ降りてたんだって? 何かいいものあったかよい」

 とりあえず口の中身を飲みこみ、それからその名前を呼んだナマエへ笑い、そんな風に言ったマルコがナマエの傍らの椅子を引く。
 片手に持っていたトレイを置いて座り込んだマルコに対して、はいともまあともつかぬ声を盛らしつつ、ナマエはわずかにその目を泳がせた。
 まさか食堂にマルコがやってくるとは思わなかった。
 いや、しかし今は昼時だったのだから、その可能性の方が高かったのだ。想像力の無い自分を嘆きたい。
 何とも言えない気持ちでとりあえずスプーンを掴み直したナマエをよそに、食事を始めたマルコがかちゃりとスプーンの端で皿を叩く。

「まあちょうど良かった。まだ全然終わらねェんだ、ナマエ、お前も付き合えよい」

「えっと……何をでしょうか」

「書類整理に決まってんだろい」

 今はサッチが残ってやってる、なんて放たれた言葉に、なるほどとナマエは一つ頷いた。
 どうやら、マルコがナマエを呼んでいたのは、事務処理の助けを求めてのことだったようだ。
 ナマエ自身はあまり頭がいい方とは思えないが、他のクルー達に任せるよりは早いからと、よくマルコはナマエにそれを任せていた。
 しかし、もしも朝からやっていたとしても、昼食時になっても終わらないほどの量があるのかと思うと、空恐ろしくもなる。
 きっと今頃うんざりした顔で書類を仕分けているだろうサッチを思い浮かべ、その横で同じくうんざりした顔で書類を見ていただろうマルコまで想像したナマエは、こくりと一つ頷いた。

「はい、わかりました。食事が終わったら、すぐお手伝いします」

 本当なら島へ降りたかったところだが、事情が事情だ。致し方ない。何ならプレゼントは後で追加を渡してもいい。
 そんなことを考えながら放ったナマエの言葉に『うむ』と頷き、マルコの手が自分の口へと料理を運ぶ。
 大きな一口分を咀嚼し飲みこんでから、唇の端についたものを舌先で舐めた誰かさんが、その口元をにやりと歪めた。

「なんだ、もう一回逃げるかと思ったが観念したのかい」

「…………」

 いい心がけだ、なんて言って笑った相手に、どうやら一度目の招集を拒んだことがばれていると気付いたが、ナマエはひとまずそ知らぬふりをすることにする。
 書類塗れで夕方までを過ごした後、開かれた宴で手渡したナマエのプレゼントを不死鳥マルコは笑顔で受け取ってくれていたが、ナマエは一人でこっそりとリベンジを誓っていた。


end

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