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 買ってきた服はまだ水通しのために洗濯と乾燥中だったから、下着以外は俺の服を適当に着せて、濡れていたマルコの髪も乾かしてやって。
 それから俺が風呂に入って出てくれば、もう寝る時間だった。
 初めてでもないだろうに、風呂に疲れたらしいマルコはまだぐったりとしている。

「……よし、寝るか」

 マルコは小さいから、ベッドが一緒でも大丈夫だろう。
 そう判断して、俺はマルコを捕まえて一緒にベッドへ転がった。
 真っ暗にしたら怖がるだろうかと、電気は微灯設定にしておく。

「ほら、ちゃんと被っとけ」

 タオルケットをきちんと掛けてやりながら、俺は傍らを見やる。
 もぞもぞと寝るポジションを取っていたマルコが、肩口までタオルケットに包まれながら、俺の顔を見上げた。
 薄暗い室内に少しずつ慣れてきた俺の視界に、こちらを見上げるマルコの大きい目が映る。
 それを見返しながら、そういえば、と俺は口を動かした。

「マルコ、牛乳は飲めたよな?」

「のめるよい。マルとサッチはあさはぎゅうにゅうって、よんばんたいちょーがいってたよい」

「隊長?」

「よんばんたいちょーはたたかうコックさんよい」

 俺の知っているコックは戦わない筈だが、それは本当にコックだろうか。甚だ疑問だ。
 とりあえずマルコが牛乳が飲めるということははっきりしたので、そうか、ととりあえず頷いておく。
 明日からは、朝には必ず牛乳を出そう。
 小さな子供にカルシウムは必要不可欠だ。
 俺の言葉にそうよいと返事をしたマルコが、それから不思議そうにその目が瞬く。

「……ナマエは、なんできくよい?」

 小さな声が囁かれて、俺は首を傾げた。
 何の話だろうかと思って見ていると、マルコが言葉を重ねる。

「きょうなんかいも、マルに、たべたことがあるかきいたよい。なんでよい?」

「……ああ、お前にアレルギーが無いか俺には分からないから」

「あるれぎー?」

「アレルギー」

 聞いたことのない単語らしいそれを間違えるマルコに訂正してやりながら、どうにか言葉を噛み砕いて説明する。

「たまに、特定の食べ物や植物や動物と体が合わない人がいるんだ。触ったところが腫れたり、くしゃみがとまらなくなったり、痒くなったり、ショック症状になったりする。マルコにそういうものが無いか確認してるんだ。食べた事のあるものなら大丈夫だろうと思ってるんだが」

 一番はちゃんと検査したほうがいいのかも知れないが、血液検査は時間が掛かるし、マルコの保険証も無い。
 何より、異世界から来たマルコをちゃんと検査できるのかも不安だ。
 それに、このくらいの年齢の子供は注射なんて苦手だろう。
 俺の言葉が理解できなかったらしく、マルコは首を傾げた。
 とても不思議そうに見つめられて、ううむ、と小さく唸る。
 参った、これ以上の易しい説明が浮かばない。

「……まァ、俺が勝手に心配しているだけだから、そんなに気にしなくていい」

 とりあえずごまかしてしまおうとそう言葉を落とすと、マルコの目がぱちぱちと瞬きした。
 それから少しばかりその顔が伏せられて、ぎゅっと小さな手がタオルケットを握り締める。

「ナマエ、マルのことしんぱいしてる、よい?」

 尋ねられて、そう言っただろう、と俺は頷いた。
 俺の返事に、マルコの体がそっとこちらへにじり寄ってくる。
 小さな頭が俺の胸にぽすんと押し付けられて、うつむいたマルコの顔が見えなくなった。

「マルコ?」

 どうかしたのか、と名前を呼んでみても、マルコは返事をしない。
 薄暗いから顔色が分からないが、押し当てられたところが熱いのはマルコの顔が赤いのか、それとも眠くて体温が上がっているのだろうか。



「……おやすみ」



 よくわからないが、マルコがそのまま動かなくなったので、俺もとりあえずマルコを抱えて眠ることにした。





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