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常世の国 (1/3)
※トリップ系主人公とペンギンさん(捏造)



 ごん、と強烈に頭部を殴打されて、ペンギンの意識は強制的に覚醒した。

「うぐっ」

 思わず呻き、強烈に痛む頭を庇うように身を丸める。
 つい先ほどまで仮眠を取っていたペンギンには、一体今何が起きたのかも分からない。
 ただ、ずきずきと痛む頭部を抱えたままの彼の耳に、うう、と小さく呻く知らない誰かの声がした。
 丸めた体をどうにか起こし、不意打ちの攻撃に眉を寄せながらペンギンが見やった先で、誰かが身を丸めている。
 痛いと唸りながら頭を押さえているその様子に、ペンギンはどうやら先ほど自分の頭部を襲った凶器が転がっている『誰か』の頭だったということを理解した。
 そう把握したのと同時に、その『誰か』に見覚えが無いと気付いて、ペンギンの目が眇められる。
 ペンギンが仮眠をとっていたのは倉庫に使われている一室で、静かな場所で眠りたいからと入り込んだそこには、当然ながらペンギン以外にはうずくまっている『誰か』以外には誰もいない。
 状況の説明を求めるには、この『誰か』を尋問する必要がありそうだ。
 そう把握したペンギンは、まだ痛む頭からそっと手を離し、落ちていた帽子を被り直してよろりと起き上がった。
 手を伸ばしたところにちょうど転がっていた鉄パイプを掴まえて、凶器を構えたまま、うずくまっている『誰か』へと近付く。

「……おい」

 そうして上から声を掛けると、痛い痛いと呻きながら頭を抱えたままだったその『誰か』が、ぴくりと体を揺らした。
 それからそっとその顔が上向いて、帽子の下のペンギンの顔を覗き込む。
 打ち付けたのだろう額を赤くしたその顔は、やはりペンギンには見覚えの無いものだった。
 ハートの海賊団であれば着用しているはずのつなぎを着ていない、見覚えの無い男ということは、すなわち目の前の『誰か』は侵入者だということになる。
 しかし、それはおかしな話だった。
 ペンギンが乗り込んだこのハートの海賊団の船は潜水艦で、今はちょうど海の中を進んでいるところなのだ。
 浮上するのは三日後のことだと取り決めたのは船長たるトラファルガー・ローとシロクマ航海士のベポで、その決定が覆ったと言う話は聞いていない。
 だからこそ、ぺち、と掌を鉄パイプで叩き、ペンギンの口から低い声が漏れる。

「……どこから入った?」

「え、えっと……」

「お前は、どこの誰だ」

 唸ったペンギンの雰囲気に怯えた顔をして見せた目の前の青年は、まるでただの一般人のようだった。







 ペンギンによって捕まり、おかしなことをしないようにと縄で両手の自由を奪われた上でトラファルガー・ローの前に引っ立てられた青年は、自らの名前をナマエと名乗った。
 さすがに『最悪の世代』とまで呼ばれる『死の外科医』に会って、自分が乗り込んだ船がハートの海賊団の物であると理解したのか、その顔が青ざめたのをペンギンは横目で確認した。

「そ、その……家の階段を踏み外したと思ったら、ここにいて」

 俺にも意味が分かりません、と続けたナマエの釈明に、は、と船長が鼻で笑う。

「なら、お前の家はどこの島にある」

「ニホン……って、島です」

 聞いたことの無い地名に、それを信じろと言うのかと低く唸ったローを前に、ナマエはこくこくと頷いたが、ペンギンから見ても彼が嘘を吐いていることは明らかだった。
 目を泳がせながらの言葉には、全く説得力がない。全てが嘘では無いにしても、全くの真実ではないだろう。
 いくらグランドラインでは常識が通用しないとは言っても、自宅にいたはずが海賊船に乗り込んでいただなんていう馬鹿なこと、ある筈がない。
 苛立ち、眉を寄せて後ろから不届き者を粛清しようとしたペンギンに、ローがひょいと手を上げて制止を掛ける。
 その顔は面白そうにナマエの顔を見つめていて、両手の自由を奪われペンギンにひざ裏を蹴られて跪く格好になったナマエと言う名の青年が、どうしてかローの興味を引いたのがペンギンにも分かった。
 グランドラインは波乱に満ちているが、それは常にと言うわけでもなく、最近のハートの海賊団は平穏そのものだ。
 暇を持て余していたらしいローの手が軽く広げられ、その場にペンギンの目にはもう馴染んだサークルが広げられる。
 先程までローの傍らに会った本と入れ替えられたナマエが、驚いたように目を丸くしているのを見やってから、ローの手がナマエの胸から何かを掴みだした。
 どくどくと、通常より激しく脈打つ臓器が揺れて、ローの手により軽く握られる。

「三日後、船を浮上させたら海に落とすついでに返してやる」

 放たれた言葉は死刑宣告に近いものだったが、胸から一番大切な臓器を奪われたと言うのに、ナマエはぽかんと口を丸く開いているだけだった。
 戸惑うようなその顔を見やり、それまでは船の雑用でもしてろ、と放ったローの手がナマエの腕から縄を外す。

「船長」

「ああ、お前が見張ってろ、ペンギン」

 暇だろうと寄越された言葉に、動きを制止しかけたペンギンは口をつぐんだ。
 確かに、それほど忙しいとは言わないが、どうして自分なのか。
 帽子の下からそんな視線を向けたペンギンに、ふ、とローがあくどい微笑みを浮かべる。

「見つけたもんには責任を持て」

 だがおれが遊びたくなったら貸せ、と言葉を続けるトラファルガー・ローは、相変わらず横暴だった。





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