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水属性
※同期(部下?)主とサカズキ大将



 羞恥心という文字を書いたとして、こいつに読むことが出来るだろうか。
 そんな失礼なことを考えながら見やった先で、なんじゃ、と声を漏らしたサカズキが眉間に皺を寄せる。

「何ぞ用か、ナマエ」

「いやァ……何でそんな恰好してるのかなって?」

 尋ねてきた相手へ返事をしつつ、そっと手に持ってきた書類を海軍大将殿の机の上へと置く。
 俺の言葉に、自分の恰好を確認したらしいサカズキが、ああ、と声を漏らした。
 その体を包むシャツは、どうしてかいつものマグマを彷彿とさせる赤ではなく、一般的に販売されている白である。
 そして、何故かうっすらと濡れていて、その体に張り付いていた。
 見事な刺青が透けて見える衣類を身にまとい、コートやそのほかを手放したサカズキが、椅子に座ったままで眉間のしわを深くする。
 それから寄越された事情説明からするに、最近入ったという噂のドジっ子給仕にやられたということだった。
 海軍大将に正面から水をぶっかけるだなんて、恐ろしい所業である。
 しかも二度、というのだから意味が分からない。その給仕には学習能力というものが欠如しているのか。
 着替えた傍から濡らされて、今は部下がサカズキの服を乾かしに行っているということだった。
 その言葉に軽く頷き、それから少しばかり首を傾げる。

「お前なら乾かせるだろ、サカズキ」

「…………センゴクさんに、執務室で能力を使うなと言われちょるけェのォ」

 尋ねた俺に返されたのは、何とも不本意そうな言葉だった。
 なるほど、最近絨毯や机を新調する羽目になったサカズキ大将殿には、そのような厳命が出ていたのか。
 普通はそのあたりは臨機応変にやっていける筈なのだが、サカズキにはそういう微調整は難しいだろう。きっと間違いなく、衣類を乾かすついでに床を焦す。
 強大な能力と言うのも考えものだなと感想を持ちつつ、俺はそっと自分のコートを脱いだ。
 それを手に持ったまま、ひとまずサカズキの方へと回り込んで、そっと相手の肩へコートを掛ける。

「ナマエ?」

 怪訝そうな声で、サカズキが俺を呼んだ。
 別に寒くはないと伝えられて、そうだよなと返事をする。
 今のマリンフォードは春と夏の狭間だ。肌寒いのはせいぜい夜明け前程度のことで、今の時間帯なら濡れたシャツ一枚でもきっと問題ない。
 しかし、俺としては大問題だ。
 こういう萌え属性は何と言うんだったかな、ともう随分と遠くなった前世の記憶を何となくさらいつつ、俺はサカズキの胸元に指先を向けた。

「だってそこ、透けてる」

 どことは言わないが、写真によってはシールやなんやらで隠されるような部分が、その体に刺された刺青と共に白いシャツからうっすらと透けて見えているのである。
 隠してくれ、と言葉を紡いだ俺の前で、サカズキは更に怪訝そうな顔をした。
 やはり、俺の恋人殿には羞恥心が足りないらしい。
 一応下は隠す癖に、上に対してはその反応と言うのはどういうことなのか。
 いっそ脱いでいてくれたらいいのに、と言葉を続けると、おどれが人前で脱ぐなと言うたろうが、とサカズキが不満そうに唸った。
 そういえば、そんなことを言った気がする。
 だって、サカズキの裸なんていうのは、医者でもない限りは俺以外が見る必要もないものだ。俺の裸だって同じだろうと言ったら、確かサカズキは納得していた。
 そこまで思い出して、そうか、と一つ頷く。
 俺が同じ姿になれば、サカズキにもその姿の破廉恥さが分かるに違いない。

「……ちょっと失礼」

「なんじゃ?」

「いや、水を被ってくるから」

 そう言葉を置いて、俺はコートをサカズキの肩に残し、急ぎ足でサカズキの執務室を後にした。
 見事に水まみれになって戻った俺の姿に、ようやくサカズキは俺の指摘した部位がどうなっているのかに気付いたらしいが、その瞬間にこちらへ向けてマグマが放られた。
 慌てて避けた俺の傍で、壁にぶち当たったマグマがじゅうじゅうと音を立て、その熱気をこちらへ流す。

「今すぐ乾かさんか! おどれ、その格好で歩いてきよったんか!」

 何故だかお怒りのサカズキ大将が、その日の午後にセンゴク元帥に叱られたのは、絶対に俺のせいでは無いと思う。



end


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