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また、夢を見た。
しかも、昨日の『続き』の夢だ。
夢の中の俺は、どこかの入り江で、自分の鞄を持っていて、マルコと二人きりだった。
空には星が散っていて、月が二つある。足元の砂は白く輝いていて、波はとても静かだった。
海に入れないかと試しかけてやめたのは、足元を濡らした波の感触がまるでなくて、どうなるのかも分からなかったからだ。
マルコと並んで座る俺の手元には、よく分からない揚げ菓子があった。
指でつまめる大きさの丸いそれは、回りはさくさくで中はしっとりしていて、あまい。
食べたことのない菓子を夢の中で口にするなんて、何とも非現実的だが、きっと夢だったからだろう。
※
どうやらここは、俺が生まれて育ったのとは別の世界らしい。
俺がそれに気付いたのは、目の前にどう見てもあり得ない肌色の人間が現れたからだった。
特殊メイクでも施しているのかと聞きたくなるくらいてらりとした肌のその人は、魚人と言うらしい。
突如現れた相手に目を瞬かせた俺の前で、『ナミュール』と名乗った相手は他の仲間と笑っている。
まさか夢の続きでも見ているのかと頬を抓ってみたものの、攻撃を受けた頬はただ普通に痛かった。
「何してんだよい」
「あ、いや……」
俺の様子を見ていたらしいマルコが、呆れたような顔をしている。
なんでもないとそちらへ向けて首を横に振ってから、俺は努めて自然に『ナミュール』の方から視線を逸らした。
俺のそれを見て、マルコが軽く首を傾げる。
「魚人なんてそんなに珍しくもねェだろう。人魚なんて見たら卒倒するんじゃねェのかい」
「人魚もいるのか……」
まるでおとぎ話のような話だ。失恋したら泡になるんだろうか。
甲板の上、一日にいくらかの外出を命じられて出てきた俺にわざわざ付き添っているマルコが、俺の言葉に眉を動かす。
「お前、どこから来たんだよい」
世間知らずだと思ったんだろう、そんな風に言い放たれて、うん、と俺は声を漏らした。
「……どこからだろう」
俺が生まれて育った日本は、きっと、この海のどこにもない。
どうやって来たかも分からないこの場所から、帰る方法なんてもう見当もつかなかった。
俺のすぐ隣で、マルコがため息を零す。
そうしてその手がとんと俺の背中を軽く叩いて、船内へ戻ることを促した。
「今のお前はもう海賊なんだ、いちいち聞くのも野暮な話だったねい」
忘れろ、と続いた言葉は優しさすら滲んで聞こえて、俺は一つだけ頷いた。
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