太陽が西から
※主人公は海兵さんでサカズキの同僚
「そういや、今日はエイプリルフールだな」
ふとカレンダーを見やって日付に気付き、おれはそう言葉を紡いだ。
すぐそばで書類をまとめていた同僚殿が、なんじゃあそれは、と低く声を漏らす。
あんまりそう言うのには詳しくなさそうな相手だが、まさか知らないのか、とそちらを見やった。
「あれだよ、嘘ついても良いって日」
「気に入らん」
「やだ堅物」
昼食を終えた昼下がり、隊に宛がわれた執務室で仏頂面のまま書類を片付けている相手に、おれは笑った。
海賊をこの海から消してみせると言わんばかりの鬼気迫る戦闘を繰り広げる誰かさんは、見た目からして分かる通り堅物だ。
戦い方と強い言葉と、その態度や表情のせいで怖がられることの多いサカズキだが、おれはまあ好きなタイプの海兵だった。
怖い怖いと言われるが、この男は案外可愛い奴なのだ。
だから希望があるかと聞かれたらサカズキと同じ隊にしてほしいと言ってきたし、多分これからだってそうだろう。
「少しは普通の方に歩み寄ってもいいんだぜ。何か嘘ついてみるか? あ、悲しくなる嘘以外な」
誰かを悲しませる嘘は人道的に駄目だろう、と考えてのおれの発言に、ふんとサカズキが鼻を鳴らす。
「思いつかんけェ、わしはやらん」
「えー? なんでもいいのになァ」
きっぱりとした言葉に、おれは首を傾げた。
これは、手本の一つでも必要だろうか。
別にサカズキに無理やり嘘を吐かせたいわけじゃないが、話しかければ案外雑談に乗ってくれるサカズキが考える嘘というのは、そこそこの興味がある。
何だったら分かりやすいかな、と考えながら一枚二枚と書類を片付けて、適当に口を動かした。
「そういや、この前の演習で行った島さ、西から太陽が昇ってたぜ。常識知らずとは言え、グランドラインってすげェよな」
「ほォ」
あんまりにも適当過ぎる嘘を口にしたおれの横で、何やら感心したような声が響く。
あれ、と思って視線をやると、手を止めたサカズキがこちらを見たところだった。
「気にも留めんかったのォ」
どの島だ、と尋ねながらその手が資料に伸びたのを見て、え、と思わず声が漏れる。
「いやあのサカズキ……嘘だぜ……?」
恐る恐る、と漏らしたおれの声に、ぴたりとサカズキの動きが止まる。
その顔がそのまま不自然極まりない動きでそっぽを向いたので、驚きがそのまま面白さに変換されてしまったおれは、必死になって口を引き締めた。
しかし漏れる笑い声はどうしようもなく、くつくつと喉でくすぶる。
「す、素直すぎるだろ……っ」
「黙らんか」
照れ隠しのように低い声が寄こされたが、それでどうにかなるはずもない。
少し焦げ臭くなった空気に気付いてようやく笑いを収めたおれの横で、可愛い同僚殿は相変わらずの仏頂面だった。
end
戻る | 小説ページTOPへ