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子ベビー5ちゃんと幹部主
※子ベビー5注意
※NOTトリップ主人公はドンキホーテ海賊団幹部(恐らくピーカ軍)



 うちの海賊団はお祭り好きだ。
 ハロウィンにクリスマスに誕生日、年始年末月見だイースターだバカンスだとせわしなく、アジトをそれに合わせて改装するのだってまあまあ日常に含まれている。
 ジョーラが相変わらずのセンスを爆発させて広間を多大に変貌させている中、おれが手を伸ばしたのは巨大なカボチャランタンの作成だった。

「……よっと。こんなもんか」

 食用じゃないバケモノカボチャの形を整えて、中に何本かろうそくを立てる。
 ぼんやりと光を零すそれは巨大カボチャには少々足りないが、その分暗い影が出来ておどろおどろしい。
 玄関先にでも飾れば喜ばれるだろうと自分の腕に満足したところで、ぱたたたと軽い足音が聞こえた。

「ナマエさァん! あっ」

 人の名前を呼びながら掛けてきた相手を見やると、なんともタイミングよくその人間がおれの近くで転ぶ。
 大きく両手を投げ出した相手にすぐさま手を添えて、おれは小さなその体を立ち直らせた。
 ふんわりと柔らかくウェーブを打つ髪を赤い大きなリボンで結い上げて、いつもより丈の短いワンピースを着込んでいるその子供は、誰がどう見てもおれと同じファミリーの『ベビー5』だ。

「まァた足が変わってねえぞ、ベビー5」

「え? あ、ほんとだ」

 見下ろした先で言葉を落とすと、自分の足元に目を向けた子供が小さく漏らす。
 持ち上げた片足は、膝の下から先がバズーカの砲身のような姿をしていた。
 走りにくいだろうそれを軽く振り回し、いつも通りの可愛らしく小さな足先に戻してから、子供がひょいと自分の着ている服の裾をつまむ。肩から掛けた小さな鞄が、動きに合わせて軽く揺れた。

「どう? カワイイ?」

「ああ、カワイーカワイー」

 いっぱしの女のような言葉を向けてくる相手に対して、おれは笑ってそう返した。
 何の仮装だと尋ねたら、赤ずきんちゃんだとベビー5が答える。

「アカズキンチャン?」

「この前もらった本にかいてあったの。オオカミさんのおなかに石をつめる女の子だよ」

「そいつァ怖い女だな」

「オオカミさんが赤ずきんちゃんを食べたのがいけないの」

「なんで生きてるんだ」

 そういえばピーカがどこかからか手に入れてきたらしい本をいくつか渡していた覚えがあるが、そんな恐ろしい話が載っているものだとは知らなかった。
 ハロウィンらしいなと頷いたおれの前で、小さな彼女が楽しそうに笑う。
 そうしてそれから、きょろりとおれの周りを見回した。

「それで、着替えがおわったから来たんだけど。なにかできることない?」

 お手伝いがしたいという子供らしい発言だが、視線をおれの方へと戻した子供の目つきはただの子供のものとは少し違って見える。
 ベビー5は、しばらく前に正式にファミリーの人間となった子供だった。
 恐らくは親に捨てられて、誰かに不要とされることを何より恐れて、役に立とうと努力する。
 誰かが『おれの為に死ね』と言えば死ぬに違いない献身はとても歪んでいるが、ねじ曲がった人間しかいないようなドンキホーテの中ではそれほど珍しくもないものだ。
 しかし、生憎と今先ほどカボチャは作り終えてしまった。
 あとは運ぶだけだが、この大きなカボチャランタンをこんな子供に持たせたら運びきれないだろうし、役に立てなくて悲しむベビー5を見るのも趣味じゃない。

「そうだな……ああ、そういえば」

「なァに?」

 少し考えて、思いついて言葉を零すと、ベビー5がきらきらと目を輝かせた。
 それを見下ろして、軽く自分のポケットを叩く。

「ハロウィンだってのにお菓子の用意を忘れたんだ。玄関の方に行くから、そっちにいくつか持ってきてくれるか?」

 アジトの中にはあれこれと買い込まれた菓子類があるだろうし、そのうちの少しを持っていればいいだろう。
 ファミリーの内に子供は少ないが、祭り好きの人間は多い。若に至っては間違いなく呪文を唱えてくるに違いないし、他の幹部連中も怪しいところだ。
 おれの言葉にぱちぱちと目を瞬かせてから、ベビー5が首を傾げる。

「ナマエさん、おかしもってないの?」

「ああ」

「……じゃあ、とりっく、おあ、とりーと!」

 おれの返事を聞いて、どうしてだか嬉しそうな顔をした子供がおれへ向けて両手を突き出してきた。
 期待に満ちた眼差しに、おれは首を傾げる。

「いや、だから、持ってねえんだって」

 おれとの今の会話は無かったことになっているのか、と戸惑いつつも言葉を落とすと、じゃあイタズラね、とベビー5が弾んだ声を上げた。
 なるほど、このお子様は悪戯がしたかったらしい。
 楽しげな『アカズキンチャン』を見下ろして、仕方なくため息を零し、その場に屈みこむ。
 片膝をついて衝撃に耐えつつ、ひょいと相手へ両手を広げて見せた。

「はい、それじゃあドーゾ」

 あんまりひどいことはしないでくれよ、と笑いかけた先で、頬すら紅潮させたベビー5が、鞄からひょいと何かを取り出した。

「えい!」

 そうして、素早くこちらへと飛びついて、取り出した何かをおれの頭に押し付ける。
 頭を挟まれる感覚に、とりあえず飛びついてきたベビー5が後ろに転がらないよう片手を添えて支えながら、おれはもう片方の手を自分の頭に向けた。

「……あ? カチューシャ?」

「オオカミさんの耳!」

 満足のいく角度になったのか、おれの頭から手を下ろしたベビー5が、間近でとても楽しげに笑う。
 小さな両手が今度はおれの頬に添えられて、真正面からその双眸がこちらをじっと見つめた。

「ナマエさん、いつも仮装しないって言うから。イタズラ、そのままにしててね」

 あとでおハナもかいちゃう、と言葉を続けられて、しばらくその顔を見やってから、はは、と小さく笑う。

「腹に石を詰めるのは勘弁してくれよ」

「そんなことしないもん!」

 おれにからかわれたと思ったのか、ぷんと頬を膨らませたベビー5が、おれの手元からするりと逃げ出した。
 おかしとってくると言い置いて、小さな背中がぱたぱたと駆けだして逃げていく。
 それを見送ってから、ゆるりと立ち上がり、おれはもう一度片手を自分の頭に添えた。

「オオカミねェ……」

 面倒だからやっていなかっただけで、仮装をしたくないとは言わないが、しかし『狼』。
 似合い過ぎる役を寄越されたもんだと少し笑って、とりあえずは自分が作ったカボチャランタンへと向き直る。

「おれだったら、自分から『食べて』って近寄るように育てるね」

 五年か十年、もっとかかるかもしれないが、そうなればアカズキンチャンとやらだって石を集める余裕もないだろう。
 楽しみだなと気の長い呟きを零して持ち上げた先で、カボチャランタンが憐れんだ目をこちらへ向けている気がしたが、きっと気のせいだ。


end


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