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蟲毒の澱 (1/7)
※主人公は有知識トリップ主(?)で死亡転生
※暴力表現・殺人表現等ありにつき注意
※若サカズキさんもいますが口調は大将サカズキさん
※名無しオリキャラが複数人がっつり出ます
※特殊&独自設定ありにつきなんでも許せる方向け




 俺がセンゴク中将のもとを離れたのは、中将がついに大将の肩書を得ると聞いた頃だった。
 俺の階級も少し上がったが、中将ですらまだまだ遠い。
 サカズキのほうも同じで、そしてセンゴク中将の元から異動した俺が配属された部隊へあとから入ってきたのもサカズキだった。

「お前らへの期待は、おれの胃をどれだけ労わってくれるかってことだ」

 どうやら常用しているらしい胃薬の瓶を握りしめながら新しい上官殿はそう言ったが、一方で、彼は俺やサカズキの行動をそれほど咎めなかった。
 時たまの合同任務でやっていた時のように俺はサカズキと一組であちこちへ向かわされることが多くなって、そうして毎回大勢の海賊を殺した。

「サカズキ、軍艦は半壊までだからな」

「ふん」

「ナマエさん! やめてくださいお願いですから!」

 海賊船を襲う前に声を掛ければサカズキも気を付けるだろうと声かけをするようにしたら、どうしてか一緒に配属されている後輩に俺まで文句を言われたりもした。
 それでも、声掛けを始める前よりは軍艦の被害だって減ったんだから、俺は褒められたっていいんじゃないだろうか。
 派手に暴れるサカズキの元からこぼれてくる海賊を殺すのは、基本的に俺の役目だった。
 サカズキと一緒だと、死体はマグマで焼けた船と共に沈んでいくから楽でいい。
 ただ『誰』がいたかは覚えておかなくてはいけないから、手配書の顔と名前を前より覚えておくようになった。

「あー……あれ、これはいたか?」

「あァ、わしが焼いた」

「そうか、じゃあそう報告しておく」

 任務の帰り、船の中で一緒に手配書を確認することが多くなったし、同じ船に乗っていた仲間が殺したり捕まえた海賊のことも確認した。
 報告書を作るのに必要なので仕方がない。
 初めの頃は俺がサカズキを探しに行っていたが、そのうちサカズキの方から手配書の束を持ってくるようになった。
 一緒に茶を飲んで過ごす少しのんびりした時間で、あちこちからの報告や伝令も大体二人で聞いていた。

「ナマエさ、ん……あ、あの」

「さて。そこの屑は動かなくなったわけだが……お前は、手足の指と耳だったらどれがいいんだ?」

 捕縛した海賊が海兵を懐柔しようとしたら容赦なく殺したし、憐れみを誘う海賊に絆されかけた海兵には罰を与える、ちゃんと厳しい先輩としてもやっていたと思う。

「……そがいにやりよる話か。無駄じゃァ、馬鹿らしい。甲板でも磨いちょれ」

 そうして、俺が決めた罰を軽くするのは大体がサカズキだった。
 俺はそのたびに、覚えている『サカズキ』と目の前のサカズキの違いを見せつけられた気持ちになるが、回数をこなすうちにだんだんとそれにも慣れてきた。
 そういう時に思わず見やった先でこちらを見ていたサカズキに毎回睨みつけられて、『面構えが気に入らん』といちゃもんを付けて軽く蹴られていたせいかもしれない。
 とにかく、俺とサカズキは、多分うまくやっていた。
 相変わらず海に巣食う害虫は殺して回ったが、そつなく仕事をこなしていたと思う。
 しかしそれはあくまで、海賊を掃討するという『仕事』についてのことだ。

「……慰問ですか? 俺と、サカズキが?」

 だから、わざわざ俺達二人を指名してそんな仕事を寄越してきた中将に、思わず直立不動の姿勢のままで目を瞬かせた。
 すぐそばに佇むサカズキの方からも、同じように困惑の気配を感じる。
 新しい任務だと言われれば今度はどこの海賊を殺しにくのかと考えるのが常の俺達に、まさか『慰問』なんていう仕事が舞い込むとは考え付かない。
 大体そんなもの、肩書と知名度のある海軍大将あたりならともかく、俺達がやるようなことだろうか。

「お前らの疑問はもっともだ。おれもまァ、どうせならおれが行きてェなァと思う」

 春の夏島なんて最高だとしみじみ言いつつ、俺達の上官が一枚の紙を広げる。
 そうして見せられたのは、どうやら俺達の部隊のスケジュール表であるらしかった。
 明日から一か月もの間本部を離れるという文字が入っているのは、目の前の上官の項目だ。
 そして、俺とサカズキの項目の横に、無理やり書き綴ったような筆跡で『慰問』の文字と日程が記されている。

「この前捕まえた海賊から吐かせた『被害地域』の島でな。遠征を行った部隊の責任者を招かれている。おれの代わりに行くんならお前らしかないだろう」

 『被害地域』という言葉に、俺はぱちりと瞬きをした。
 そういえば、後で確認した報告書に、そんな項目があった。
 先日、俺達がほとんどを殺し残りを捕まえたとある海賊団は、三つの島を拠点にして、そこの住人達をまるで自分達の奴隷のように扱っていたらしい。
 助けを求めたくても渦潮の多い地域であるために小舟などでの脱出ができず、また大所帯ならではの人数のせいで常駐する海賊がいるため、助けを呼べば残りの二つの島の人間を殺すと脅されていて、捕縛した海賊を尋問しなければ恐らく分からなかった。
 一斉に海軍が救援に向かい、どうにか海賊達は全員捕らえまたは殺して、今はまともな生活が送れるようにと物資と労働力の支援を行っているところだそうだ。
 報告書を読んだ時には『やっぱり更生なんてできないだろうから殺した方がいいんじゃないか』と思ったのだが、残念ながら島にいた屑連中の殆どはインペルダウンへ送られていた。
 入所前の釜茹でですでに息も絶え絶えだったらしいが、死ななかったという話だ。
 常駐している海兵もいるだろうから、別に今更海軍が『慰問』に行く必要なんてないのではないか。
 不思議に思って目を瞬かせた俺の向かいで、まあお前らの休暇も兼ねてるんだ、と上官が言葉を零した。

「お前ら揃って休みもとらねェからな。後輩達が休みづらくて可哀想だろうが」

 やれやれと首を横に振られて、俺は傍らをちらりと見やった。
 同じようにこちらを見たサカズキと目が合って、お互いがお互いを伺う。
 確かに、俺はあまり休暇をとらない。
 休みでもどうせ体を鍛えているだけだし、それなら海軍本部内の施設を使った方が自宅でやるより有意義だ。
 休憩時間に書類を片付けられるのが更に良い。
 もちろん夜には自宅へ帰っているが、一日の大半は本部の中で過ごしているだろう。
 サカズキがどうかまでは分からないが、そういえば同じ隊になってからは任務でも入っていない限りは毎日どこかで顔を合わせている気がする。

「……」

「…………」

「おーい」

 じっと互いを見つめた俺達の正面で、上官が声を掛けた。
 それを聞いて、二人でそろって上官の方へと顔の向きを戻す。
 俺達二人の動きを見てから、相変わらず顔色の悪い上官は、愛用の薬瓶を片手に持って言葉を続けた。

「帰りに何か土産も買ってきておいてくれ。日持ちして胃にやさしそうな奴な」

「名産の乾物でも買ってきて、帰ってきたら粥でも作りましょうか」

「土産感がねェ」

 いやだ、とわがままなことを言いながら笑った上官は、俺とサカズキへ向けて『少しは羽を伸ばしてこい』と言葉を綴った。
 そうして、俺達には急遽、『休暇』なんて言うものが降ってわいてしまったのだった。



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