鬼狩りの唄 (5/5)
目が覚めた時、失ったはずの右腕がくっついていた。
夢などでないことは、肘をぐるりと回る縫い跡で分かる。
足や腹の傷も全て塞がれているが、じんわりとした痛みは健在だった。
しかしそのことより何より俺を戸惑わせたのは、目を覚ました俺の目の前に現れた男の姿だ。
「……なんだか……お体が大きすぎではありませんか」
「おれとしちゃあ、お前が随分縮んだようなもんだがなァ」
このくらいだったじゃねェか、と自分の肩口より少し下を掌で示すドフラミンゴ殿は、俺の三倍はあろうかと言う大男になっていた。
俺の知っているドフラミンゴ殿よりも、倍近く大きい。
訳が分からないが、現れたドフラミンゴ殿の話によれば、ここはドフラミンゴ殿の故郷らしい。
寝かされていた寝具も部屋の中もそのつくりも、見たことのないものばかりだ。外国だと言われても信じるしかないし、何なら別の世界だと言われたって納得するだろう。
ドフラミンゴ殿が、俺をここへ連れてきたという。
「……どうして……」
わざわざ傷をいやし、話によれば血を足して、俺が死なないようにしたという相手を見つめて、思わずそんな風に尋ねていた。
あのままなら、俺はあの場所で死ぬはずだったのだ。
ドフラミンゴ殿が言うところの『運の良い』状況だったはずなのにと、眉を寄せた俺の前で、フフフフと笑ったドフラミンゴ殿が俺の座っている寝具へと座る。
「どうしても何も、言ったじゃねェか、ナマエ」
「言った……?」
「おれァ海賊で、『海賊』ってのは、自分の欲しいものをどうやってでも手に入れるもんだ」
だから連れてきたのだと、ドフラミンゴ殿が言う。
「ここにはあのオニはいねえ。あの刀は成分を調べたい奴がいたからそっちだ。もうしばらくしたら医者がくる、言うことを聞いて早く動けるようになれ」
何とも親切なことばかり言い放つ相手に、俺は忙しなく瞬きを繰り返した。
そんな俺を見つめて、ドフラミンゴ殿が唇の笑みを深める。
伸びてきた手が俺の頭を捕まえて、まるで髪をかき混ぜるように撫でる。
「今日からテメェはおれのもんだ、ナマエ。おれの命令すべてに従うのが、テメェの生きる意味だ」
きっぱり、はっきりとした言葉だった。
どんな汚ェことでもさせてやるから安心しろ、と言葉が続いて、思わず眉を寄せる。
「人のことを攫っておいて、そんなことを仰るだなんて……貴方は悪い御人だ」
「フッフッフ! なんだ、今さら気付いたのか?」
『海賊』に悪くねえ奴がいるわけねェだろう、と何とも風評被害のありそうな発言をしたドフラミンゴ殿は、もう一度俺の頭を撫でてからひょいと立ち上がった。
じゃあなと一言を置いて、そのままその巨体が部屋を出ていく。
寝具に座ったままでそれを見送った俺は、やがてそろりと自分の頭に手をやった。
先ほどのぬくもりを思い返して、降ろした手をじっと見下ろす。
「……生きる、意味」
誰かにそんなものを与えられるだなんて、夢にも思わなかったことだ。
まるで甘やかな毒のように染みわたるその言葉に、俺はそっと目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。
終
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