- ナノ -
TOP小説メモレス

沈殿する苦み (1/3)
※『おかきvs煎餅vsあられ』『フルーツキャンディ』と同設定
※若センゴクさんと同期主人公(恐らく転生系トリップ主)



「さあ、召し上がれ」

 ほとんど無理やり招かせる形で訪れたナマエの家は、相変わらずきれいに片付いていた。
 ナマエやつるにならちょうどいいだろうテーブルはセンゴクには少し小さく、そしてその上にはたくさんの料理が並んでいる。
 明らかに手作りだろうそれを見やり、センゴクはわずかに首を傾げた。

「どうかしたのか?」

 思わず尋ねてしまったのは、明らかに『いつも』よりも料理の品数や量が多かったからだ。
 妙に気合いが入っている、とすら思えるそれらに不思議そうな顔をしたセンゴクへ、なんか気分が乗っちゃってさ、とナマエが笑う。

「あれも作ろうこれも作ろうって考えてたら作りすぎちまったんだよ。残ったら俺の明日の飯」

 だから安心して残していいぞ、なんて言い放ったナマエの顔は、普段と何も変わらない。
 しかし、普段から計画的に行動するナマエにしては、やはりらしくのない行動だ。
 表情だけは穏やかにして相手を観察したセンゴクに気付いた様子もなく、ナマエが料理を取り分けた。

「お前と飲むのも久しぶりだし、飯食わせるのも久しぶりだもんな」

 これはこの前うまいって言ってたやつだぞ、なんて言いながら肉料理を持った小皿を寄越されて、センゴクは改めて手元を見下ろした。
 言われてみれば、テーブルの上に並ぶ料理の殆どは、センゴクが口にしたことのあるものだった。
 そして、器用なナマエの作る料理の中でも、特別センゴクが好ましいと思ったものが多いように感じる。

「…………」

 それはつまりナマエがセンゴクの好みを覚えていて、そしてセンゴクの為にこれらを作ったということだろうか。作りすぎるくらいに、張り切って。
 そんなことに考えがいたり、わずかに眉間へしわを寄せたセンゴクは、片手を動かしてテーブルの端に置いてあった酒瓶を捕まえた。
 すぐそばに置いてある籠の中身は、今日の口実になったあられが入っているらしい。

「料理もついでに食いつくしてやる。安心しろ」

「お前がそういうと本当に食いつくされそうだな」

 なんてこった、明日も食材を買いに行かないと、なんて言ったナマエは、センゴクが差し出した瓶の前へとグラスを晒し、センゴクの注ぐそれを受け取って笑っていた。







『あーごめんな、今日は無理だ』

 申し訳なさそうに微笑んだナマエに、飲みへの誘いを断られた。
 大酒飲みのセンゴク達と違い、体躯に見合った量しか飲めないナマエが断ることは時たまあることで、そうか、と頷いたセンゴクは大人しくそこで引き下がった。
 ガープや他の同期と共に酒場へ繰り出したのはそのすぐ後で、泥酔した酔っ払い共と共に店を出たセンゴクが一人で別の店へと行ったのは、なんだか少し飲み足りないと思ったからだ。
 選んだ店は普段行くのとは違っていて、真夜中だからか酒場特有の騒がしさも少し収まっているようだった。
 体格の良いセンゴクが案内されたのは奥まった箇所のテーブル席で、適当に頼んだ酒とつまみを待ちながらなんとなく店内を見回したセンゴクの目にとまったのは、カウンターに並んで座る男女の姿だ。

『……ナマエ?』

 思わず呟いたその名前は、見慣れた顔をした男のものだった。
 その隣にいるのは、センゴクの同期である女海兵だ。
 どちらも酔っているのか、センゴクが注ぐ視線に気付いた様子がない。
 いつもなら、奇遇だなと言って声を掛けに行ったに違いない。
 おれの誘いを断ったくせにと、笑いながらナマエを詰ってやってもいい。
 けれどもそれが出来なかったのは、つるへと何がしかを話しているナマエの顔が、暗く沈んでいたからだった。
 ナマエはガープのように明るいとは言わないが、朗らかな海兵だ。
 センゴクの前であのような暗い顔をしていたことなど、センゴクの覚えている限りではほとんどない。
 何かあったのか、という疑問は、そのまま、『つるには話せるのか』というどことなく理不尽さの宿る苛立ちに変わった。
 酒の席での愚痴くらい、センゴクにだって聞くことが出来る。つるとの先約があったというのなら、つるも共に飲めばよかっただけのことだ。
 それとも二人きりでなければできない話だったのか、などと考えたセンゴクの目の前で、つるの手がナマエを慰めるようにその背中を撫でた。
 ざわりとうごめく苛立ちに、手元のグラスの悲鳴が聞こえ、センゴクは慌てて手元へ視線を向けた。
 水の入ったグラスに少しばかりひびが入り込んでいて、慌てて手を離したそれからじわりとこぼれた水がテーブルへと広がる。
 料理と酒を運んできた店員にグラスを割ってしまったことを謝り、会計にグラス代を加えてほしいと頼んだセンゴクの視界の端で、話を終えたらしいナマエとつるが立ち上がったのが見えた。
 二人はそのままセンゴクには気付くことなく店を出ていき、どれだけ酒を飲んでもなかなか、わいた苛立ちを飲み込むことが出来なかった。






戻る | 小説ページTOPへ