回避ルート提示 (1/2)
※『終幕はバッドエンド』の続き
※サカズキ夢だけどサカズキさん不在
※ベック寄り視点
※シャンクスさんが我儘だけど別に→主人公と言うわけでも無い
それは、グランドラインのとある小さな島へと立ち寄った時のことだった。
「シャーンクス!!」
どたばたと大きく足音を立てた何かが、傍らの海賊の名前を大声で叫びながら近づいてくる。
すわ愚かな賞金稼ぎかと銃に片手をやりかけたベックマンは、それが知り合いの声だと気付いてすぐにその手を止めた。
すでに酒を飲んで機嫌が良くなりつつある『シャンクス』が、ベックマンのその様子に軽く首を傾げて、他に客のいない店内から騒がしい往来へ続く出入り口を見やる。
視線を向けられるのを待っていたかのように扉が大きく開け放たれて、シャンクス! ともう一度赤い髪の海賊の名前を呼んだ男に、おお、とシャンクスが声を漏らした。
「ナマエじゃねェか」
からりと笑ってシャンクスが紡いだその名前は、もう随分と前にシャンクスが拾い、そして『恋』のために船を降りて行った漂流者だった。
男の身で海軍大将赤犬に恋い焦がれ、今は海軍にいるはずの男だ。
しかし、今の見てくれはどうにも放浪者のそれに近く、制服を着てもいなければ制帽を被ってもいないため、海兵には全く見えない。
咥えた煙草に火を点け、煙を吸い込みながら様子をうかがうベックマンの傍まで近寄ってきたナマエに、まあ座れよとシャンクスが自分の向かいを掌で示した。
大人しく座ったナマエへ自分が持っていた中途半端な量の酒瓶を差出し、己は新しく酒瓶を開けながら、楽しげに笑ったシャンクスの目がナマエを見やる。
「久しぶりだなァ、元気にしてたか?」
「ああ、久しぶりだな……じゃ、ない!」
旧知の友へするように言葉を向けたシャンクスに流されたナマエが、それから受け取った酒瓶で強くテーブルを叩いた。
派手な音がしたが、店内には他に客がいないので、それに注目したのは酒場の店員くらいなものだ。
視界の端に映ったそれが何やらひそひそと会話を交わしているのを横目で見やり、ベックマンの片手は改めて銃へと触れた。
そんなベックマンに気付いた様子もなく、更に数回テーブルを叩いたナマエが、泣きそうな顔で眉を寄せる。
「何てことしてくれたんだシャンクス! ばかばか! 馬鹿船長! お頭の馬鹿!」
言葉の後半は語彙のたりない罵りで、涙目に寄越されたそれにシャンクスが首を傾げる。
どうしたんだと不思議そうに尋ねた海賊に、とぼけんなとナマエが声を荒げた。
「サカズキ大将に言っただろ! 俺が海賊だったって!」
「ん? んー……?」
そうして放たれた言葉に、シャンクスが改めて首を傾げる。
サカズキ大将と言うのは、今海軍大将をやっているマグマ人間の通称『赤犬』で、そしてナマエの想い人の名前だ。
ついふた月ほど前、赤髪海賊団が遭遇した恐るべき敵の名でもある。
その首に掛かった賞金がほぼ不動のものとなり、それをつぶすべくやってきた『赤犬』は強かったが、それと交戦するシャンクスはとても楽しそうな顔をしていた。
その時のことを思い出したのだろう、うーんともう一度声を漏らしたシャンクスの目が、ちらりとベックマンを見やる。
「言ったか? ベック」
「言ってねェな」
船長からの問いかけに、ベックマンは端的にそう答えた。
嘘だ! とそれへナマエが声を上げるが、煙を吐き出したベックマンが肩を竦める。
「言ってねえって言ってんだろう」
言葉を置きながら煙草の灰を灰皿へと落として、ベックマンは続けた。
「お頭が言ったのは、『ナマエは元気か? アイツおれんところから出たっきり手紙の一つもくれねェからよォ、心配してんだ』だ」
「よく覚えてんなァ、ベック」
「言ってるも同然じゃねェか! やっぱり!!」
あの日のシャンクスの言葉をなぞったベックマンに、シャンクスが感心したような顔をして、やはりナマエが絶叫する。
そうとも言うなと同意したベックマンの横で、だっはっはっは、とシャンクスが笑った。
「悪ィ悪ィ」
まったく悪びれてない笑顔を向けられて、もうちょっと反省して! とナマエが泣きそうな声を出している。
酒場の店員が動こうとするのにちらりと視線を向けて制し、そうしてベックマンの目がナマエへと戻された。
「そのせいでフダ付きになったのか」
「そうだよ……」
弱弱しく頷きながら、ごそりとナマエが取り出したのは、小さく折り畳んだ手配書だった。
ゆるりと開かれたそれは折り目塗れだったが、確かにそこに映っていたのはベックマンとシャンクスの向かいに座っているその男だ。
いかつい二つ名と共に書かれた金額に、へェ、とシャンクスが感心したような声を出す。
「これだけ掛けられりゃあ賞金稼ぎも目の色変えて襲ってくるなァ」
シャンクスの首に掛かっているほどではないが、狩れば数年は平穏に暮らせそうなその金額は、『裏切者』にかけるには少々大きな金額だ。
なるほど、すでに店員達はこれを知っていたのだろうと把握して、ベックマンの口から煙草が離れる。
そうなんだよと声を零したナマエは、どうやら日々賞金稼ぎを撃退しながら生きているらしい。
ひょいとベックマンの手が手配書をつまんで、そこにある写真をしげしげと眺めた。
「それにしても、もう少しまともな写真は無かったのか、海軍には」
どうやら小さな写真を無理やり拡大したようで、わずかに不鮮明ですらある。
似顔絵だけで作られた手配書を見たこともあるが、ましてナマエは海軍に在籍していたのだから写真だって取り放題であったはずだと言うのに、どうしてわざわざここまで拡大しているのか。
不思議そうなベックマンの言葉に、それ一枚しか無かったんだよ、とナマエが呟いた。
「俺、写真嫌いだから」
「それなのに一枚はあったのか?」
「それ、隣に映ってるのサカズキ大将なんだ……大将がこう、わしが一緒に映っちゃるけェ大人しくしとれって言いながら並んでくれた時のだから……」
「へー……」
言われた言葉に、シャンクスが傍らからベックマンの手元を覗き込む。
言われて見れば確かに、拡大されたナマエの横へ大柄な誰かが映り込んでいた。
体格差でか腕しか見えていないが、ナマエがそう言うのならそれはあの『赤犬』なのだろう。
わざわざ自分の手配書を持ち歩いている理由が分かった気がして、ベックマンがなるほど、と声を漏らす。
「だから、こんな締まりのねェ顔してんだな」
呟きつつ煙草をくわえ、適当に折り曲げた手配書を放ると、ナマエが両手でそれを受け止めた。
寄越された言葉に不思議そうな顔をして、その目がもう一度開いた手配書の中身を確認し、そして丁寧に折り畳んでしまい込む。
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