まるたん!
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※事なかれ海兵さんクルーとマルコ隊長


 どこかの海軍大将のように『海賊は全て屑だ』とは言わないが、背中に正義を背負う俺にとって、海賊と言うのは相容れぬ存在だった。
 収入の安定なく日々を過ごせるだなんて、その豪胆さには正直言って驚く。こつこつ金をためて老後に備えないで、老いた後どうやって過ごすつもりなのか。
 『元の世界』に帰れないと気付いて、それからずっと金を貯め続けている俺にとっては理解できない話だ。

「飲んでるかい」

 顔を真っ赤に染めた男に問われて、返事をしながら向けられた杯に自分のジョッキを軽く当てた。
 その理解できない連中の中にどうして紛れ込んでしまっているのかが、全く分からない。
 俺はただ、いつものように酒場で飲んでいた筈なのだ。
 それがどうしてか、現在のお隣さんが傍らに座って騒ぎ始め、気付いたらその宴の渦中から逃れられずにいる。
 聞こえてくる言葉からするに、俺の隣に座る奇抜な髪形の男は、明日が誕生日らしい。
 今日が、じゃない。明日がだ。
 今でもこんなに騒がしくうるさいと言うのに、当日は一体どうなるんだろうか。その前に肝臓は持つのか。色々と気になるが、しょせん他人なので心配しても仕方ない。
 ちら、と傍らを見やると、ぐいと自分の杯を空にした男が、額まで赤くして機嫌よく笑っていた。
 楽しく酒が飲めるのはいいことだ。
 もしもこれで隣の男が普通の一般庶民だったなら、俺だって楽しく飲めたと思う。何せ豪気な彼らは、この酒場にいる全員の酒代を持つと公言し、すでに店主に金を払ってしまったのだ。ただ酒ほどうまいものは無い。
 無いが、しかし。

「マルコ、これうちの隊から。まだ当日来てないけど!」

「おう、ありがとよい」

 何やら荷物を持ってきた仲間に返事をしてそれを受け取る男を眺め、軽くテーブルに頬杖をついた。
 『マルコ』という名前を、俺は知っている。
 『元の世界』で読んだ『この世界』の中にも出て来たし、何より手配書を持っているのだ。
 だから知っている。傍らのこの男は、『海賊』だ。
 きょろりと見渡した限りどこにも知り合いはいないが、どこかから噂が流れてかの海軍大将の耳に入れば、直々に粛清される恐ろしい未来しか予想できない。
 焦されるのは勘弁してほしい。
 逃げようと腰を上げて、どこに行くんだと酔っ払いにとっ捕まるのももう三回目である。
 どうやらこの傍らの酔っ払いは、酔いすぎて俺を自分の『仲間』だと勘違いしているらしい。酒と言うのは恐ろしい。

「何しけた顔してんだよい」

 傍らからそんな言葉を掛けられて、ぺちぺちと軽く肩を叩かれる。
 とりあえずさっさとこの場が終わってくれないかと思いながら、俺は改めて傍らに視線を向けた。
 酒を飲んだ赤ら顔の『不死鳥』マルコが楽しげにしているのを眺めて、小さくため息を零す。
 俺の名前すら知らないくせに、自分と敵対する『海兵』をこんなにも近くに置いて気付かないだなんて、なんて怖い海賊だろうか。
 まあ、『白ひげ』海賊団に自分一人で立ち向かえるとも思わないので、この場でわざわざそれを言うつもりもない。

 誕生日おめでとう。

 だから、とりあえず誤魔化すようにこの場にふさわしそうな言葉を述べると、一日早ェよい、と海賊が楽しそうに笑った。



end
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