まるたん!
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※クルー主人公とマルコ隊長



 もうすぐマルコの誕生日が来るらしい。
 そういえばそんな語呂合わせだったな、と呟くと、何の話だと横からエースに不思議そうに尋ねられた。
 別に気にしなくていいと言えば、そっか? と首を傾げながらも頷いてくれる。
 すっかり素直になったなァと感慨深く思うのは、俺がエースの尖った頃を知っているからだ。
 本当にこいつは白ひげ海賊団の一員になるのかと、やっぱり自分の頭がおかしかったんじゃないかと疑っていた『記憶』の通りに白ひげ海賊団の一員となった元スペード海賊団の船長は、今日も明るく笑っている。
 太陽みたいなそれを眺めて目を細めていたら、ほらよ、とエースが俺の方へ何かを差し出した。
 何だろうかと見つめた先に、何やら酒瓶が握られている。
 見つめて首を傾げると、早く受け取れよとエースが酒瓶を軽く揺らした。

「お前からマルコに渡せよ」

 な、と寄越された言葉と笑顔に、意味が分からないまま首を傾げる。
 今の会話の流れからして、この酒瓶はエースのマルコへの『誕生日プレゼント』だろう。
 どうしてそれを、俺が渡さなくてはいけないんだろうか。
 誕生日を祝いたいなら、エースが直接渡すべきだ。きっとその方がマルコも嬉しいだろうし、礼を言われたらエースだって嬉しいに違いない。
 だからそう言った俺に対して、何だよ、と口を尖らせながらエースが俺の手に酒瓶を押し付けた。

「あれだろ、当日はお前が一番最初にマルコに会うんだろ? その方がマルコも嬉しいんだろうし、そうするよな?」

 そん時ついでに渡してくれよと続く言葉に、どういう意味だと目を瞬かせる。
 俺の顔を見つめて、エースがその口を動かした。

「だってお前ら、付き合ってるんだろ?」







「騒々しいよい」

 マルコの名を呼び部屋へ飛び込んだ俺を見やって、書類整理をしていたらしい一番隊隊長が眉を寄せて低く唸った。
 しかし今はそれどころじゃないので、どたばたと足音を鳴らしてマルコへ近付く。
 恐ろしい噂がモビーディック号の中に浸透しているのだ。マルコだってもう少し慌てるべきだ。

「噂? 何だよい」

 テーブルを叩いて訴えた俺に、マルコがようやく書類を触っていたその手を止めた。
 ちら、と寄越された眠たげなその目からの視線に、俺はどうにか今耳にしてきた噂を述べる。
 どうしてか、この船の家族達は俺とマルコが『恋人同士』であると誤解しているのだ。
 確かに俺は随分昔マルコに助けてもらった拾われ人間で、ほかの誰も知らないが異世界の人間で、それ故に船に乗ってからもマルコを頼ることが多かった。
 部屋だってマルコと同室だし、話しかけるのだってマルコ相手が多いし、一番仲がいいのだってマルコだ。
 だがしかし、それとこれとは話が別じゃないだろうか。
 恐ろしい噂が流れていることを伝えると、マルコが一度瞬きをして、それから軽く首を傾げた。

「……それで、なんか困るのかよい」

 不思議そうな問いかけに、え、と思わず声を漏らす。
 俺の顔を見やり、やや置いて書類を放って頬杖をついたマルコが、軽くその手を揺らして見せた。

「おれと『恋人同士』だって言われて、なんか不都合があったかい」

 『不都合』とか、そういう問題だろうか。
 言葉に詰まってしまった俺の前で、マルコがゆっくりと指を折り曲げる。

「一緒にいることが多い、話しかけることが多い、飯だって一緒に食うし風呂だって一緒、船を降りんのも一緒に行く方が多い。部屋は同室。なんか今までと変わるかよい」

 端まで行って折り返した指を立てたまま、マルコがそんな風に口を動かす。
 言われた言葉に瞬きをして、あれ、と小さく呟いた。
 そう言われてみれば、『付き合ってる』と噂されても問題ないような気がする。
 男同士じゃ『そういう』ことだってできやしないし、マルコが女にだってべたべたさせないのは知っている。
 万が一、いや億が一俺とマルコが付き合っていたのだとしても、今と何も変わらない、のか。
 そうか、と納得を示した俺の前で、だろう、とマルコが軽く頷く。
 それから面白そうに笑って、その肩が軽く竦められた。

「まァ、どうせ面白がって噂してんだろう。放っときゃ消える。なんなら、次の島は『恋人同士』仲良く一緒に降りるかよい?」

 寄越された提案に、あ、うん、と頷く。
 予定では、その日がちょうどマルコの誕生日だ。プレゼントを買うにはいい機会だろう。どうせなら何か欲しいものを買ってやりたい。
 話は終わりかと問いかけられて頷いた俺は、自分がエースをほったらかして走ってきたことを思い出した。
 エースは気にしていないかもしれないが、何の言葉もなく走り出して来たのだ。ちょっと戻って謝った方がいいかもしれない。
 ちょっと行ってくる、と言った俺に、よいとマルコが軽く頷く。
 そのままその目に見送られて、俺は来た時より落ち着いた足取りで部屋から通路へ出て、エースのいたほうへ向けて歩いて行った。




「…………相変わらず、単純な奴だねい」

 室内で噂の元凶がそんなことを言って笑っていたことなんて、知る由もなく。




end
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