「龍ちゃんナイスキィィー!!」
向かいにいる伊達工の応援団に負けじと声を張り上げる。伊達工13点 烏野16点で僅かにリードの色が見え始めた第1セット中盤。伊達工のリードブロックに苦しめられていた前半の空気は、翔ちゃんと飛雄君の変人速攻によりこちらへと流れが変わってきていた。
「来いやぁぁあ!!」
翔ちゃんが再び速攻を決めた。あれだけ うちのスパイカーを止めていた伊達工のブロックが段々崩れていくのが分かる。完璧にこちらのペース。
「なまえ!」
「あれ!?結先輩達どうして!」
女子の会場はここじゃないはず、と不思議に思いながら聞けば、第1試合で負けたんだー、と結先輩は笑いながら言った。でも目が少し赤い。きっと泣いてたんだろうなぁ…
「オース、なまえちゃん」
「あ!嶋田さんに滝ノ上さん!」
名前を呼ばれて女子バレーの人がいる位置と反対の方を見れば、町内会チームの嶋田さんと滝ノ上さんがいた。結先輩達と一緒にいるから気を使ってくれているのか、小さく手を振るだけで、こちらには近づいてくる様子はない。
「西谷!」
「オーライ!」
「ナイスレシーブ!」
烏野の応援が増えたところで、試合は更に激しさを増していく。無意識に手に力が入り、持っていたメガホンがギギギ…と小さく音を立てていた。
「持って来ぉぉおい!」
再び翔ちゃんにトスが上がる。でも、今度は青根君に止められてしまった。あの変人速攻に速さに追いつくなんて、すごい反射神経!
「「「青根!青根!青根!」」」
伊達工側の声援が青根君のブロックに一気に盛り上がりを見せる。まずい…流れが変わってもおかしくない1点だ…!
「いーっぽーん、カァーットー!!」
コートに届いているか分からないが、今まで以上に応援せずにはいられない。1セット目は取っておいてもらいたい。そうすれば2セット目に精神的余裕ができる。余裕ができたら周りが見えなくなるような状況には陥りにくい。
「!少しネットに近い…!」
二口君のサーブにより、レシーブが崩れてトスがネット寄りに上がった。ブロックとの真っ向勝負。
やっぱりブロックに止められてしまった。
「ああっ!」
結先輩が思わず、そう声を漏らした時、ブロックにより止められたボールに飛び込むノヤっさんの姿。
ボールは綺麗に飛雄君の元へ。
「影山!!」
「持って来ォォい!!」
「「10番!!」」
伊達工が翔ちゃんをマークして動く中、翔ちゃんの後ろから旭さんが飛んだ。うちの最強の囮≠ノつられた鉄壁は、影も形もなくなっていた。
「旭さん!!」
みんなが固唾を飲んで見守る中、旭さんの放った重い一球は、誰の手にも触れられる事なく伊達工のコートに落ちた。
*
第2セットは第1セット以上にせったものの、最後は旭さん&ノヤっさんペアの活躍で見事に勝利を収めた。第1セットともにセットを取った烏野は伊達工をストレートで降したのだった。
「あ、いた!」
移動しようとしていたみんなを見つけ、他の試合の邪魔にならないようにしながら小走りで向かう。
試合が終わりさえすれば、ベンチに入れない人も入って良かったはず。
「ノヤっさぁぁぁん!今日はまた一段と輝いてた!」
「おぉー!そうだろそうだろ!」
3月には全く歯が立たなかった伊達工に勝った事が嬉しすぎて、感極まってノヤっさんに抱きついた。
ホントこの人の活躍っぷりといったら、驚かされるばかりだった。
「翔ちゃんもお疲れー!」
「あわわわっ!」
「なまえ!日向がまたショートしそうだから放してあげて!」
スガさんに言われ、パッと体を離して翔ちゃんの顔を見たら、茹でタコみたいに真っ赤になってオロオロしていた。軽くハグしただけなのに、照れるなんて可愛いなぁ。きっと、こういうスキンシップ慣れてないんだろうね。
「キャァァァ!!」
「!あれは…」
女子の黄色い声に全員同時に近くのコートを見れば、そこには既にマッチポイントを迎えている青城が試合をしていた。サーブの番は、あの強烈なサーブをもつ徹先輩で、彼のサーブで第1セットは終了した。
「あのサーブいつ見ても凄いな…」
みんなが立ち尽くしている中、コーチの提案で、青城の試合を応援席から見る事になった。…午前中とは真逆の立ち位置。彼らはその後、私達が上から見る中、第2セットも見事に手中に収めのだった。
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