秒針 | ナノ

烏野のゲーマー(1/3)

「このホイッスル壊れてやがる」

コーチのその一言から、私は日中の熱い中、買い物に行く羽目になった。







「眩しー…」

片手を額にやり、顔に影を作る。

合宿4日目の今日。2つある内の1つのホイッスルの音が出なくなった。もう1つあるとはいえ、明日の音駒との試合までに壊れないという保証は無い。なので、急遽スポーツ店に買いに行く事になった。

「暑いぃ…」

手をうちわにしながらダラダラと歩く。真夏のように風が生温いわけではないが、とにかく直射日光が強くて熱い。日焼けをしたくないが故に着て来た烏野の黒ジャージが、日光を全て熱に変えて蓄えていく。焼けたくない!でも熱い!

「あ、屋根付きベンチ発見」

途中で見つけた公園のベンチに避難し、肩に掛けている小さめのスポーツバッグからお茶を取り出し飲む。

「あちぃな…」

突如、声が聞こえたかと思えば、座っているベンチに軽く振動が伝わってくる。隣を見ると、少し離れたところに赤いジャージの人が汗を手で拭いながら座っている。鼻 高いなぁ…目も切れ長で小さいわけじゃない。

「暑いですよねー」

相手の一人言とは分かっているが、ちょっと返事してみる。

「!」

相手は少し驚いた様子で私を見ると、直ぐに作ったような笑みを浮かべ、そうですねと言った。お、青城のイケメン主将とはまた違ったタイプのイケメンだ!髪型が変わってるのがちょっと気になるけど。

「特に日差しとかでしょう?」
「それですよ!私もう直射日光当たり過ぎて丸焦げになるかと思いましたもん」
「はははっ、丸焦げって」

冗談めいた事を言ってみるが、彼は先程と変わらず愛想笑いをしているように見える。ふと、彼の下ジャージを見れば、横向きにローマ字で何か書いてあるのに気づいた。ねこ、ま、バレーボール、C?…音駒バレーボールクラブ!

「あの、もしかして東京の音駒高校のバレー部だったりします?」

彼は私の言葉に目を丸くしていたが、私が背中に書かれた烏野高校の文字を見せると、合点がいったようで、へぇーと笑う。

「こんな偶然もあるんだな」
「ほんと!」

お互い同じ高校生と分かってタメ口になったのもあるが、相手のよそよそしさが少し軽減されたように思えた。

「そうだ。この辺りにスポーツ店ってない?テーピングが切れてさー。近くのホームセンターとか行ってみたんだけど無かったんだよねー」
「ここからだと烏野SPORTSが一番近いかな。私も今から行くつもりなんだけど」

私と同じで彼も買い出しを頼まれたみたいだ。こういうのは大体マネージャーか後輩がする仕事だから、この人も1年生か2年生って事だよね。

年が近いと知って、余計な気を遣う必要がなくなり、さっきよりも話しやすくなった。

「お、じゃあ良かったら案内してくんない?」
「うん。そしたら早速、今から行こうか」

厚い雲が太陽にかかったおかげで、日差しが少し弱くなっていた。烏野SPORTSに移動するのに、私達はベンチから立ち上がる。

「そういや名前まだだったな。俺は黒尾鉄朗。普通に黒尾とかクロって呼ばれてる」
「じゃあクロね。私はみょうじなまえ。名字で呼ばれるより名前で呼ばれる方が好きかな」
「ならなまえって呼ばせてもらうわ」

自己紹介後は たわいの話をしながら烏野SPORTSに向かった。





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