「?はい」
放課後課外に向けて、教材を準備していたらタケちゃんが教室までやって来た。私はタケちゃんが待っている廊下に出る。
「急に呼びたしたりしてごめんね」
「いえ!それよりどうしたんですか?」
先生が自分の授業の時以外に教室に来るのは珍しい。担任なら話は別だが。それにタケちゃんはうちのクラスの授業を持っているわけじゃないから尚更。
「うん…あのね。ちょっとみょうじさんの力を借りたくて…」
「?」
私はピンと来ないまま、タケちゃんの話を聞く。
*
「じゃあ、つまり、その人に指導者になってくれるよう説得するのに私にも協力して欲しいという事ですか」
話を要約して繰り返せば大きく頷かれる。
「バレーに詳しい人が説得したらまた違うかなと思って…。あ!でもみょうじさんが嫌なら無理にとは言…」
「面白そう!行きたいです!」
「ほんと!?」
行きたいと言えば、タケちゃんの顔がパッと明るくなった。だって指導者候補、気になる!
「いつ行きます!?明日!?明後日!?」
「できたら今から行く説得にも着いて来て欲しいんだけど…」
「今からですか!じゃあ早速行きま……あ…でも」
今から放課後課外があるんだった!しかも化学!担任の城山先生の授業だ。無断で休みでもしたら、明日朝から理由を問いただされるに違いない。せめて他の科目だったら…!
「すみません…今日も行きたいのは山々なんですが課外が…」
肩をガックリ落として伝える。タケちゃんスカウト中の指導者候補見たかったのに!
「あぁ、それなら大丈夫。城山先生には許可貰ってるから」
「ほんとですか!」
タケちゃんぬかりない!
「ただし、みょうじさんが良ければって言ってたけど」
休めば1回分勉強が遅れる訳だし…と言うタケちゃんに私は、構いません!と即答した。ノートを取ってもらってさえいれば、1回くらいならどうにかなる!
「カバン取ってきます!」
「うん、本当に助か、」
「ともだちー!プリントとノートお願い!」
「えぇ!マジで休むのなまえ?!」
「みょうじずりぃぞ!」
私はクラスメイトからブーイングを受けながらタケちゃんとともに教室を後にした。
*
「タケちゃん、あのここって…」
「君達生徒がよく利用してる坂ノ下商店だよ!」
「じゃあその指導者候補っていうのは…」
「ここのお店の息子さんだよ」
タケちゃんマジか。
先生の候補に上げている指導者が分かり、必死に説得している理由も分かった。
「まずは他にお客さんがいないか確認して…」
外からコッソリと中を覗き込もうとするタケちゃん。怪しすぎます、なんて思いつつも私も同じように中を覗き込む。
「フフンフーン〜って、うわあぁぁぁ!!」
上機嫌に鼻歌を歌いながら仕事をしていた相手は中を覗く私達に気づき、驚き声を上げた。そんな、お化けが出たような驚き方しなくても…
「なっ何してるっ!?って、お前は…」
相手は私を見て目を白黒させる。最後に会ってから1年の以上経っているが、覚えてもらってたみたいだ。
「はい!今日はうちの新マネージャーさんも連れて来ました!」
タケちゃんが得意げに言った。だけど、驚かれてる理由がタケちゃんの思っているものとは別のものだという事を私は知っている。なんせ、この人は…
「お前、バレー辞めたのかよ」
「うん」
私が小学生の時に指導してもらっていた烏養監督のお孫さんだからだ。
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