秒針 | ナノ

憧れ(1/3)

ジリリリリリー

「ん…もう朝…?」

携帯で設定していたアラーム音が寝室に鳴り響く。
薄目を開けて、それに手を伸ばし止める。うぅ〜寒〜。布団から出たくない。
布団を被り直そうとすれば、アラームが再び鳴り始める。

「あーもう、分かった分かったから」

携帯を手に取り、アラームを解除した。5分おき設定という便利機能をこの時ばかりは憎らしく思う。
寒いのを我慢して起き上がると、背伸びをしてゆっくり立ち上がる。

時刻は5時前。日曜の今日は練習は8時からなのだが、その前の時間に少しでも自主練がしたいという事から1年生2人が6時から体育館に来るという話を昨日、小耳に挟んでいた。

私は1マネージャーとして、そんな彼らの自主練に付き合おうと決めていた。1年生マネはいないし、1,2年のサポートするのは例え自主練であっても私の役目。

用意を済ませると、部活バッグだけを持ち、家を出た。







「早く暖かくならないかな」

マフラーに顔をうずめて歩く。
家から烏野高校までは歩いて20分ちょっと。遠くもなく近くもない微妙な距離。自転車通学も可能な距離らしいが、究極急いでる時以外は歩いて登校している。朝の風を感じながらボーッと歩いたり、音楽を聴きながらのんびり歩くこの時間が意外と好きだったりする。

「ふぁぁぁ…」

学校の校門をくぐり、あくびをしながら第二体育館に向かう。私の足音以外の音は一切無く、辺りはシーンと静まり返っている。思えば高校に入ってからこんな時間に学校来たの初めてだ。中学の時は部活で朝練あったから早朝に学校行ってたけど。

「角を曲がったら〜」
「あ、この声」

体育館まで後少しの所で、反対方面からのん気に歌う声が聞こえてきた。凄く機嫌が良さそうだな。

「トーストくわえた美少女と〜…って、うおッ!」

私に気づいたのか声の主は驚いた様子で一度立ち止まる。前から思ってましたが、美少女はトーストをくわえて出歩いたりはしないかと。

「お前!なんでいるんだよ!?」

龍ちゃんは不審そうにこちらを見ながら歩いてくる。私は彼がここまで来るのを待つのに、歩みを止めて口だけ動かす。

「1年生の自主練に混ぜてもらおうと思って」
「あいつら来る事知ってたのかよ」
「1人だけ面倒見の良い先輩になんてさせない!」

どうせ後で潔子さんに褒められようって魂胆なんでしょ?私も潔子さんに褒められたい。てか、スガさんに褒められたい。

キュッキュッー

ふいに体育館の中からシューズで床を踏み締める音がするのに気づいた。

「お、俺は決して1人だけ良い格好しようなんて事はだな…って、待てコラァ!!」

ブツブツ言っている龍ちゃんを無視して体育館に入る。

「ぬぁぁー!!またアウトかぁぁ!」
「連続でふかしてんじゃねぇよ!」

コートには既にアップを終えてスパイク練習をする翔ちゃんと飛雄君の姿があった。2人は集中しているせいか、私が来た事に気づいていない。

「まだ6時なったばっかりなのに…」

彼らを見た感じ、ここ5分10分前に来たようには見えない。一体何時から来て練習してんだろ…

「相変わらずあいつら早ぇなー」

入口で立ち尽くしていれば、龍ちゃんが感心した様子で体育館に入ってくる。相変わらずって事は、あの2人はいつも今日みたいに早くから来ているという事か。

「あ!田中さんになまえ!」
「おはざすッ!」
「おう!」
「おはよー」

私達はバッグを隅に置いた。マフラー取った瞬間、首に体育館内の冷えた空気を感じ、思わず手で首を覆う。早く体動かして暖まらないと…!

「あの…どうして?」

不思議そうにする翔ちゃんの横で、飛雄君も訳が分からないといった様子。一方の龍ちゃんは、待ってましたとばかりに、得意げにその質問に答える。

「お前らよ〜、小声で喋ってたつもりだろうけど会話筒抜けなんだよ」
「たぶん近くにいた私達しか聞いてないけどね」
「……え」

飛雄君は私達の言葉に軽く衝撃を受けたようで、そんな声を漏らす。

「…ふ。あっはははは!」

ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている2人から、本人達は小声で話してると本気で思い込んでいたのが分かり、思わず笑ってしまった。

「後輩が自主練すると聞いたからには付き合わねぇ訳にはいかねぇだろ」

なんせ俺は先輩だからな!と言う例の龍ちゃんの口癖に1年生2人は田中先輩!と目を輝かせていた。

「…あ」

1年生の練習に混ざる龍ちゃんを見れば、頭の天辺で揺れているボンボンが目に入る。上に着ていたジャージを脱いで、練習着姿になっているだけに、それの存在は一層浮いて見える。…本人は未だに気づいていないみたいだけど。

「なにジロジロこっち見てんだよ?あ、お前も同い年ながら俺を尊敬したか!そうかそうか!何ならお前も先輩って呼んでもいいんだぜ?」
「うん、取り敢えずそのニット帽を取りましょうか田中先輩」

ニット帽を指差したら、翔ちゃんもそれに気付き笑い出す。そして龍ちゃんに頭をはたかれていた。





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