「日向!レシーブはなるべくなら腕は振らずに…」
「オッス!」
体育館前ではいつものように日向と菅原さんが練習している。朝は吐くまでレシーブ練習してたっていうのに、あいつの体力は底なしか。
自動販売機のボタンを押し、出てきた飲み物にストローを指す。そして、ボーッと日向達の練習を見ながら、飲み物を口にする。
「あたしバナナオレにしようかなー」
「じゃあうちはイチゴオレ!」
横では2人の女子がそんな会話をしている。…ここに来ればみょうじさんとまた会えるかもしれないと思い、あれから毎日と言っていいほど来ているが、今日も彼女が来る気配が無い。会ったら色々聞きたい事があるってのに。
校舎の2階を見上げれば、大きな欠伸をしながら廊下を歩く田中さんが見えた。みょうじさんも確か1つ上のはずだから、田中さんに聞けばクラスとか分かるかもしんねぇけど…
【みょうじを知ってるかって?そりゃ知ってんけど…】
【何組か分かります?】
【そんな事聞いてどうすんだ?あ!まさか告白タイム!?】
(へぇぇ〜。王様、バレー以外の事には興味無いかと思ってた〜】
【そんなんじゃねぇ!】
【大地さんスガさん大変です!あのバレー馬鹿の影山が…!】
………ってことになり兼ねねぇし。
「おっ!誰かと思えば影山じゃん!」
「チワッス」
俺に気づいた菅原さんがボールを片手にこちらに向かってくる。
「げっ!お前なんでここにいんの!?…ハッ!まさか偵察…!!」
「同じチームのやつ偵察してどうすんだ!ボゲ!日向ボゲ!」
「そ、そこまで言わなくてもいいだろー!」
俺の顔を見るなり嫌そうな顔をした日向の頭を上から押さえつける。げっ、は、こっちのセリフだ!
「昼休みまでやめろよ、お前ら…」
菅原さんに止められ、日向の頭から手をどける。先輩に止められたら、さすがにそれを無視する訳にはいかない。本当はもっと押さえつけてやりたいところだが…
「そういや影山。ここで誰かと待ち合わせでもしてんの?」
「え?なんでですか?」
「いや、なんかさっきからキョロキョロしてるから」
「キョ…キョロキョロって…!」
俺、はたから見たらそんなに挙動が変だったのか…!?そんなつもりは全く無かったんだけど。
「自覚無しかよー」
「あぁ゛!?」
「こら、日向!」
馬鹿にしてくる日向の胸倉を掴もうとしたが、先に菅原さんに注意されていたので止めた。
「あ!そういえば1年生でバレーがめちゃくちゃ上手い女子がいるんですよ!」
「お!それほんとか!」
「はい!菅原さんが用事でいなかった時にパス練習に付き合ってもらって…」
日向と菅原さんが話している横で、飲み終わったパックを潰す。特別話す事もねぇし、いつまでもここにいる理由は無い。
「それじゃ、俺は失礼します」
「おぉ、また明日の朝練な!」
練習を再開する2人を置いて、俺は1人教室に向かう。結局、今日もみょうじさんは来なかった。
「…やっぱり田中さんに聞くしかねぇのかな」
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