秒針 | ナノ

東京勢とご対面(1/3)

東京遠征1日目。空が鮮やかなオレンジに覆われた頃、梟谷に到着した。着いた途端に冴子ちゃん達3人は全速力で体育館に走って行って、私は見事に置いて行かれた。

「あ!なまえ先輩!」

彼らから少し遅れた形で体育館の前まで来れば、ちょうど同じタイミングで中から仁花が出てきた。顔を明るくして駆け寄ってくる彼女と距離が縮まったところで私は彼女に抱きついた。

「仁花〜!会いたかったよ〜」
「わわわっ!!先輩の綺麗な服が…!私汗かいてるので汚れるっス!!」
「構わない構わない」

けれど、仁花があまりにも気にしているから体を離した。練習試合の様子を聞けば、飛雄君と翔ちゃんが抜けた穴は大きかったようで、今日はずっと負け越しているらしい。しかも、負けたチームはフライングという名のペナルティもあるんだとか。フライング懐かしいな。私も現役の時よくやらせられたもんだ。

「うわ、人多い…!」
「多いですよね!しかも皆さん大きいから余計に圧迫感が…」

仁花と体育館に入ると、人の多さに圧倒される。5つの学校の人間が集結しているからなのは勿論のこと、烏野に比べて、どの学校も部員数が多いのもその要因の1つだろう。

「こっち試合終わったぞー!」
「次はAコートで音駒と生川、Bコートで烏野と森然か」

そう言って私達の前を通り過ぎて行った人は、梟谷と書かれたシャツを着ていた。梟谷は確か、光太郎君と京治君の学校だったはず。2人ともRAINでしか交流がないから顔は知らない。練習後でもクロに聞いてみよう。

Aコートの試合が終わって5分ほどすると、2コート同時に試合が始まった。烏野が試合をするBコートでは、両チームの主将が主審の前に行き、最初のサーブ権を決めるのにジャンケンをしている。

「おい、何やってんだ!早くボール渡せよ!」
「分かってるってー!ほら、渡したぞ!」
「バカ!サーブ音駒じゃなくて生川からだっつの!」

後ろから大きな声がして、顔だけ向けたらAコートの副審の人とラインズマンの1人が会話をしていた。どうやら副審の人がゲームに使うボールを持ったまま、試合をするチームに渡すのを忘れていたらしい。注意された後もボールを渡したはいいが、始めにサーブを打たない方の学校に渡して、また怒られていた。副審の人はアッシュグレーの髪を逆立てていて、ラインズマンの人は金髪に近い髪色をしている。

「!」

不意に副審の人と目が合った。すると、相手は満面の笑顔で手を振ってきた。近くには潔子さんと仁花もいるけど、視線は明らかに私をロックオンしている。だから無視するのは躊躇われて遠慮気味に手を振り返した。最初は誰だか分からなかったが、ふとある人物の名前が頭に浮かぶ。ひょっとして、あの人は光太郎君なのでは…!あのフレンドリーで自由な感じ多分そうだ!

「木兎、ちゃんと試合見てないとまた監督に怒られるよ〜」
「はいはい分かりましたー!!」

彼はこちらのコートの副審をしている人にも背を向けたまま注意されていた。やっぱり!性格もさることながら、雰囲気もイメージのままだ。しかしながら、こうも早く見つかるとは思わなかった。
光太郎君を発見したところで、Bコートでもゲーム開始のホイッスルが鳴った。

「うおっ!なんだ今の!?速攻か!?」
「それよりあの10番、打つ時目瞑ってなかった!?」

飛雄君と翔ちゃんの変人速攻に、試合相手の森然は驚きの声を上げる。初見なら誰でもあんな反応をするだろう。セッターがトスを上げる前からアタッカーが既に空中にいて、そしてそこにドンピシャの早いボールが上がって目を瞑ったまま打つ、なんて普通じゃ考えられない攻撃だ。

「すげー!なに今の!あの小さいやつ超飛んでたし!トスもビューンってめちゃくちゃ早かったし!」
「「「木兎!!!」」」

Aコートで弾かれたボールを拾いに行っている間に、こちらの試合を見ていたのだろう。光太郎君の興奮した声の後にチームメイトの怒号が聞こえた。

「「「ありがとうございました!」」」

ほどなくして、Bコートの試合は21対25で烏野の勝利で終わり、練習時間の都合によりこの日のラストゲームとなった。
Aコートではまだ試合が続いており、他の部員と共に観戦する。音駒側のコートには、GWの時にはいなかった背の高い人が入っていた。
色白で目鼻立ちがハッキリしている美形な人だ。恐らく彼がクロの言ってたハーフの1年生なんだろう。

高校からバレーを始めたと聞いていたが、そうは見えないくらい彼は綺麗にスパイクを決めていた。高いタッパからのスパイクは角度があって、ブロックに当てないと拾えないようなスパイクが何本もあった。

「ブロック間に合わなくても手は出せよ」
「あとさっきのレシーブ!手を振り回すな!強いボールは当てるだけでいいんだよ!」

ただ、ブロックとレシーブはまだまだのようで、クロと夜久さんにそれぞれ注意されていた。勘がいい人だとスパイクはそこそこ練習すれば形になってくるものだけど、ブロックとレシーブはそういうわけにはいかないもんね。

「すっげぇデカくねぇか?今ブロック飛んだやつ!」
「GWの時はいなかったよな?何モンなんだアイツ…」
「ロシアと日本のハーフらしいよ。高校からバレー始めたからGWの時はまだ戦力外で来れなかったんだって」

ノヤっさんと龍ちゃんが注目しているのも例のハーフ君みたいだ。私の隣で観戦する2人にクロからの情報を伝える。ノヤっさんはハーフかっけー!!と目を光らせていた。

「おいおい、日本語通じるのかよ…俺ロシア語も英語も話せねぇぞ」
「大丈夫だ龍!ジェスチャーすれば通じるはずだぜ!こうやって親指立ればグッドって意味に、」
「ノヤっさん、それロシアでは相手を侮辱する意味らしいよ」
「マジかよ!じゃあ他のジェスチャーを…」

私の指摘を機に、試合観戦はそっちのけで2人はジェスチャーの話を始める。その後、彼らのジェスチャー会話は段々と大きな身振り手振りとなっていき、最終的には大地さんに見つかって怒られていた。



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