秒針 | ナノ

曖昧模糊たる難問(1/2)

週明けの今日、先週末に行われた期末試験の答案用紙が早くも返ってきていた。結果はほぼ自己採点通りの点数で、この調子ならスペシャルボーナスをもらう事も、補習を受けることもないだろう。

「ねぇさっきの何点だった?」
「うち79だったよ。ともだちは?」
「あたしは…」

昼食を取りながら話題となるのは、午前中に返ってきたテストの点数。やれ国語は簡単だった、やれ科学は難しかった、など口々に言い合う友達2人の話に耳を傾けつつ、頭では違うことを考えていた。

期末試験の前日。最後の追い込みと電話のお礼も兼ねて飛雄君とファミレスに行った訳だが、途中、彼が何を思って言ったのか分からない言葉があった。そして未だに私の中で、その意味の見当はつかないまま。

…俺にとってみょうじさんのことは余計なことじゃない、か。飛雄君がバレーをする上で、私のことが直接影響するとは思えないし、むしろバレー以外の事柄は全て不要!という考えを持っているのは普段の彼を見ていれば分かる話だ。でも彼は、その全くもってバレーとは関係ない話を余計なことじゃないと言った。しかもちょっと怒ってる感じで。あ、もしかして私、部活中に上の空の時があったとか!?だとしたら、そのことでキレられるのも無理はない。いやでも、あのあと普通に話しながらご飯食べて勉強したよね!?試験終わってから部活で会った時も相手はいつも通りだったし!それに彼の性格上、部活中のことならその場で言いそうな気がする。じゃあなんで飛雄君はあの時、バレーとは無縁なことをイラついたように言ったのだろう…

「…なんか考え過ぎて分からなくなってきた」
「ちょっとなまえ、さっきから黙ってるけどさっきのテスト何点だったのよ」

完全に自分の世界に入ってしまっていたから、最後の方ほとんど話を聞いていなかった。慌てて点数を言えば、あんた頭おかしいんじゃないの!?と罵倒された。自分から聞いといてそれはあんまりじゃない!?

「おーす!なまえいるかー?」

食べ終わった弁当を片付けていたら、唐突に名前を呼ばれた。声の主を辿れば教室の入口にノヤっさんと龍ちゃんがいた。彼らが廊下に来るようにジェスチャーしてきた為、席を立って廊下に出た。

「どうしたの?2人揃って赤点取ったとか?」

ノヤっさん達がわざわざ昼休みに来る時は大抵ロクなことがない。それはマネージャーになる前から嫌というほど思い知らされていて、相手側から内容を告げられるよりも先に、私の方から話を振ってみる。タイミング的にこの話しかないんじゃないかと思って。違っていたとしても正解からそう遠くないはず。

「いきなり失礼な奴だな!取ってねぇよ!まだ!」
「俺も赤点は取ってねぇ!まだ!」
「おふたりさん、まだまだ言うのはやめましょうよ」

それだと必ずどれか赤点とるみたいな感じになっちゃうからね。あなた方レギュラー2人が合宿不参加とかシャレにならないからね。

「いけね!コイツに流されるところだったわ!」
「そのまま海まで流されれば良かったのにー」
「あぁん!?」
「落ち着け龍!喧嘩しにきた訳じゃねぇだろ!」

ノヤっさんになだめられ、龍ちゃんが咳払いをした。そして2人は顔を見合わせると、抜き打ち点数チェーック!と何処から持ってきたか分からない棒を手に、ビシッとこれまたよく分からないポーズをとる。そんな某ファッションチェックコーナーみたいに言われても…それよりその棒何に使うんですか。

「さっそく1限目のテストからチェックしま〜す」
「持ってきてないで〜す」

出せと言わんばかりに手を差し出されたが、もちろんテストの答案なんか持ち歩いてるはずもなく。口頭で1限目から順に教えれば、嘘つけ!と間を置かず返事が返ってくる。だからといって、証拠提出じゃないけど、いちいち席まで答案用紙を取りに行くのは面倒臭い。

「みょうじさん!」
「あれ?飛雄君?」

同級生2人に面倒臭さを感じていたら、唐突に後ろから声を掛けられた。振り返れば、ズンズンと大股でこちらに向かってくる飛雄君の姿。その顔はバレーで新技が決まった時のように嬉しげで、何か良いことでもあったんだろうなぁ、と想像できる。…やっぱりファミレスの件は私の考え過ぎだったのかな。
彼は私達の前まで来ると、チワッスと挨拶してから頭を下げる。

「あの、コレ…!」

挨拶早々に、飛雄君は4つに畳んでいた紙を広げ、それを半ば押し付けるような形で私に渡す。なんだろう?と全く見当のつかないまま受け取ると、それは英語の答案用紙。…って、よく見たらこれ!

「すごい!小テストとは比べ物にならない点数!」
「ウス!こんな点初めて取りました!」

答案用紙に書かれた点数は、50点の小テストで一桁をとっていたとは思えないほどのものだった。英単語に至っては満点。彼のことだ。ヤマを張るとかはせずに範囲内の単語全て覚えたのだろう。喜びを隠しきれない様子の飛雄君を見て、可愛いなぁと和みつつ、私まで嬉しくなる。しかも、私にわざわざ見せにまで来てくれるなんて、どこまで可愛い後輩なの!?

「「はぁ!?67点だとォォ!?」」

私の後ろから覗き込んだのであろう龍ちゃんとノヤっさんは、自分達よりも飛雄君の点が良かったのか、彼の答案を見るや否やショックを受けたようにフリーズしてしまった。私はそれを無視して飛雄君に答案用紙を返す。

「英単語覚えるの大変だったでしょ?」
「ハイ。でも暗記問題くらい自分でどうにかしないとと思って。覚えるまでひたすらノートに書いてました」
「そっか!じゃあ、これはその努力の証だね!」

偉いぞ〜!と、少し背伸びをして飛雄君の頭を撫でる。合宿の為とはいえ、嫌いな勉強をここまで頑張るなんて本当にバレー好きなんだなぁ。

「そういえば赤点の方は?大丈夫?」
「………」
「飛雄君?」

彼の頭から手を離し、再度呼びかけてみる。すると、飛雄君はハッとしたようにこちらを見てから、すぐに視線を逸らした。その顔は紛れもなく不機嫌な時のもので、眉間に皺をよせ、口を尖らせている。それに顔も若干赤い。目線はこちらではなく斜め下に向いていて目も合わせてくれない。なんか分かんないけど怒らせたかも…!

「…俺」

謝ろうにも理由が分からなくて、切り出す言葉を探していたら、先に彼の方が沈黙を破った。何を言われるのかとドギマギする中、飛雄君は無言で答案用紙を乱暴に畳んでポケットに入れる。

「戻ります、教室」
「あ、ちょっと待、」

弁解する間もなく、彼は足早に行ってしまった。ヤバい!絶対怒らせた…!

「はははっ!めっちゃ怒ってたな!影山!」
「わ、笑わないでよノヤっさん…」

いつの間に復活したのか、大笑いするノヤっさんとその後ろで呆れ顔の龍ちゃん。なんだか私だけ何も分かってないみたいで凄く居心地が悪い。

「バカだなぁ、お前。プライドの塊みたいな影山があんなことされたら怒るに決まってんじゃねぇか」
「え、なんで!?」
「なんでって…そりゃあナメられてる気がするからだよ。ガキ扱いされてるみたいで」
「別にそんなつもりは…!で、でも前は怒らなかったよ!?」

そうだ。前にも何度か同じようなことをした時があったが、今日みたいに怒った感じはなかった。手を払いのけられたりとかもなかったと思う。…ハッ!まさか今まで嫌で我慢してたのが今日爆発しちゃったとか!?

「とりあえずさっさと謝って、部活までには許してもらえ?」
「許してもらえますかね」
「今から弱気になってどうすんだ!ガッツだガッツ!それか根性!」
「ノヤっさん、たぶんそれ両方同じ意味だぞ」




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