秒針 | ナノ

勉強会最終日(1/2)

「明日からいよいよ期末試験ですね!」

赤点が心配な人もそうでない人も全力疾走ですよ!と言いながら、プリントに落書きしている田中さんの頭をはたくみょうじさん。

みょうじさんと電話で話した日から、彼女の表情が心なしか変わった気がした。同じ明るいでも、前のような違和感を感じなくなった。相変わらず、その違和感が具体的に何なのかと聞かれれば、自分でも分からないまま。でも、それでもいい。



『負けてないよ』
『あの人に負けないくらいの武器を、飛雄君は持ってる』



インハイで青城に敗れた日の帰り、俺はみょうじさんの言葉に救われた。だから俺も、彼女の為に何かできないか自分なりに考えた。その結果が電話だった。世間でいう心に響くような言葉とか、気の利いた言葉とかは思いつかなかったし、ただ自分が思ってることを言っただけになってしまったけど、みょうじさんの気持ちを少しでも晴れさせられることができたのなら、それでいい。

「すみません。試験前日まで西谷達を見てもらって」
「構わないよ。教えるのも勉強になるし」
「そうそう。それに縁下が謝ることじゃないって」

な?と菅原さんは笑顔で西谷さんと田中さんの方を見た。2人は揃ってひきつった笑みを作ると、サーセン、と謝る。

試験休みでこの一週間部活は無かったけど、放課後 部室に残り、田中さん達は縁下さんや澤村さん達に、俺達はみょうじさんに勉強を教わっていた。時々山口や谷地さんにも教えてもらっていたが、ほとんどはみょうじさんに見てもらっていた。

「それよりさ、俺、なまえの方が心配なんだけど。人に教えてばかりに見えたから」
「私は大丈夫ですよスガさん!もうバッチリです!どっからでもかかってこいって感じです」

菅原さんに話し掛けられ、みょうじさんは嬉しそうに返事をする。…前から思ってたけど、みょうじさんって菅原さんと話す時はいつも以上にニコニコしてる気がする。…なんか、イライラしてきた。

「みょうじさ、」
「飛雄君」

みょうじさんの意識をこちらに向けたくて、話しかけようとしたら、彼女が同じタイミングで俺の名前を呼んだ。先にどうぞ、と言われるも、話す内容なんかなかった俺は、いいです、と断る。

「帰り、ちょっといいかな?」

最後の追い込み!とイタズラな笑みで言うみょうじさんに、横から日向が、俺も!と言っていたが、なぜか菅原さんがそれを制していた。




prev | bkm | next
83


TOP