秒針 | ナノ

梅雨の1コマ(1/3)

私がこれまで生きてきた中で、偶然の出来事というものには幾らか遭遇してきました。でも、それは本当にちょっとしたことばかりで、買い物中に中学時代の同級生にバッタリ会ったとか、友達とキーホルダーが一緒だったとか…たぶん他の人でもよくあることです。だけど今日私の身に起きた偶然は…

「エット…ハジメマシテ…?」
「ハ、ハハハジメマシテッ!!」
「なんで2人とも片言なの?」

偶然は偶然でも今までのものとは桁が違いました。







「じゃあ2人は今日が初対面って訳じゃないんだね」

清水先輩の問い掛けに、はい!と答える。
昼休みに男子バレー部のマネージャーである清水先輩から勧誘されて、つい肯定してしまったことから、放課後見学に行くことになったのですが…。清水先輩の言っていた、もう一人のマネージャーさんというのが、偶然にも前に階段でぶつかりそうになった先輩だった訳です。まさか、こんな形で再会するとは…!

「一週間?くらい前に階段で!ね!」
「ハイッ!仰られる通りでございます!」

そう返事すると、清水先輩はクスクス笑い、みょうじ先輩は、そんなにかしこまらなくていいよと微笑みながら言う。なんと優しい先輩方なのだろう…!こんな見ず知らずの私にここまで優しい言葉を掛けて下さるとは!

「あ、そういえば紹介まだだったね。1年生の谷地仁花ちゃん」
「宜しくお願いシャス!!」
「こちらこそ宜しくお願いします!改めまして、2年のみょうじなまえです」

ニコリと笑って自己紹介するみょうじ先輩に慌てて頭を下げた。ハッ!しまった!みょうじ先輩は自分で自己紹介したのに、私は清水先輩に紹介してもらってしまった!生意気だと思われてたらどうしよう!

「え…あ…」
「仁花ちゃんは何組?」
「!?ご、5組です!」
「おー!進学クラスか!頭良いんだね!」
「い、いえ!全然そんなこと…!!」

どう誤解を解こうか焦っていたら、みょうじ先輩は特に気にする様子もなく話し掛けてくれた。お世辞とはいえ、こんなに直球に褒められたことが無かったからつい顔がデレてしまう。取り敢えず誤解はされてないみたいだ。良かったぁぁ。って、私も何か話さなくては!

「みょうじ先輩は何組なのですか?!」
「6組だよー」
「6組!?」

6組といえば、確か前に担任の先生が言っていた特別進学クラスではありませんか!

「この子こう見えて実は頭良いんだ」
「それって私がチャランポランに見えるってことですか潔子さん」

ショックからか、うなだれた様子のみょうじ先輩に、清水先輩は悪戯な笑みを浮かべて、冗談、と一言言った。先輩達仲が良いんだなぁ。

「あ、そうだ。私、苗字で呼ばれるのあんまり好きじゃないから名前で呼んで?なんなら呼び捨てでも!」
「へ!?名前ですか!?」

いきなり先輩を名前呼びとはなんと恐れ多い…!呼び捨てなんて以ての外だ!でも、苗字で呼ばれるの好きじゃないってみょうじ先輩本人が言ってるし、嫌いなことをするよりかは…。

「なまえ先輩…は、いかがでしょうか…?」

言い終わった後に、恐る恐る先輩の顔を見たら嬉しそうに頷いてくれた。ひとまずホッとする。

「2人が打ち解けたところで、さっそく体育館に行こうか」
「う、ウスッ!」
「そうですね!」

体育館に向かいながら、先輩達の部の説明を一語一句逃さないように聞く。あ!仮入部の事ばかりで頭からスッカリ抜けていたけれど…

「なまえ先輩!この間の階段でのことなのですが!」
「うん!それはもう忘れよう!」





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