没復活SS DH




大嫌い。


10年前も現在も、それが照れ隠しだってことは、とうの昔に知っている。








『あなたなんて大嫌い』



やっとのことで時間ができたので会いには行けずとも、昔からいつだって愛しいあの子に久しぶりの電話をかければ、それはそれは開口一番歯切れよく。

10年前には彼が良く照れ隠しの言葉として使っていたその言葉は、しかし最近になってからはもうそんなことも言われなくなり、大人に成長した彼は今では素直な愛までも囁いてくれるようになったというのに。




「恭弥?どうしたんだ」

『うるさい。恍けるな』



まるでこちらが恭弥の機嫌のそぐわない理由を知っているかのような言い草のまま口を紡がれ、ディーノはますますわからなくなる。



「え…俺何かしたか…?」

『潔白ぶるなよ』



ディーノの頭は困惑したまま埒の開かぬまま、無情にも恭弥との連絡手段は他でもない彼の手により一方的に切られてしまった。


はて。
何かやらかしただろうか。

電話を切られて暫く大人しく頭を回していたディーノだが、幾ら記憶を辿れど心当たりは見つからない。
そもそものこと、ディーノが最後に恋人に会ったのは、今から4ヶ月と2週間ほども前なのだ。それで何をどうやらかせという。
最後の逢瀬のときだってそれほど機嫌も悪くなく、寧ろいつもに比べればどちらかというと良かったのだ。よって、4ヶ月前のディーノの非ではないと見た。



「うむ…」



では何故だ。
暫くうんうんと考えてはみるものの、やはり駄目だ。さっぱり分からない。
仕方ない。


「…本人に聞くしかないよなー…」


欠伸と共に伸びを一つ、ディーノはすぐさまボンゴレへ飛ぶ準備を始めた。
思い立ったが吉日、とは誰が言ったか。
そもそもこの場合、電話を掛けても、恐らく(というか絶対)無駄手間であろうことはもう10年前から学習済みである。











今の今まで仕事三昧、溜まっている仕事はかなり減っていたし、急な仕事も舞い込むこともなかったので案外すんなりと我が腹心から外出の許可を得た。






ボンゴレ本部に着けば、門番への会釈もそこそこに足早に恭弥の私部屋に向かう。
久しぶりに顔を出したのだから、後でツナにも挨拶をしていかなければならないとも思うが、今はなにより、早く恭弥の大嫌いの理由を突き止めて、猫の不機嫌の棘を宥めて甘やかし尽くしてあげなくては。

因みに、ボンゴレ本部ではディーノはもうすでにほぼ顔パスである。










「恭弥ぁ〜…」




相も変わらず埃ひとつとも見当たらない、控え目に和風桜柄が掘られた上等の襖をそろそろと開ける。
以前ここに来たのは、もうかれこれ1年ほど前になるのだろうか。


電気のついていない部屋をくるりと見回しながら、襖を後ろ手でそっと閉める。



「…あぁ」




畳の良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景とも言えるだだっ広い部屋の中央に敷かれた布団が、嫌に不自然に盛り上がっている。
一体何歳児の拗ね方だ。


足音も気配も隠すことはせず、その明らかにその目的の人が納まっているであろう山に近づく。
ばさり。何の躊躇もなく無遠慮に布団も捲れば。




「っうおぁあ!!?」



ビッ、と何かが高速で空を切る。
それはデフォルトのトンファーでも、ましてや当然、可愛らしいその愛おしい姿でもなく。



「…包丁は今までなかったぞ…」



白く長いその手が握ってディーノの鼻先に突き刺さんとしているのは、暗闇で鋭利に光る紛れもない包丁の刃先だった。

ギリギリのところで持ち前の反射神経が役に立った。
何度も、生まれたときから今まで生と死の狭間に立ち続けているディーノだが、百戦錬磨の彼でも、流石に冷や汗が流れた。
あと少し遅かったら、と、想像するだけでもぞくりと鳥肌が立つ。




「…何しに来た」




布団の中から、くぐもった彼の声が聞こえる。
明らかに最高潮に不機嫌なときの拗ねた冷たい声だが、やっぱり電波を通してではない恭弥の声が鼓膜を揺らすのは嬉しい。

そんな些細なことに状況も忘れて顔を綻ばせてしまうディーノだが、恭弥の握る包丁の切っ先は未だディーノの鼻のすぐ先だ。




「…恭弥…なーんでそんなに怒ってんだ?」



無意識に甘くなる声は致し方なし、ディーノは撫でるように優しく恭弥に問うた。

包丁が鼻先から乱雑に降ろされて、そのまま畳に突き立てられた。
その瞬間、ばさりと白い塊が飛んで行ったと思えば、薄暗闇の中でも艶めく黒髪が姿を現した。布団を雑に被っていたためか、夜着として恭弥が愛用している黒い着物の胸元が肌蹴ている。
すっかりご無沙汰なディーノとしてはそれはとても欲情的なのだが、いつだって自分のことは二の次。風邪を引いてしまう、早く正してあげねば。

今度はちゃんといつものように目を合わせて名前を呼んでやろうと、拗ねるように俯く恭弥の顔を覗き込む。



むす、と唇を尖らせ眉根に皺を寄せる様子は、拗ねている時のそれと変わらず可愛いものなのだが、その猫のような切れ長の凛々しい目元は痛々しく赤く腫れていた。
薄暗い中でいつもよりも青白く見える頬には、健気にも涙の跡が一筋薄く線を描いている。

「っ、恭弥!?おまっ…何で…」


予想外の事態に、ディーノは思わず落ちつけていた腰を浮かせた。
恭弥が涙を流すなどそれこそ今も昔も珍しく稀なことで、ディーノ自身、いつだって強い恭弥のそんな弱々しい姿は見たことがなく、強いて言えば情事の時の生理的な涙だけだ。

思わず頬に伸ばした手は無常にも強く振り払われてしまった。




「…っ何で泣いてんだよ…」








続かない







← | →




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -