暇人


 この寒いのに、沖田は平気な顔でアイスを食べていた。提出された始末書を、眉間に深くしわを刻んで読んでいる土方の隣で、暇そうに寝転がっているのを、土方は敢えて無視していたが、沖田がふとアイスから口を離してこちらに顔を向けるのが、横目にも分かった。

「土方さん」
「なに」
「ちょっと付き合ってくれやせんか」
「はぁ? 飯はもう食っただろ。俺は甘味なんていかねぇぞ」

 バズーカで破壊、の下りを読み飛ばして、次の始末書を読み始める。キリが良かったので、また頭の端っこが沖田のことを考え始める。もはや、沖田専用の思考回路が頭のなかに築かれてしまっているのだ。生存のための本能ともいえる無意識の回路は、沖田が爆発物、及びそれに類する攻撃を仕掛けてくる可能性は低いと結論をはじき出す。

 それにしても、と、思考の本筋でさえも沖田のことを考え始めた。嫌いだとかキモチワルイとか死ねとか言う割に、同じ口で沖田はこんなふうに、あっさりと土方に言葉を掛ける。財布目当てかも知れないが、飯は大体一緒に食っている。だから土方には懐かれているという自覚があった。本人に言うと、凄まじく冷たい視線で否定されるので口には出さないが、土方の認識は、そんな風になっている。そうとでも思わなければやっていられない。

 どうしてもというなら甘味ぐらい付き合ってもいい、そんな風に思いついた気持ちを裏切って、違います、と沖田は続けた。

「お前、アイスなんて食って寒くねぇの」
「寒いです。食いやす?」
「いらねーよ」
「それで、付き合って下さいよ」
「どこに?」
「捻りのないボケは止めなせぇ」
「まさかお付き合いじゃねぇだろ」
「それです、それ」
「………………言っとくが、副長の座は遺族に分配なんてされないからな」
「何の話でさァ」

 沖田は諦めたように、溶け始めたアイスをちょびちょびとまた食べ始める。土方はアイスのように冷や汗をかきながら、沖田の様子をうかがった。相変わらず考えていることは読めない。

「お前、俺のこと好きなの?」

 ストレートに問いかけると、沖田の眉間にしわがよった。あまりにも不条理な反応だ。

「お付き合いがしたいんでさァ」
「だったら他に相手なんていくらでもいるだろ。俺は忙しいんだよ。お子ちゃまの相手なんて」
「やっぱそうですか。じゃあ暇そうな人に頼みますかね」
「……」
「俺は土方さんが良かったんですけど。駄目なら仕方ありやせん」

 沖田はそういって、ぱっと体を起こした。一度断っても、引き下がってもう一回くらい頼むのが礼儀じゃないのかと思いながら、自分の好奇心を抑えるべく、手元の書類を凝視する。

「……で、どこいくんだ?」
「そうですねー。やっぱ外の人に頼んだほうがいいですよね」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ外をうろついてる、暇な人に頼みますかね」
「……万事屋は、駄目だぞ」
「何でですか?」
「情報ろーえいの恐れがある」
「じゃあ、どの道、隊内の人がいいですね」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ平隊士に片っ端から」
「駄目だ」
「なんでですか」
「ぱわはらになるだろ」
「俺、近藤さんは嫌ですよ」
「……分かった」

 「仕方ないから付き合ってやる」そう告げたところで、沖田の反応が喜色満面となるわけでもない。
 少し予想していた通り、沖田は無表情のまま、またアイスをかじり始めた。

「まじですかィ、冗談で言ったのに」
「冗談でも言ってみるもんだな」
「アンタ、俺のこと好きなの?」
「付き合いたかったんだろ?」
「付き合うって何するんですか」
「そりゃあ、飯食いに行ったり」
「いってる」
「あー、お互いの部屋に行ったり」
「いってる。俺と土方さんは付き合ってたんですか?」
「バカ言え。それを言えば屯所中おぞましいことになるぞ」
「そんじゃあ逆に別れやしょうか」

 ようやくアイスを棒だけにして、ゴミ箱に捨てると、沖田は戻ってきてまた座った。

「俺と別れてください、土方さん」
「総悟、暇ならどっか遊びに行ってこい」




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