2018
どうしたってこの微熱からは逃げられない
 俺の担当曲を口ずさに合わせて柔く揺れる髪を耳に引っ掛けてやれば、こちらを向いて少しだけ首を傾げた。ジッとこちらを見て次の動作を伺っているらしい。可愛くって思わず笑みが零れると景も釣られるように笑い、「くすぐったいぞ。」とまたもう少し首を動かした。未だ耳の後ろに添えていた手を後頭部にずらすと、困ったように目を閉じて重ねた唇を受け入れた。付き合いたてのカップルのような触れ合うだけのキスだけして、少し離れた。そっと目を開けるとクランベリー色が真っ直ぐに飛び込んでくる。疑問に思えば景は顎を引き俺の掛けている眼鏡に手を伸ばした。
「キスする時ぐらい眼鏡を外したらどうだ?」
 そう言って眼鏡をずらされ視界の上半分がボヤけた。
「その度に眼鏡外してたら『これからします』って宣言するみたいで少し恥ずかしいかな。」
「フフッ、たしかに。」
 頷いてみせた景はそのまま丁寧に眼鏡を取って顔を近付けた。柔らかな感触が一瞬だけ唇に触れた。
「じゃあ私からする時も眼鏡を取ってやるからお相子でどうだろう?」
「照れくささ半分こって?」
「そう。」
「景はクールに決めてきそうだから半分こにはならないでしょ?」
 安易に想像出来る行動に苦笑を漏らすと景が背を伸ばした。
「わ……私だって、流石に自分からは……照れるぞ。」
「え、うそ。」
「私をなんだと思っている。……ばかめ。」
「見たい。照れる景が見たい。ちょっと眼鏡返して!」
「か、返すか! 熱が引くまで待て!」
「待てない! 景!」
「い、いやだ!」
 意外と子供っぽい事をする景はそのまま眼鏡を持っている右手を高く持ち上げ仰け反った。距離をさらに縮めてその右手の手首を軽く抑えると分かりやすく固まった。頬に手を添えればほんのりと熱くなっていた。
「景、顔を背けないで。……別に眼鏡無くてもこれぐらい近くにいけば分かるよ。」
 ほんのりと赤く染まる頬に「ふふ、可愛い。」と言えば、掲げた右腕からふにゃふにゃに力が抜けて固く目を瞑った。手から伝わる熱がさらに上がったのが分かり、たまらずキスをすると視界に鮮やかなクランベリーが実る。
「意地悪しちゃったね。」
 ごめんね、と付け足せば再び目を瞑った景は右手を差し出した。
「眼鏡は返す。」
「え? いいの?」
「その代わり突然はやめてくれ。……びっくりする。」
 返してもらった眼鏡を掛けると俯いた景が鮮明に映る。……耳まで赤くなったのも分かってしまった。つられて自分も赤くなってしまい、目を逸らして「善処します……。」とだけ返した。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -