14歳
好きのままで
 全く、どうゆう脳みその構造をしていたらそうゆう発言に至るのか。バカ神童という人物は次の楽譜を探す私を見て頬を掻きながら「なんだか二人だけの秘密、というのも良い物だな。」なんて言い放った。もちろん私は自身の耳を疑ったし、楽譜をバサバサと乱暴に手から落としてしまった。この男は天然キラーとか天然タラシとかいうレベルで片付けられて良いのか、小っ恥ずかしい台詞を何故こんなにも容易く言えるのだろうか。謎。謎すぎる。というか私に心臓発作でも引き起こして欲しいのか。
 そんな私の心をもはやわざと見て見ぬ振りしているだろという具合にスルーし、「楽譜落としたぞ?」と首を傾げてみせるのだ。キレそう。とても納得がいかない。
 だがしかし、いつか復讐してやろうという気持ちだけ募らせて、私は何でも無いような顔を取り繕い楽譜を拾った。
「そういえば、樹越は昔は何かに所属していたのか? 好きで歌っているにしては発声といい、“歌い方”を知っているようだが。」
「あー……。昔、ほんのちょっとだけね。合唱団には居たよ〜。」
「やはりそうか。」
「よく分かるね〜。」
「音楽の方は物心が付く前から身近にあったから、周りよりは長けているだけだろう。」
「ふーん。」
「その全く興味ありません、みたいな返事は止めてくれ。俺から振った話題ではあるが……。なんで辞めてしまったんだ?」
「そんな神童の暇つぶしにもならないような内容だよ。」
「……色々言いたいことはあるが、余計気になるような言い方をするな。」
「聞きたい?」
 楽譜を腹部で整えドガッと神童の隣に座りニヤリと笑ってみせる。勢いに負け、仰け反った神童の距離をグッとまた縮め顎を上げた。仕返しだ。
「『協調性が無い』。」
「……は?」
「あ、そういえば『独唱したいなら余所に行け。』とも言われたなぁ。」
 度肝を抜かれたように目を見開いて言葉も出ないようだった。うん、スッキリした。
「……そう、言われたのか?」
「そっ。よくある『方向性の違い』ってやつだね〜。それにそんな事言われるぐらいなら、カラオケで好きに歌ったりとかの方がよっぽど楽しいな〜って思って。辞めてやったの。」
「……そう、だったのか。」
「一応この学校の声楽部にも誘われてるけどもう入る気は無いかな〜。」
 足を前後に揺らしおどけて見せたが、横目に映る神童は何故か苦しそうに眉間に皺を寄せていた。
「……なんで、神童が、そんな顔をするの?」
 まるであの頃の私のような顔をしていた。
「なんでって……。嫌な思い出、思い出させたから……。」
「嫌じゃないよ?」
「え?」
「ううん? 違うな〜……、たしかに嫌な思い出ではあるけど、それをきっかけに音楽を、歌までを嫌いにならなくて済んだもの。別に皆と一緒に歌うのが嫌いってわけじゃないんだけど、思いっきり声を出したかったの〜。きっとあのまま周りに合わせていたら窮屈で、がんじがらめになっていたし、好きな事を好きなままでいたいから思い切って逃げちゃった!」
 にひひと笑う私にようやく神童は「そうか。」と優しく笑った。
「樹越は、強いな。」
 目を伏せ影のある笑い方をした。なんでそんな風に笑うのか気になったけど、聞くより言ってくれるのを待とうと訪ねる言葉を飲み込んだ。
「そうかな〜? 神童の方がよっぽど強いよ。
 あ、テレビ見たぞ〜? すごいねぇ青春って感じ! あの新入生くん達もすごいけど、神童もすごいよ! 実は前からサッカー部の試合はなぁんか嫌な感じがしてたのよね! 全然楽しそうじゃ無いっていうかぁ。ほらたまにうちの学校でも試合するじゃない? そん時にたまたま学校に居たときがあって――……。」
 サッカー業界にそこまで詳しいわけではないけれど、それでも同級生が奮闘している姿というのは中々かっこいいものだ。あーだこーだと思い出しながら言っていると神童に口を塞がれた。
「むぐ?」
「わかった、わかったから、もうそれ以上言うな……。」
 しかも頭のてっぺんから首元まで真っ赤だ。
「はぁ……お前は……。いや、もういい。それよりいいのか、時間は? もう予鈴が鳴るぞ?」
 手が離れ顎で時計の方向を指した。
「うわ、本当だ……。しょうがない、今日はこれでお〜わり。帰る準備終わったら準備運動しないと〜。」

 パタパタ慌ただしく準備始める樹越にもう一度小さく溜息をついた。好きな事を好きなままで……か。好きな物をはっきり好きと言える彼女の方が、俺にはよっぽど格好良く映るというのに。
「なーにボサっとしてんのさ。そろそろ行かないと遅刻するぞ〜?」
 窓を大きく開き、漏れる風に髪を持て遊ばられながら樹越が手を伸ばす。
「あぁ、そうだな。」
 格好いいお前に置いて行かれないように。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -