いつかの未来
ワンフレーズ・バレット
*メインストーリー終了後



 目を開けると久々に彼が隣に居た。薄いカーテンから漏れる朝日に柔らかく照らされた彼の横顔はようやく年相応になっていた。二度寝しようかと迷いつつそっと彼の寝癖に手を伸ばす。撫でるように押し付けるもすかさず元に戻る髪に思わず笑みが漏れる。時計に目をやれば朝ごはんを作るにしてもまだ余裕はある。せっかくだからもう少し寝顔を拝んでおこう。
 開発も落ち着き、前より遊星との時間が増えた。昔からつい集中しすぎる癖があったから設備が整っている今の環境はもっと離れ難いのだろう。それでも夕飯の時間だけは食べに帰ってくるのだから許してやる。しょうがない奴め。食後にシャワー浴びればまたすぐに行ってしまうけど、まあ許そう。あんなにやり甲斐があるといった顔を見せられれば何も言えなくなってしまう。だからこうして朝が来ても隣に彼が居るのは……ちょっとした安心感があった。
 なんだか目が覚めてしまい未だ寝息をたてる遊星を横目に体を起こす。睡眠のお手本みたいに仰向けで寝る彼に思わずクスリと笑ってしまった。
「好きだよ。……愛してる。」
 ごく自然にそんな言葉が口から出た。ここでキスのひとつでも出来れば完璧なのだろうけど、残念ながらそんなスキルは持ち合わせていない。その前に我ながら随分と照れくさい言葉を言ってしまった。朝ご飯を作ってこようと体の向きを変えると後ろで動く気配がして即座に振り返った。そして薄い群青の瞳と出会ってしまった。咄嗟に口元を隠す。
「……起こした?」
「……今起きたばかりだ。」
 ゆっくりと瞬きしながらも受け答え出来ている彼に私の頭も冴えていく。
「き、聞こえた……?」
「……割とはっきりに。」
 わりとはっきりに。それはつまりガッツリ聞いた訳だ。あのクサイ台詞を。
「スバル、」
「おっ、ほほっ!! よぅし朝ご飯作ってくるから、もう少し! 寝てて、いい、よ!」
 咄嗟に布団を掴み遊星の顔に被せる。さすがの遊星も寝起きでは咄嗟に反応出来ずに「うっ。」と呻き声を上げた。その隙にそそくさと寝室を出る。
 聞かれてしまった。ただでさえ言うのが恥ずかしいというのに最近は特に言えてなかったのだ。それを、ガッツリ、ガッツリと!
 急いで顔を洗ってから朝食作りに取り掛かると遊星が台所にやって来た。それだけで先程の出来事を思い出して顔が火照る。
「スバル。」
 少し屈み目線を合わせてこようとする遊星を無視してひたすら手元に集中する。
「俺も愛してるぞ。」
 その一言にピタリと手が止まってしまい、わかりやすく動揺してしまった。落ち着けと念じるようにため息をついてから遊星の方に目を見やれば、嬉しそうに目を細めていた。くっ……コイツは照れというものが無いのか!
「……それ今言うこと?」
 手元が狂うからマジで止めて、と睨みつけても変わらず口元を緩めるだけ。
「俺の返事は聞かなくていいのかと思って。」
「いいです。」
「久々に聞いた。あの時は微睡んでいた時だったが聞き逃さなくて良かった。」
「盗み聞きっていうの、それは!」
「言葉は伝えるものだ。」
「屁理屈言うな! ほら火を使うから散った散った!」
「嬉しかった。」
 そう言って散るどころか後ろから覆いかぶさってきた遊星に最大限の嫌そうな「邪魔」を言ったのに笑われるだけだった。
「顔にケチャップなんか付けてたか?」
「え、うそ。」
「顔真っ赤だぞ。」
「〜〜っ! こら! からかうな!」
「フッ。」
「言わなきゃ良かった!」
「ならこれからは俺が沢山言おう。」
「あっそ! とりあえず離れなさい! 邪魔!」
「続きは後だな。」
「続きなんかないです!」
 ようやく離れ、新聞紙を取りに向かう遊星の後ろ姿に思いっきり舌を向けた。

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