いつかの未来
銀の輪
*本編終了後


 ふと彼とは随分と長い付き合いだと思った。よく考えてみれば物心つく前、もっと言うと生まれて2歳か3歳から共にいる。数値に表せば人生の9/10の時間を彼の隣で過しているのだ。そしてこの先も彼の隣から離れることは無いのかと、薬指に嵌められた銀の輪を見て思った。不満がある訳でも無い。既にこれだけ共に居れば何が来ても驚くことすらそう無いだろう。
「まだ指輪が慣れないのか?」
 コーヒーの入ったコップを持つ彼の手にも同じデザインをした銀色を見ながら「ん〜。」と曖昧な返事をした。そしてまた自分の指輪を見る。
「サイズが合わなかったのか?」
「ううん、ピッタリ。」
「……じゃあなんでさっきから指輪を見ているんだ?」
「ん〜……。へへ。」
「……? なんだ。」
「正しく『私の人生、全部あげます。』って感じがして。」
「……ッ!」
「だってこれからが約束されたら遊星が知らない私ってもう誕生の日とその前後ぐらいじゃない?」
 いい加減私もご飯を食べ進めようと箸を持ち直すと、頭が垂れていた遊星が口元を押さえて顔を上げた。
「たしかに、そうだが。」
「『過去はあげられない』って言うけど私達の場合、それもあまり当てはまらないんだもん。すごいよね。」
「──そうだな。」
「これからの何倍もの時間、一緒に過すけどよろしくね。」
 箸を置いて真っ直ぐに遊星を射貫けば、遊星も私に向き合ってくれた。
「あぁ。長生きしような。」
「うん。だから徹夜は極力控えてね。」
「……。」
 分かりやすく目を反らした遊星に笑みが深まる。
「返事は?」
「……善処しよう。」
「はぁ……、道のりが長いなぁ。」
 そんなところも愛おしい。

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