DUEL of FORTUNE KAPF
--3
 当初の予定とは大幅に変更され、私は泣きべそをかきながら遊星のDホイールに乗り込んだ。見送りに来てくれたナーヴ達の後ろには私のへそくりカップラーメンがてんこ盛りになっている。
「よくこんなに隠し持っていたな。」
「前に隠れん坊ならセキュリティにも勝てるって言っていたのは本当かもしれねぇな……。」
「思えば食うもんに困ったスバルの姿なんか見たことなかったけど、まさかこうゆう事だったとは……。」
「待って待って、もしかして私、盗人疑惑かけられてる?」
 免罪を主張する!
「私が四六時中ソファの上でだらけてるとでも思ってたの?」
「思ってた。」
「なんて奴!」
 仲間のイメージがこんなにもひどいとは、出る涙も塩辛すぎる。
「あ〜でも、昼間はどっか行ってる事多いよね。」
 ラリーが頭を傾げる。
「私だってちゃんと働いてるんだよ? 昼間はちゃんとバイトしてるの。そのカップラーメン達は歴とした私のバ・イ・ト・代。」
「……どこで?」
 遊星が振り向く。思わぬ加勢に顎を引いた。
「どこって……ほらシティから衣服とか日用品が届く場所があるでしょ。そこだよ。」
「何故言わない。」
 なんで遊星がここまで興味を示すのかわからないけど、なんでここまで睨まれるのも分からない。
「言ってたと思ってた。」
「聞いてない。」
「まぁまぁまぁまぁ!」
 遊星の険悪なオーラにブリッツが割って入る。
「あ、でね。もう食べる機会がいつ来るか分かんないから半分はブリッツ達が食べても良いけど、もう半分はここに寄付してほしいんだ。」
 ベルトポーチの一つから紙切れを取り出しラリーに渡す。
「ここって……。」
「こんなんで足りるか分かんないけど……。」
「きっと喜ぶよ!」
「ありがとう。」
「でも帰ってきたとき……。」
「またバイトするさ! でもその前に腐らせちゃったら勿体ないでしょ?」
「なるほど。」
 するとピッと電子音が23時15分を知らせた。出発の時間だ。
「遊星、スバル。」
「成功を祈ってるよ。」
「お前らならやれるさ。」
「もうここまで来たら止めねぇよ。行ってこい!」
「それでジャックに会ったら……、まぁいいや。早く戻って来いよな。」
「へへ、努力するよ。」
 私までシティに行く理由をはっきりと伝えていないけど、多分分かっている。受けられるのか、そもそも治るのかも分からないけど、頑張ろう。
「あっ、そうだ!」
 突然ラリーが何か思い出したように顔を上げ、遊星に駆け寄った。
「これ、お守り!」
「これは……。」
 ラリーから差し出されたのは一枚のカード。後ろから覗き込むと
「【ワンショット・ブースター】!」
 勢いよく飛び出す姿の黄色の機械族モンスターだ。
「お前のお気に入りだろ。」
「そうだよ、ラリー……。」
「うん。でも良いんだ! そいつであのパイプラインを突破出来ますように。」
 そう言いながら胸の前で手を握り合わせ祈ってくれた。な、なんて出来た子だ……! 思わず涙腺が揺らぐ。頷いた遊星はそのままデッキに入れ、エンジンを掛けた。
「必ず返す。」
「頑張って!」
「ウッウッ……。」
 素晴らしい友情に目を覆う。
「スバルも!」
「うふふ、うん!」
 最後にラリーの頭を撫でる。丁度良い高さもここでさよならだ。成長期なんだから帰ってきた時にはきっとうーんと大きくなる。楽しみだ。
 2人ともヘルメットを被り準備は整った。
「掴まれ。」
「はーい。いってきます!」
 私の言葉と共にアクセルを踏み、掲げた腕が悲鳴を上げる。
「遊星!」
「忠告はした。」
「ちくしょう……。」
 遊星の腰に手を回し、最後にもう一度だけ振り返ると「頑張れー!」とラリーの声が聞こえた。そのままどんどん小さくなっていき、私は遊星の背中に頭を預けた。
 
 暫くお互い黙ったままだった。
 今更遊星が寡黙な事について口出しする気は無いが、今は少しだけそれが心細かった。
「遊星。」
「なんだ。」
「私、これから遊星にすごく迷惑を掛ける。」
「だからそれは、」
「承知の上、なんでしょ。」
「……あぁ。」
 ヘルメット越しでは遊星の鼓動は聞こえない。だから私の鼓動も遊星に聞こえるわけが無い。
「多分優しい遊星の事だから、これから私が居るからという足枷で判断を鈍らせる事があると思う。でもそんな時は気にしないで突き進んでほしい。私だって遊星無しじゃ生きられない程落ちぶれていないつもりだよ。」
「……。」
「寝てないよね遊星?」
「寝てたら振り落としてる。」
「あっはは……それもそうか。」
 流れゆく景色に目を細める。ただの廃れたビル群なのにまるで走馬燈のようにも思える。
「遊星。」
「……なんだ。」
「私を連れ出したんだからそれなりの覚悟してね。それと約束。」
「約束?」
「絶対に遊星を1人にさせない。行くなら私も行く。例えそれが修羅の道でも地獄の道でも。私の脚になるんだから、果てるときは道連れにする。」
「……恐ろしいな。」
「今更怖じけついた?」
「いいや。肝に銘じよう。……揺れる。掴まれ。」
 ぎゅっと目を瞑ると浮遊感に襲われ、呻き声が出る。次の瞬間ガシャンと音を立て、車体が大きく左に傾いた。が、体勢を立て直し走行を続けた。
「スピードを上げる。」
「了解。」
 昼間の試運転もこんな風にちゃんと予告してくれたら覚悟も出来るのに、ともう一度掘り返す。けど本番はそうも言っていられない。右腕を外し腕時計を確認すると0時4分前。……本当に順調に進んでいる。
《警告する。これ以上の接近は認められない。直ちに引き返せ。》
 はい、そうですかぁ、で引き返すならここまで来ないっての!
 けど警告に紛れたサイレン音が聞こえ、
「遊星!」
 瞬間、ガツンと衝撃を食らう。左側に顔を向けると、うっっわあ見たくなかった!
「まぁた会ったなクズ共! ここはお前らみたいな場所が来るとこじゃねぇんだよ!」
「いったいな、太眉! なにすんだ!」
「消えろ!」
 いちいち構ってられる程こちらも暇では無い。奴はまだこっちの真意には気付いてない。
 ハードルなんか気にせず正面突破し、遊星は少し腰を浮かせた。
「行くぞ!」
「まじか!」
 待ってあの柵飛び越える気!? 待った待った! 慌てて遊星から手を離し、精一杯シートに掴まる。そして遊星は前に重心をかけ一気に腕を引く!
「まじかぁ!」
 ガッシャンと大きな音を立てるものの、なんとか着地し遊星にしがみつく。
「こっっっええええ!」
 前から思ってたけど、お前絶対遊園地のジェットコースターを5連続するタイプだよな!? 行ったこと無いけど!
「道連れなんだろ。」
「くっそ〜!!」
 たしかに言っちゃったな! 数分前に!
 だが太眉は飛び越えず大声で指示を飛ばすと柵が開いた。ちくしょう!
「くっそ……逃がさねぇ。」
 太眉が何かぼやくがこの距離、メンテナンスハッチに飛び込めば閉まる出口に遮られるはず。
「誰が捕まるもんか、べっべろべー!」
「フフフ、だが威勢もそこまでだ。この場は特殊追跡デッキを使うには打ってつけだなァ。」
「……特殊追跡デッキ?」
 なんだその不穏な文字並び。遊星も息を飲んだのが分かった。
「フィールド魔法、強制発動! 【スピード・ワールド】!」
《デュエルモード・オン。オートパイロット。スタンバイ。》
「えっ!」
「なにっ!」
 遊星のデュエルディスクも作動し、画面にはスピード・ワールドの文字。
「デュエルしてる時間なんか無いよ!」
 後ろで大きく鼻で笑う声が聞こえるのがムカつく。
「どうよ! コイツは【スピード・ワールド】に連動して相手をフィールド魔法に引き込んじまう優れものだぜェ! どこに行こうってか知らねぇが、前に進みたきゃ俺の相手をするんだなァ。デュエル!」
 デッキもシャッフルされ、本当にライディング・デュエルが始まってしまったらしい。どうするの遊星!
「先攻は俺だァ。俺は【ゲート・ブロッカー】を守備表示で召喚!」
 すると突然目の前に目玉の書かれた壁モンスターが現れ、避けようとするが頑なに前から動かない。普通はモンスターは自分の前に表示されるのに!
「俺はさらにカードを伏せてターンエンド。」
 ピーとスピードカウンターが一つ増えるのを知らせる。
 が、遊星の様子がおかしい。
「小僧、スピード・カウンターが上がらないんじゃねぇのか?」
「んな馬鹿な。」
 と鼻で笑うけど思わず振り返った遊星の目には驚愕の色だった。そしてもう一度ピーとエラーの知らせが鳴った。そんな。
「それはなァ! 普通フィールド魔法の【スピード・ワールド】が発動している間、スピード・カウンターはお互いのスタンバイフェイズで一つずつ上がっていくもんだ。
 だが、【ゲート・ブロッカー】が表側表示された場合、お前は【スピード・ワールド】の効果を受けられない。よって! お前のスピード・カードは!」
「……封じられる。」
「そんな!」
 もしはじめの5枚で手札にスピード・カードで埋まってたら初ターンで詰み! なんてモンスターだ!
「コイツはデュエルのバランスを大きく左右するモンスターで、使用制限が掛かっているスゲェ奴よ。だが俺のデッキはセキュリティによって【ゲート・ブロッカー】を自由に使える特殊デッキ! お前らは俺から逃げられねぇ。」
 嫌な笑みを浮かべる太眉はまさに悪道のソレ。
「卑怯モン! やるなら正々堂々と戦えー!」
「……権力ってやつか。」
「真っ向勝負も出来んのかー!」
 すると私の腕時計からピピピッとタイマーが作動した。日付が変わった! タイムミリットはあと3分。これを逃せばチャンスどころかセキュリティにも掴まる。最悪の展開だ。
「気に入らねぇな。」
 ドスが利きすぎて一瞬誰の声か疑った。
「ゆ、遊星、」
「気に入らねぇ。俺達は、前に進む!」
 アクセルを全開にし、カードを引いた。
「俺のターン! 【スピード・ウォリアー】を召喚する。」
「ヘッ、そいつは召喚したターンのバトルで攻撃力を2倍にすることが出来るんだったなァ。だが甘いぜ、それでも【ゲート・ブロッカー】の守備力には及ばない。」
  ゲート・ブロッカー……守備2000
  スピード・ウォリアー……攻撃1800
 あと200……! すると遊星が一枚のカードを手にしたまま止まった。
「それは……。」
「さらに手札より【ワンショット・ブースター】を特殊召喚!」
 ラリーがお守りに貸してくれたカード! 可愛い!
「バトル!」
 スピード・ウォリアーがワンショット・ブースターの腕に乗り打ち出す!
「【ワンショット・ブースター】をリリース!」
「ほう、そこまでするか。」
 ワンショット・ブースターは攻撃・守備共に0だけど、そのモンスター効果は通常召喚されたモンスター1体とバトルしたモンスター1体を破壊する事が出来る! ラリーとデュエルした時に楽しそうに解説してくれたのを覚えてる。
「甘いぜ! たとえ【ゲート・ブロッカー】を倒したとしても【ゲート・ブロッカー】の守備力は高い! 自分のライフにもダメージが跳ね返ってくるぜぇ。」
「それでも!」
 差分の200ポイントが遊星のライフから削られていく。
「ラリー、お前のおかげで前に進める!」
 角を曲がった先に道は無い。しかしそのまま穴の中に飛び込んでいく。
「ウッ!」
 私のリアルライフにダイレクトアタック! いくらクッション性の高いタイヤを使おうが、この高さからの着地にはそれなりにダメージを食らう。
「くぉぉぉ……!」
「スバル!」
「……平気!」
 これでヘコたれてたらサテライトでやっていけるもんか!
 けど太眉も執念深く追いかけてくる。
「ヘッ、逃がさねぇぜ! トラップカード【ブロークン・ブロッカー】発動!」
「あっ!」
 また目の前に気色悪い目玉付き壁が!
「【ブロークン・ブロッカー】は攻撃力より守備力が高い守備表示のモンスターが倒されたとき発動することが出来るのだ。そしてそのモンスターと同じモンスター2体をデッキから特殊召喚する!
 見たか! これが権力って奴よォ。」
「汚いぞ!」
「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド。」
 腕時計を確認するとあと2分。もう2分しかない……! パイプラインの先はまだある。何度もシュミレーションしたって言うけど、いくら遊星でもこのパターンは想定外のはず。残り2分……いや2分未満でこの守備力2000×2をどうするつもりなんだろう……。
「フフフ……俺のターンだ。」



:::



 遊星のスピードカウンターは上がらないまま、いやそれよりタイムミリットが刻一刻と私達に迫っていた。そして進むごとに空気も悪くなっていく。
 太眉はゴロゴルなんて見た目は可愛らしい(?)がデカさと攻撃力がなかなかエゲつないモンスターを通常召喚した。
「いけえ! ゴロゴル!」
 え、その巨体で迫ってくるの!? いやあ押しつぶされる! やっぱお前可愛くない! 評価取り消しだ! もちろんソリットビジョンなので私達に直接の被害は無いが、スピード・ウォリアーが振り返りざまに「は?」って顔をしたのを私は見逃さなかった。そのまま破壊され、攻撃力の差分により3350にまで削られてしまった。
「俺のターン。」
 そういえば遊星の肩の力が抜けてる。
「来たか。」
 そう小さく呟く。まさか!
「チューナーモンスター【ジャンク・シンクロン】を召喚。
 そして永続トラップ【エンジェル・リフト】をオープン!」
「もしかして!」
「なっ、この展開は……!」
「来い! レベル2【スピード・ウォリアー】!」
 ええいっ! とジャンク・シンクロンが気合いを入れレバーを引く。
 そしてこの2体が揃えばやることはただ1つ!
「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!
 シンクロ召喚。出でよ【ジャンク・ウォリアー】!」
「かっこいい〜!」
 そしてジャンク・ウォリアーはゴロゴルの後ろに回りお得意のパンチで破壊した!
「フン、お前の手の内は分かってるぜ。面白くなるのはここからだ!」
「なんだと!」
「俺のターン! 俺は【ジュッテ・ナイト】を召喚!」
 和服を着たえらく昔っぽいモンスターが来た。
「チューナーか。」
「え、あれが?」
「そうだ。シンクロ召喚はこっちだって出来んだよ。行くぜ!」
 そうしてジュッテ・ナイトは私達の前にいるお邪魔虫1体とチューニングした。まじかよ。
「シンクロ召喚【ゴヨウ・ガーディガン】!」
 こ、攻撃力2800の……。
「見やがれ! これが権力だ!」
「おっさんと壁がシンクロしたら若返った!」
「そうじゃねぇ! くっそ、あの女のせいでどうも調子が狂うぜ。いけえ!」
 あぁ、ジャンク・ウォリアー! お前は良いやつだった……。だが様子がおかしい。
「まだだ!」
 ゴヨウ・ガーディガンはそのままジャンク・ウォリアーの身体に紐を巻き付けた!
「【ゴヨウ・ガーディガン】は相手モンスターを破壊したとき、その破壊を無効にし、コントロールを奪うことが出来るのだ! この時、そのモンスターは守備表示となる。」
 ジャンク・ウォリアァ!
「お前のモンスターは俺のものだ!」
 くっそ……なんて奴だ。お前は今日からジャイ眉だ!
 さらにsp-ソニック・バスターでゴヨウ・ガーディガンの攻撃力の半分を遊星に与えてきた! これだけでは飽き足らず手札からもsp-ソニック・バスターを出した! 合計2800の攻撃を受けた遊星の残りのライフはたった50……。タイムミリットまで1分半を切った。スピードの落ちた私達の遊星号はついにジャイ眉と並んでしまった。
「ざまぁみやがれ。お前らはここから逃げることなんざ出来ねぇんだよ。所詮お前のクズデッキじゃ、俺のデッキは破れねぇ!」
「クッ……。」
 ジャイ眉のくせに偉そうに……!
「正攻法で遊星に勝てなかったからって、職権乱用したデッキでよくもそんな大口を!」
「うるせぇな! 調子が出なかっただけだ!」
「それはどうかな!」
 私とジャイ眉が啀み合っていると前方からユラリと冷気が立ち上る。
「……何度も何度もクズとばかり、他の言葉を知らないのか。」
「ひぇ……。」
「なんだと。」
 遊星の冷たい声音に思わず背筋がのびる。
「はっくしゅん!」
「スバル。」
「平気。風邪じゃないよ。」
 遊星の放つ冷気が一気に無くなったことにちょっと安心した。だって怖いもん。
「俺のターンだ。……チューナーモンスター【ニトロ・シンクロン】を召喚。」
「シンクロするモンスターもいないくせにチューナーモンスターとは、悪足掻きかぁクズめ。」
 その顔、ぶん殴りたい。
「そこにいる。」
「え?」
「スピードスペル発動!【sp-ダッシュ・ピルファー】。」
「馬鹿な! スピードカウンターが無いのにスピードスペルが何故使える! アァ? は……? ハア!? アアア! 【スリップ・ストリーム】か!」
 私もライフばかりに気を取られていたけど、なんと1ターン前に遊星はスリップ・ストリームを発動していた。これは自分より相手のカウンターが多い時に、相手がsp-を使ったときに発動する。次のターンで自分は相手のスピードカウンターと同じ数値にすることが出来る。らしい。そんなカードがあったなんて。
 そしてアクセルを踏み直し前に出る。
「コイツ、クズカードばかりの分際で、ナメた真似を!」
「【ダッシュ・ピルファー】! 【ジャンク・ウォリアー】を解放しろ!」
 カウンターが4つ以上あるときに発動出来るカードで、相手のモンスター1体のコントロールを奪うことが出来るらしい。
 そうしてようやく解放されたジャンク・ウォリアーはそそくさと遊星の元に返ってきた。おかえり! おかえり、ジャンク・ウォリアー!
 目標のメンテナンスハッチまであと少し! 残り40秒! たたみかけろ!
「そうか……! 奴らはあそこを狙ってやがるのか……!」
「気付いたようだな。まもなくゴミが流れ込んでくる。降りてもいいぞ。」
 おかげで空気も悪くなっているからさっきから鼻がムズムズする……。
「冗談じゃねぇ!」
 ジャン眉が声を荒らげ、顔をしかめた。
「負けが見えてるからって、今度は挑発か!?」
 まあそれも兼ねてるだろうよ……っと。スピードをさらに上げ「行くぞ!」と身構える。
「またシンクロか!?」
「【ジャンク・ウォリアー】と【ニトロ・シンクロン】をチューニング!
 集いし想いが新たなる力となる。光差す道となれ!
 シンクロ召喚! 燃え上がれ【ニトロ・ウォリアー】!」
 おー! ……と私も威勢を上げたいところだが、正直見た目はジャンク・ウォリアーの方が好き。なんでって? 尻尾が蟻みたいだからだよ。
 ニトロ・ウォリアーはスピードスペルを使ったターンで相手モンスターとバトルする場合、一度だけ攻撃力を1000ポイントアップ出来る。タイミング良しばっちし!
「なに!?」
  ニトロ・ウォリアー……3800
 そこらのモンスターもこの攻撃力の高さには太刀打ち出来まい!
 ニトロ・ウォリアーは遊星の言葉に反応し肘から炎を出す。その勢いにゴヨウ・ガーディンへパンチし撃破!
「さらに! モンスター効果。【ニトロ・ウォリアー】はバトルでモンスターを破壊したとき、相手フィールドの守備表示モンスターを攻撃表示に変え、もう一度バトルすることが出来る。」
 あの気味悪い目玉の壁……ゲート・ブロッカーの攻撃力はたったの100。
「なんだ、この効果!」
「【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力も2800に戻るが、【ゲート・ブロッカー】を叩き潰すには十分だ。」
 そしてジャン眉のライフもこれで0だ!
「このッ……!」
「いっけー!」
 ゲート・ブロッカーの目玉の部分に拳を入れ、破壊する。これはちょっと痛そう……。
「ウアアアアアア!」
 状況は形勢逆転。ジャン眉の白バイはスピードを大幅に落とし、停止せざるを得なくなった。
 ピー!
 私の腕時計がもう一度鳴る。
「遊星!」
 途端に流れ出すゴミの軍勢に遊星の服に掴まる手が強くなる。
「分かっている。振り落とされるな。」
 いつもの私ならきっと目を閉じてしまうだろう。でもこの時、何故かカッと開いて頷いた。
 落ちてくるタンスやらソファやらをギリギリで躱していく。
「スバルは……、必ず連れて行く!」
 そう言って壁を上り始めグルッと一周した。予想外すぎて正直状況がいまいち掴めない。今天井走らなかった? いや、そんなことはどうでもいい! 大きなタンスの下をくぐり抜け、その勢いのままドリフトで閉まりかけのメンテナンスハッチに突っ込んだ!

「うそ……。」
 ガシャンと大きな音を立て、遊星号は着地した。外の、世界に。
「成功、したの……?」
「そのようだな。」
「よ、良かったぁ……!」
 グリグリと遊星の背中に頭をこすりつける。大きな溜息を付かれたが、どうやらされるがままにするらしい。遊星〜!
「第1関門、突破だぁ!」
「あぁ。」
 さて、一体どうやってジャックを探すのか全く考えていなかった訳だけど、まあなんとかなるか! 日付も変わった今、疲れもドッと押し寄せ、正直もう寝たい気分。寝れる場所から探さなきゃ〜……って。
「なんでスピード緩めたの?」
「見ろ。」
 促され前を向くと
「ウワッ。」
 そのままDホイールを止めヘルメットを外し、私達は見上げた。
 ネオンの光を浴び、私達を見下ろす
「……ジャック。」
 いきなり本命のお出ましだ。
「久しぶりだな、遊星。……。」
「ちょっとなんで黙るわけ!? 今、完璧に視線合ったよね!?」
 ムカつく〜! 奴の顔も一発ぶん殴ってやる!
「……チビも居たか。」
 は、ハァァアアア????

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