DUEL of FORTUNE KAPF
--1
 遊星は「いつかジャックからデュエルで俺達の希望を取り返す」と決めてから2年が経った。私はその時の遊星の顔を忘れることは出来ないだろう。

《キングのデュエルはエンターテインメント出なければならない!》
 小さな箱の中でジャック・アトラスは人差し指を天に掲げながらそう言い放ち、歓声が沸き起こった。ジャックの戦法は『押して駄目ならさらに押せ』という相変わらずの脳筋っぷりだ。私には到底マネは出来ない。
 はぁ……、とこの微妙な心境を表す溜息が出たとき、後ろで大きなエンジン音が鳴り響いた。思わず「あ……。」と言ってしまったのは誰だろう。
「よ、よう遊星……。」
 テレビを隠すように振り向けば遊星が帰ってきていた。そのままそっと電源を落とすものの、遊星はチラリと私の手元を一瞥してから作業に取りかかった。相変わらずめざとくて困るなぁ。私達はお互い見合ってから観念した。
「……わりぃな、やっぱジャックの事気になってさ。ここでしかテレビ映んねぇしさ。」
「凄かったぜ、アイツ。また強くなってやがる。」
「相変わらずの高飛車な態度だったけどね。もう少し可愛げってもんがほしいよ。」
 雰囲気を変えようと少しおどけて見せたが、黙々と作業を続ける遊星には通じず、しまったと顔をしかめた。そして、
「……雑魚だっただろ、相手。」
 なんて言うからいよいよ胸が痛み出す。遊星はすごく優しい子だ。例え相手が子供だろうが老人だろうが、真っ直ぐに向き合える強さを持った子だ。その遊星が雑魚なんて言うから、この申し訳なさといったら。
「……あぁ、完全にジャックに弄ばれていた。」
 ナーヴがそう答えると遊星は一旦間を置き「アイツ、つまんねぇだろうな。」と返した。その後タカがDホイールについて話題を変えるものの、完全に墓穴を掘り返し、ナーヴにど突かれた。けどタカはそのままナーヴの腕を払った。
「だってよ! 皆怒ってんじゃん、ジャックの事をよお! 本当ならあのスタジアムでキングになってるのは遊星だったかもしれないんだぜ? なのにジャックの野郎、遊星のやっと作ったDホイールまで盗んでさぁ!」
「タカ!」
 振り返ってキッとタカを睨む。気まずそうに目を反らしたタカにこれ以上言えず、ぎゅっと拳を握りしめて堪える。
「……ムカついてるのは皆一緒だよ。」
 その時、遠くで遊星を呼ぶ声がした。
「遊星!」
 熟してない声でやってきたのは、私達の中で一番年下のラリーだった。
「よっ、ラリー。」
「ウィーっす。」
「やっほ〜。」
「あ、皆も来てたんだ。遊星!」
 トーン変わってるんですけど。もう少し興味を持って欲しい。今更私達に興味を持たれてもそれはそれで怪しいけど、いやそうゆう事では無く。
 ラリーが登場した事によって場の雰囲気が変わったことにとりあえず胸を撫で下ろした。
「どうしたんだ、そんなに急いで?」
 遊星達の元へ行くと、ラリーがポケットを漁り、そこから取り出したのは少し大きめのチップ。
「これ、Dホイールに使えないかな?」
「なんだそりゃ。」
 ブリッツが訝しげに見るそれには心当たりがあった。ナーヴもピンときたようでラリーの細い腕を鷲掴みして持ち上げた。
「これって……!」
「オイ、これ新品じゃないか。何処で手に入れた?」
「ち、違うよ! これはジャンクの中から見付けたんだ。」
 傷一つ無いチップが雑に扱われたジャンクの中に有るわけが無い。ナーヴ達と顔を見合わせ息をのんだ。
「また盗みやったんじゃないよな?」
 そうナーヴが問いただすものの、ラリーは目を背け答えなかった。あぁ、これは間違いなく黒だな。ラリーはすぐに顔に出るからわかりやすい。
「と、とりあえず手を離して、ナーヴ。」
 ラリーの細い腕をようやく離し、私は膝を着いた。
「ラリー、本当に盗んできたんじゃないんだよね?」
「そ、れは……。」
「もしそれが盗品だったら皆捕まっちまうかもしれないんだぞ?」
「嫌だぜ? 俺達までコレ、付けるの。」
 ブリッツがラリーの目尻にある明らかに人工的に付けられた黄色の三角形のマーク……マーカーと呼ばれるソレを指さした。
「よしなよ2人とも!」
「よせ。」
 遊星は作業を止め、無言でラリーに手を差し出した。そのままラリーがチップを遊星の手のひらに乗せると自分のDホイールに向かいながら「使わせて貰うよ。」と言った。
「……良いのか遊星?」
 ナーヴが警告したがラリーは「きっと早くなるよ! 絶対だよ!」と身を乗り出した。
「遊星、分かってると思うけどそれ使ったら……。」
 私も止めてみるが聞く耳持たずでチップを入れ替えてしまった。
「なぁ遊星、気持ちはわかるけど、ジャックの事なんかもうほっとけよ。」
「遊星はジャックと決着を付けに行くんだよ!」
 ラリーがブリッツに食いかかる。
「だからさぁ、そのためにわざわざ危ない橋を渡すのはどうかって言ってんの。」
「でも、ジャックは遊星のエースモンスターまで持って行ったんだよ!?」
ラリーの言葉に思わず拳を握った。正直、私はどちらの気持ちも痛いほど分かるから下手に口出しが出来なかった。
「遊星、本気でここを出ていくのか?」
 遊星が出ていく。ジャックに続いて遊星も……。
「出ていくんじゃない。行くだけだ。」
 そう遊星が言っても、私にはそのまま帰ってこなくなる気がした。そのまま世界に飛び立ってしまいそうな……。でも遊星はこんなちっぽけな世界より外の世界の方がきっと似合う。
「やめとけ。あっちは俺達には合わないぞ。」
「ナーヴ……。」
「ジャックは……端っから俺達とは、違う。」
 けれどマイペースな遊星はそのままDホイールにエンジンを掛けた。いままでとは明らかに違うその音に思わず口笛が鳴る。
「カッコイイ!」
「どう? 全然違うでしょ!?」
 頷く遊星にラリーがヘルメットを差し出す。
「走ろうよ! 凄く早いよ!」
 それはぜひ拝みたいと身を乗り出した瞬間、強すぎる光が空から降り注いだ。
「セキュリティーか!?」
《認識番号AWX86007 ラリー・ドーソン! 窃盗の疑いがある。速やかに投降せよ!》
「ラリー!」
 肩を掴むとラリーは目を泳がせ今にも泣きそうな顔になる。
「だ、だって……。」
「だってじゃない!」
《出て来い! マーカーが有る限りお前は逃げきれんぞ!》
「お前な!」
「ごめんよ! 本当は工場から持ち出したんだ! だってジャックに、遊星に勝って欲しかったんだ!」
「だからって……!」
 するとスッと遊星がナーヴを手で制す。
「お前もお前だ!」
「お、落ち着いて、ナーヴ……。」
「マーカー付きじゃ逃げ切れねぇ! セキュリティとリンクする信号を出してんだぞ!?」
「でもラリーを囮にするなんて出来ないよ!」
「それは……。」
 すると遊星はしばらくキーボードを叩いたあとエンターキーを押した。
「何する気……?」
 そのままDホイールに乗り込んだ。
「信号は攪乱した。」
「お前、ジャミングしたのか?」
 ラリーからヘルメットを受け取り、
「皆は向こうへ、セキュリティは俺が引きつける。」
 と言い切った。おお格好いいな、さすが遊星。
「けど、スバルが……。」
 そう言ってタカが私の脚を見る。
「い、良いよ、私のことは! ここら辺で隠れる場所なんか沢山あるし! セキュリティと追いかけっこは無理だけど、隠れんぼなら勝つ自信あるし! ね? だから……。」
 と言い訳するものの、声が震えてしまった。セキュリティから逃げるなら……と頭の中でマップを開くと腕を引っ張られた。
「スバルは俺の後ろに乗れ。」
「え? ……うわわ!」
 突然の事にそのまま遊星のDホイールに横乗りしてしまった。
「でもこれって一人乗り……。」
「スバルを乗せられるぐらいのスペースはある。」
 まじかよ。しかも私にヘルメットを押しつけて自身も装着した。いつの間に。
「しっかり掴まれ。行くぞ。」
「ま、待ってちゃんと乗るから!」
 遊星の後ろに跨がるとすぐに出発した。慌ててヘルメットを被り、遊星のお腹に手を回してしがみついた。しかもDホイールでそのまま階段を駆け上がっていった。全く予想していなかったので思いっきり舌を噛んでしまった。よ、予告しろ、ばか遊星! 血は出なかったようだけどとてつもなく痛いじゃない!
 地上で待機していたセキュリティにも早速バレ、囮としては良い滑り出し……なのだが。
「も、もう少しスピード落として……。」
「追いつかれる。」
「ですよね……。」
 この猛スピードは怖すぎる! 従来のヘルメットとは違って、Dホイール用のヘルメットは話せるように顔より下は比較的ノーガードだ。だから舌を噛むなんて事が起きちゃうんだけど、風が口の中にダイレクトアタックの勢いで入ってくる。怖さを紛らわせるために思わず遊星の服を掴む手に力が入る。
「…………ごめん、遊星。」
 お荷物でしょ、私。
 過ぎる風にかき消えそうな程しか出なかった言葉はしっかりと遊星の元に届いてしまった。
「気にするな。試すには良い機会だ。」
「試す……?」
 あぁ、新しいチップの効力か。
「流石。前後輪の出力、回転数のバランス制御、完璧だ。」
 なぁんて呑気に言ってるから眩い光の元に曝け出されちゃったよ! 見上げるとこの光の出所もセキュリティのヘリコプターようだ。
「やばいよ遊星、どうしよう〜!」
「スバル、後ろから追いかけてるのはなんだ。」
《そこのDホイール、止まりやがれ! 逃げても無駄だ!》
「え? ええっと、Dホイールっぽい白バイとパトカーが一台ずつ、かな?」
「……俺に考えがある。」
「考え……? うっ……ぎー!」
 アクセルを踏みさらにスピードを上げ、今度こそ舌を噛まないように歯を食いしばる。おまけに路地裏に向かったかと思えば目の前のフェンスを強行突破した。無残に散るフェンスに思わず同情する。ようやくスペードを緩め、そのまま停止した。
「ちょっと遊星! スピード違反!」
「……この状況でそれを言うのか。」
「ていうかセキュリティ撒けてないけど!?」
 何故かヘリコプターは撒いて来られたようだけど、白バイとパトカーはそのまま私達の目の前で止まった。パトカーのライトをバックに白バイのセキュリティがズカズカと私達に歩み寄る。無駄に体格が良いせいで威圧感が凄まじい。あと立派な眉ですね。そんな太い眉、漫画の中でしか見たことないわ。パトカーの方のセキュリティも降りて来た。
「オイ、そのDホイール、何処から盗んだ?」
「それはちょっと聞き捨てならないな! これは――。」
「スバル。」
 ピッと人差し指を立てられ、押し黙る。この遊星が盗人のマネなんかするもんかガルルルル!
「フッ、フハハハハ! どっちもマーカー無しか。ヘッ、囮かよ。クズはクズ同士庇い合いか? いっちょ前に女も連れ出してよ。だが愛の逃避行も此所までだ。」
 愛の……? たしかに友情的な意味では愛の逃避行になるのか……? っておい! 語弊のある言い方をするな!
「お前らが逃亡を手助けしたおかげで、立派に拘束する理由が出来たなァ。あとそのDホイールの出所も聞かなきゃなァ。」
「癪に障る太眉め……。」
「アァ? なんか言ったか?」
「いーーっえ!」
 フンッと顔を逸らし睨み付ける。
「おい。」
 今まで黙っていた遊星が声を上げる。やばい余計な事しちゃった、と口を紡ぐと
「デュエルしろよ。」
 と言った。
「え?」
「ヘッ、サテライトのクズがこの俺とデュエルだと? カードも持ってないくせに、笑わせんなよ?」
「カードは拾った。」
 そのままセットして……って、え、マジでする気なの?
「俺が勝てば今日の事は全て無かった事にして貰う。」
「お前、そんな事出来るわけ……。」
 パトカーのセキュリティも目を丸くして身を乗り出すが、白バイ野郎に止められた。
「言うじゃねぇか。その話、乗った。」
「牛尾さん! まずいですよ!」
 私も同意見。
「俺の責任でやる。お前らは帰れ。」
「牛尾さん。」
「行けよ。俺が負けるとでも思ってんのか?」
 その言葉に観念したようで肩を竦めながら仲間の元に行き、そのままパトカーが退散した。
「……面白い男だな。」
「何が言いたい。」
「セキュリティは信用しない。だがデュエリストなら話は別だ。アンタはこのデュエルに乗った。信用してやるよ。」
「いちいちムカつく野郎だァ。」
 そうしてウシオと呼ばれたセキュリティは自身のDホイールに乗り込む。
「遊星……。」
「心配ない。それよりしっかり掴まれ。」
「いや、そっちは心配してないんだけど……。」
 方向転換し、スタンバイフェイズにつく。セキュリティも横に並び「行くぜ。」と準備完了の合図をした。
「フィールド魔法【スピード・ワールド】、セット。」
 肩越しに見ると遊星のDホイールの画面にも魔法カードが現れ、デュエルディスクが変貌した。変貌というかロボットみたいにカシャカシャ音を立て、やりやすいように目の前にセットされたんだけど。私はこの瞬間がいつも好きだった。
《デュエルモード・オン。オートパイロット。スタンバイ。》
 ここまで来たら引き返せない。あーぁと大げさに肩を落とし、振り落とされないように姿勢を正した。
「デュエル!」
 掛け声と共にアクセルを踏み、そのままかっ飛ばした。



:::



 先攻はセキュリティから始まったこの戦い。何が気にくわないってちょくちょく子馬鹿にしてくるわ、私達の事をやたらと「クズ」呼ばわりしてくるわ、口が悪いったらありゃしない。セキュリティは正義の味方、なんて言うけど実際はこの有様。腹立つ! 目にものを見せてやれ! と遊星の後ろから野次を飛ばす。
だがしかし。
「行くぞ! レベル4、レベル3、レベル3、以上手札の三枚を墓地に送って、【モンタージュ・ドラゴン】を特殊召喚!
 コイツは効果で攻撃力は墓地に送ったモンスターレベルの合計×300倍だァ!」
 突然高笑いしたかと思ったら合計3000のドラゴンを特殊召喚してきた!
 守備表示のロードランナーを倒され、ガラ空きになった遊星にそのままダイレクトアタック。その衝撃にバランスが崩れDホイールのスピードも途端に下がってしまった。スピードスペルも下がってしまったようで4から1へと落ちてしまった。
「ダイレクトアタックの影響か……?」
 3100もあった遊星の残りのライフも一気に100まで落ちた。って、もしかしなくても絶体絶命ってやつ?
「残り100だぜ、クズ野郎。」
 ムカつく奴だな! けどたしかに思っていた以上には強い。遊星もドローする手が止まる。
「大丈夫だよ、遊星。」
 カード達を信じればきっと答えてくれる!
「あぁ。」
 運命のドロー。私にはどんなカードが来てくれたのか見えないけど、遊星の「来たか。」という言葉は聞き逃さなかった。
「チューナーモンスター【ジャンク・シンクロン】を召喚!」
「きたきたきたきたあ!」
「チューナーモンスター? まさか……!」
 意表を突いたようで太眉の間には大きな皺が寄っていた。
「そのまさかだ。
 トラップカード発動。【エンジェル・リフト】。」
これは墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚出来るカード。これを伏せてたって事は早かれ遅かれこの展開を待ってたんだ!
「来い、【スピード・ウォリアー】!」
「なんだと。」
「【スピード・ウォリアー】に【ジャンク・シンクロン】をチューニング。
 集いし星が新たな力を喚び起こす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ【ジャンク・ウォリアー】!」
「やったぁ! 成功だ!」
「サテライトのクズがシンクロ召喚だと……!? だが俺の【モンタージュ・ドラゴン】の攻撃力には及ばない!」
  モンタージュ・ドラゴン……3000
  ジャンク・ウォリアー………2300
 たしかに700以上足りていない。けど!
「スピード・スペル発動!【Sp-ヴィジョンウィンド】。」
「スピード・スペル……!? あの野郎、ダイレクトアタックでスピード削ったのに……! ナメた真似を……!」
「このカードは自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスターを1体特殊召喚出来る。レベル2、【スピード・ウォリアー】を特殊召喚。
さらに【ジャンク・ウォリアー】のモンスター効果。自分フィールドに居るレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計を【スピード・ウォリアー】に加える。」
これでジャンク・ウォリアーの攻撃力は3200。モンタージュ・ドラゴンを上回った!
「いけ!」
 相手フィールドに居たワッパードラゴン(1800)はジャンク・ウォリアー(3200)に破壊されセキュリティのライフは2000。けどワッパードラゴンは破壊されたあと、装備魔法として自身の攻撃力分そのモンスターの攻撃力を下げることが出来るらしい。なんてしつこいモンスターなの。
「これで終わりだ! 所詮お前らなんか権力に逆らえねぇんだよ!」
 それでも治安維持って言葉を背負うセキュリティの台詞かあ! ただの独裁主義じゃねぇか!
「権力の犬め……!」
「だがその効果、使わせて貰う。」
「え?」
「なに?」
「トラップカード発動、【イクイップ・シュート】。」
 するとジャンク・ウォリアーは自力でワッパードラゴンから抜け出し、そのまま相手フィールドに投げ飛ばした。その先にいるのはモンタージュ・ドラゴン。ワッパードラゴンに捕まったモンタージュ・ドラゴンはモンスター効果によって攻撃力が1200に落ちた。
「このカードは装備魔法を相手モンスターに装備し直すカードだ。そしてこの効果の対象になったモンスター同士でバトルすることになる。
 【ジャンク・ウォリアー】!」
拳でドラゴンを投げ飛ばし、差分の攻撃力はセキュリティにも与えられセキュリティのライフは0になった。
「いやったぁ!」
 白バイの前方から煙が溢れ、セキュリティは急停止した。
「すごい! すごいよ遊星!」
「クズどもにこの俺が負けるなど……。」
 私達も停まり、遊星がセキュリティに顔を向けた。喜ぶも束の間、肩越しに見えた遊星の顔は中々に怖い顔をしていた。
「どんなカードにも存在する以上、必要とされる力がある。クズの一言でカードを否定するアンタに、デュエリストを名乗る資格など無い。」
 そう言い残し、急発進させた。

「さすが遊星! 本当にセキュリティに勝っちゃうなんて。」
「……。」
 あれからしばらくだんまりを決め込む遊星に何か気分転換に話題を……と模索するものの、暫く遊星の怒る姿は見ていなかったので良い案が思いつかない。これっぽっちも思いつかない。ぎゅっと手に力が入ったとき。
「あ。」
 開けた道路から見える地平線沿いにキラキラと輝くシティが見渡せた。
すると道路の脇に駐めた遊星はDホイールから降りて手すり付近まで歩いた。余計な事は言わない方が良いなと思い、私も横乗りに姿勢を変えて潮風に撫でられていると、遊星は何か言った。あまり聞こえなかったけど、その背中から感じるのは戦意。多分シティに居るジャックに宣戦布告でもしたのだろう。
 遊星の決めた道だ。もう止めはしない。私もネオンの光に再び意思を固めながらDホイールに寄っかかった。
「スバル。」
 突然名前を呼ばれ、驚きはしたものの「ん〜?」と間抜けた声で返事をすると
「話がある。」
 と改められて言われた。
「な、なに……?」
 振り返った遊星の真剣な顔付きに思わず身構える。
「一緒にシティに来てくれないか。」
「……へ?」
 なんて言った? ん? シティ?
「……誰が誰と?」
「お前が俺と。」
 なんてこった。対象モンスターは私じゃないか。
「な、んで……。」
 予想外の内容過ぎて急に喉がカラカラになる。
「……たしかに俺はジャックに仲間との希望のカードを取り返すつもりためにこの2年間、Dホイールを作り直した。だがそれだけじゃない。」
 そこで遊星は一度言葉を切り、私の前に立った。
「……シティにはサテライトよりずっと良い医療機関があるはずだ。そしたらもう一度Dホイールだって、」
「遊星、珍しくよく喋るのね。」
「スバル、茶化すな。」
 ちぇ、バレたか。
「あっはは、遊星ったら。今日のご飯担当私じゃないから、夕飯何かなんか分かんないよ?」
「スバル、話も逸らすな。」
 くっそ〜、これも駄目か。ただでさえ私は座っていて遊星は立っているのでだいぶ首が痛いというのに、視線が突き刺さって心まで痛い。
 遊星から目線を外し一旦大きく深呼吸をする。
「……遊星、正気?」
「俺はいつでも正気だ。」
 さっきから返答早すぎでは?
「……私を連れて行って、遊星になんのメリットがある?」
「……メリット、だと?」
 たちまち顔が険しくなる。おぉ怖い怖い。
「そう、遊星のメリット。それだと私ばかりに良いこと尽くめじゃない。」
「……。」
 正直遊星は頭が良いから心理戦なんかに持ち込みたくは無いんだけど。
 でも真意が分からないのはたしか。いくらニューチップで早くなっていたとしても人一人乗せればその分の負荷でスピードは下がってしまう。それは秒での勝てる勝負も負けるほどのリスクだ。私さえ居なければ、という状況は必ず来てしまう。なのにどうして。
「……ら、」
「え?」
 突き刺さるように痛かった目線が揺らぎ、両肩を掴まれ、俯いた。あの遊星が!
「……スバル……と、ライディング・デュエルが出来る、と、思う、から……。」
 なんとも歯切れの悪い台詞によると、なんと遊星のメリットは私とのライディング・デュエルの実現だという。
「プッ……あっはは、私とライディング・デュエルをそんなにしたかったの?」
笑いを堪えきれずお腹を抱えて笑うと「……そんなに笑うな。」とこれまた珍しいふくれっ面を拝めた。その表情もいつも仏頂面の遊星が年相応の子供になったみたいで笑ってしまう。ようやく目尻に溜まる涙を拭き取り、降参の意を示す。
「分かった分かった。……考える時間ぐらいは貰えるのかな?」
「あぁ、もちろんだ。」
 そうして遊星は背を伸ばし私から手を離した。
「帰るか。」
「そうだね。」
 Dホイールに乗り直して、さっきみたいに遊星に掴まろうと腕を伸ばすが少しだけ躊躇ってしまった。
「どうした。」
「……ううん、なんでもないよ。」
---|HOME--2

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -