DUEL of FORTUNE KAPF
-16
「──でもあの時、龍亞の声が聞こえて……。」
 そう言って龍可は膝を付いた。
「龍可ちゃん……?」
「そう、私は、あなた達を置いてここから逃げた。龍亞の声を、龍亞の叫びを理由にして……! でも、本当は怖かったの……。ここで、私1人であなた達を守る事が怖かった……。」
「……!」
「それで私、あなた達を忘れようと、ここの世界を心に閉じ込めて……。」
 そりゃそうだ。当時はまだ3才の子供で、世の中の右も左も分かっていないような子供が精霊世界丸ごと託されたら誰だって不安になる。
 しゃがみ込む龍可に声をかけようとした瞬間後ろで再び大きな咆哮が聞こえた。
「まずはこのドラゴンをどうにかしないと……!」
 するとドラゴンは徐々に姿を変え、「フッフッフッ……。」と不気味な笑い声と共にフランクに変わった!
「これがデュエルモンスターズの精霊世界。この私を取り込むとは、やはりお前はシグナー!!」
「……チッ。」
 久々に舌打ちが出てしまったがご愛嬌にしてほしい。
「シグナー? スバルさん、シグナーってなんなの?」
 問われ、ここで不安材料を増やして良いのかと返答に躊躇うとフランクは口角を上げた。誰だ、アイツをカウンセラーとか言った奴。詐欺師の間違いだろ。
「お前の力を欲する者がいる。さぁ、おじさんと行こうじゃないか。お前の力を正しく導く世界へ。さぁ。」
 すっかり化けの皮を剥いだフランクの足下に影が蠢いた。
「させるか!!」
「クリッ!」
 龍可の前に立ちはだかり構えるとハネクリボーちゃんも共に意気込んだ。サテライト育ち、力技には慣れている。
「部外者は黙っていろ!」
 足下の影が一直線に私に向かい避けたものの、なんと急カーブして私の身体を掴み投げ飛ばした。
「スバルさん!」
「ぐはっ!」
「クリ!」
 枯れた木にぶつかり背中を強打した。……と思ったけれどそこまで痛くない。あれ? けれど痛いは変わらず腰をさすった。
「どうして? 私にはそんな力は無い。なんで私が、私に構わないで!」
 後退り彼女は頭を振った。
「どうして、私がこの世界を守らなきゃならないの? そうだよ、スバルさんでも別にいいじゃない!」
 そう言って彼女は私に縋るような目で見てきた。
「どうして皆、私の力を……!」
 そう聞かれても返答に困る。出来ることなら私が代わりになりたい。けれど赤き竜は私を選ばなかった。あのエンシェント・フェアリー・ドラゴンだって同じスレイベガなのに龍可を選んだんだ。
「龍亞、私を呼んで! あの時みたいに私を連れて帰って、龍亞!!」
 悲鳴に近い叫びを上げると
「……龍可、龍可……。」
 と声が聞こえた。
「龍可、龍可……。」
「私はここよ! お願い、私を連れて帰って!」
「龍可、龍可……。」
 絶えず龍可を呼ぶ龍亞の声は次第にはっきり聞こえるようになり、いつの間にか兄元に出来た水たまりに龍亞が映し出された。膝を付いて映し出された龍亞を必死に呼んだ。
 あまりに悲痛な姿だった。
「龍可、龍可。」
「龍亞! 私を連れ戻して!」
「駄目だよ。オレも見てた。皆と約束したんだろ。」
「龍亞……。」
「龍亞くん……。」
 まさかの返答に驚く。
「オレ、遊星やスバルのように強くなるから、だから龍可はオレが守るから、龍可はその世界を守ってあげて。」
「龍亞……。」
 雷鳴が轟いた。顔を上げれば来た当初とは打って変わっておどろおどろしい雰囲気に包まれ、一筋の閃光が落ちた。エンシェント・フェアリー・ドラゴンの閉じ込められている岩山のすぐ近くに落雷し、岩山を削った。咄嗟に立ち上がり私は走り出す。
「龍可!」
 間に合え、間に合え!
 手を伸ばし雑に龍可のお腹を抱きかかえ間一髪で落石を避けた。未だ腕の中で放心する龍可は「私は、私は……。」と繰り返した。
「龍可!」
 顔を両手で包み込み、上を向かせる。
「すば、る、さん……。」
「いい? さっき私に『どうしてスバルじゃないのか』って聞いたね。それは私が龍に選ばれなかったから!」
「り、龍……?」
 荒げた声に驚く龍可の顔を見て我に返った。
 なにを、龍可に当たっているんだ。私は……。
「……龍可にはエンシェント・フェアリー・ドラゴンがいる。遊星にはスターダスト・ドラゴンが。ジャックにだってレッド・デーモンズ・ドラゴンがいる。けれど私は龍のカードを持っていない。君達はすごく強い、最強の龍に守られているの。
 それに龍可。貴女は決して1人なんかじゃない。いつだって龍亞が貴女の傍にいるし今だって私が貴女を守るわ。怖れることは何もない。……さっきはやられちゃったけどさ。」
 頬を掻いて笑ってみせる。
「格好いいお兄ちゃんじゃない。龍亞と一緒に目の前の敵を倒すんだ。」
「……龍亞と、一緒に……。」
「そう。出来る?」
 そう言うと龍可は少し目を泳がせた後しっかり頷き立ち上がった。
「……分かった、私はこの世界を守る。クリボンや皆を守る!」
「うん。」
「此所にはいないけど、龍亞が居てくれるから私、頑張れるよ。」
「うん。」
 視界の端に彼女の右腕が仄かに赤く光るのが見えた。シグナーとして覚醒した瞬間だった。
「……ごめんね、スバルさん。」
「え?」
 私も立ち上がろうと腰に力を入れようとしたとき、龍可が何故か謝った。
「……実はスバルさんの事を疑っていたの。マスコミみたいにただ面白がってからかっているんじゃないかって。けどあまりに真剣に話してくれたから信用してもいいかなって思ったけど、やっぱり全部は信じきれなくて。……疑ってごめんなさい。」
 肩を下げて言う彼女に私は首を振った。
「気にしないで。マーカー付きだもの。疑われるのには慣れてるわ。大事なのは“これから”だから、私は気にしないよ。」
 そう言ってあげると安心したように笑ってくれた。
「よし。龍可ちゃん、まずはあの人をやっつけよう。」
 立ち上がり前を向くとフランクは悪役よろしく「ンフゥ!」と口角をあげた。
 龍可が腕を上げるとデュエルディスクが出現し、しっかりと装備された。



:::



 【不死のホメオスタシス】のせいで継続的にダメージを負ってしまうなか、なんとか【癒やしの風】を発動しライフを回復後ターンを終了させた龍可。
「本当はね、お前の力なんてどうでもいい事なんだよ。私はただお前を倒す事が出来ればそれでいい。
 お前も、精霊も、この世界も、苦悶する表情を見せて貰えればそれでいいんだよォ。フッハッハッハッハッハッハッ!!」
 それはあまりに狂気の沙汰だった。デュエルを開始した当時の顔とはまるで別人、加虐を快感として得る悪の顔。フランクの悪意はそのまま大きな影となりあたりの木々を腐敗させていく。
「なんて奴……!」
「これが、この人が“悪い者”?」
 じわじわと奴の悪意が私の中にまで浸食しているような気持ちの悪さに思わず服を握りしめる。
「……許せない、許せない!」
 そういって龍可は怒りを露わにした。
「超魔神イドでクリボンを攻撃! 苦悶しろクリボン!」
「させない! トラップカードオープン! 【妖精の風】!」
 このカード以外の表側表示のトラップ、魔法カード全てを破壊するカード。これで長くクリボンに装備されていた枷が外れる! 攻撃力も元の300に戻った。
「なに!?」
「よし!」
「クリッ!」
「クリリ〜!」
 解放されたクリボンにハネクリボーちゃんも嬉しそうに鳴いた。
 コストとして互いのプレイヤーは破壊されたカード1枚に付き400ポイントのダメージを食らう。
「バトル続行!」
「300に戻ったところでなんになる。食らいつくせ! 精霊をォ!!」
「クリボンのモンスター効果! 攻撃対象となったクリボンを手札に戻す事でそのモンスターの戦闘ダメージを0にし、効果の対象となったモンスターの攻撃力分、相手はライフを回復する!
 クリボンも、この世界の誰にも手出しはさせない!」
「クフフフ、お前の世界など穢し尽くしてくれる!!」
 もはやカウンセラーの面影を微塵にも感じさせないその台詞と悪意についに大地が揺れた! と思ったら背後で岩が崩れた!
「なに?」
 龍可と私が戸惑うと岩に封じ込まれたエンシェント・フェアリー・ドラゴンが浮き上がった。龍可の記憶の中で見たエンシェント・フェアリー・ドラゴンとはまるで違い、その身体は朽ちた木のようにボロボロだった。そして狂気の混じった高笑いをするフランクにエンシェント・フェアリー・ドラゴンは掠れた声で咆哮した。
「……エンシェント・フェアリー・ドラゴンが怒ってる……! 自分が傷つくのも気付かないぐらいあの人に怒りを!」
 そのまま私達の上を飛び、手を伸ばしフランクを鷲掴みにして持ち上げた。それでも尚高笑いするフランクにエンシェント・フェアリー・ドラゴンの怒りはさらに増していく。
「エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」
「このままじゃ、あの人は!」
 地震により岩山が崩れていく中、今にも握り潰そうとするエンシェント・フェアリー・ドラゴンに駆け寄る。
「お願い、エンシェント・フェアリー・ドラゴン。怒りを解いて!」
「あなたがそこまでする必要なんかない!!」
 けれど私達の声はエンシェント・フェアリー・ドラゴンには届かず、苦悶の表情を浮かべ龍可はデュエルディスクを構えた。
「このデュエルを終わらせれば……。
 リバースカード、【オベロンの悪戯】! ライフが回復する効果を無効にし、お互いのプレイヤーはその数値分ダメージを受ける!」
 宣言した時、その場に強い風が巻き起こり、2人のライフは0となった。けれど風は強さを増し、エンシェント・フェアリー・ドラゴンの手の中にいたフランクは吹き飛ばされ、私達の身体も浮遊し、巻き上げられていく!
「龍可ちゃん!」
「スバル、さん!」
 お互い手を伸ばすもののあと少しのところで引きはがされた。
「龍可ちゃん!!」
「きゃあああ!!」
 もはや台風とも呼べる風の中、再びエンシェント・フェアリー・ドラゴンの声が響いた。
「“私を封印した悪なる意思、それは……。”」
 けれどその続きを聞く前に目の前が真っ白になった。

 ──スバル。
 名前を呼ばれハッとして辺りを見渡してもそこは上も下もわからない真っ白な空間だっだ。
「エンシェント……フェアリー、ドラゴン?」
 ──スバル、私達は貴女を見捨てたわけじゃない。
「……どういう事?」
 ──けれど選ばなかった。
「……え?」
 ──貴女の戦うべき場所は此所ではないからだ。
 エンシェント・フェアリー・ドラコンの言葉を理解しきれずに眉を潜めるが、その声がだんだん遠のいていくのに気付き焦燥に駆られる。
「待って、待ってよ! どういう事なの!?」
 ──ごめんなさい、スバル。私では、届かない……!
「エンシェント・フェアリー・ドラゴン!!」



:::



「ふわぁぁ……。」
 龍亞が大きな欠伸をしながら起き上がると天兵が嬉しそうに「良かったぁ……!」と肩を落とした。
「あれ? ここは?」
 いつの間にか見知らぬ部屋に寝かされていたことに龍亞は首を傾げた。
「お前、気絶して倒れたんだぞ?」
 腰に手を当てた氷室がそう言うと分かりやすく驚いて声を上げた。
「えええ!? そうなの!? なんか夢見てたような……、なんの夢だっけ……?」
「フッ、呆れた奴だ。」
 こちらはいきなり倒れたことへ心配で仕方が無かったというのに龍亞は呑気に夢を見ていたらしい。氷室は思わず溜息を零した。
「あ、そうだ。龍可は?」
「あれを見ろ!」
 そう言って皆の視線は部屋に設置されたモニターに集中した。
《敗者復活、第一戦は強烈な相打ちで! 両者敗退……。》
「えぇぇぇ! はぁ……。」
 画面の司会者と一緒に龍亞も項垂れた。
「……ハッ!」
 氷室の後ろで鬼気迫った表情でスバルが跳ね起きた。
「スバル!」
「え? スバル?」
 荒々しく呼吸をするスバルはたどたどしく辺りを見渡し氷室に視線を向けた。
「こ、ここは……?」
「い、医務室だ。」
 あまりに険しい表情に氷室は驚きつつそう答えると「……そう。」とスバルは右腕で頭を押さえた。
「大丈夫か? 俺達が来る前はジャックが傍に居たんだ。ジャックに何かされたのか?」
「ジャック? ……いいえ、ジャックは何もしてないけど。むしろ……。ハッ、龍可は!?」
 縋るように氷室のジャケットを掴むスバルに氷室は肩を掴んだ。
「何があったかは分からねぇが、落ち着けスバル。あれを見ろ。」
 氷室の視線を辿りモニターを見ると遊星に抱えられた龍可の姿が目に入った。数歩歩いた時、遊星の腕から飛び跳ねるようにして降りた龍可は後ろで手を組み遊星に微笑んで何かを話した。遊星も何やら安心したような顔で返事をした。
「無事、で良かった……。」
 緊張が一気に解けたのか一気に脱力し再びベットに倒れ込んだ。
「人の心配より自分の心配をしろ、スバル。気分は悪くないか?」
「あはは、ごめんなさい、ヒムロさん。私は平気。……ちょっと夢見が悪かっただけ。」
 前髪を掻き上げそう言ったスバルに氷室も肩をおとした。
「すごい形相だったから何かあったのかと思ったぞ。」
「あはは……。」
 疲労で疲れ果てた身体をベットに沈め、スバルは天井を仰いだ。
 耳にこびり付くエンシェント・フェアリー・ドラゴンの最後の言葉。その真意を未だ掴めずに。

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