狭間の物語
「星と称するには眩しく」
「ねぇ遊星、男の子はすぐに大きくなるから次に会った時はラリーが遊星より大きくなっちゃったりして!」
「あぁ。」
「そうなったらもうラリーからの突撃も受け止められなくなっちゃうなぁ。」
「……。」
「ナーヴ達はどうなってるんだろう。私達よりも大人だから結婚も……ってそれはちょっと早すぎるかな。」
「…………。」
 チラリと遊星の方を見ると左右を確認するように頭を動かしてからアクセルを踏み外へと飛び出した。来るであろう強い衝撃に備えて背中へしがみつくが、Dホイールのクッションが働いて唸るほどの衝撃は来なかった。
 青白い月光で照らされた外界はすっかり眠っていてやけに静かだった。まるで世界にいるのは私達だけのように。
「……、…………。」
 会話を続けようと開いた口がなんとなく閉じてしまい、遊星のジャケットを少し強みに握った。長時間の運転で疲れているだろう遊星に負担かけないように、そのまま身体を起こして背もたれに寄りかかった。もともと一人用のDホイールじゃスペースが限られているから、寄りかかれるほど身体が倒せている訳では無いけれど。
「……スバル?」
 不意に話しかけられ身体を起こして遊星へと頭を近付ける。
「んー? どした?」
「……いいや、落ちてないか気になった。」
「落ちてないよ! 遊星の腰に回してる私の腕、頭の中でどうなってたの!?」
「そういう意味ではなく……、眠いか?」
「あー……。」
はは……と力なく笑いが零れて目を逸らす。そう聞かれたら、答えはイエスだ。眠い。なんならこの時間はブランケットの中で夢を見ているだろう。
「スバル。眠くてもしっかり掴まれ。振り落とされるぞ。」
「……はぁい。」
 なかなか良い速度で走る中で振り落とされでもしたら、最悪即死だろう。それだけは何としても避けたい。
 出発するまでは、仮にシティまで難なく辿り着いたとしても生活やお金はどうしようだとか、セキュリティに捕まった場合はジャックとの再戦なんて夢の話になるのではとか色々考えていたのに、眠いせいなのかそれとも遊星の体温に甘えているのか、意外となんとかなる気がして目を閉じた。



 改めて回し直された腕と、ヘルメッドの中に備わっているマイクを通して聞こえ始めた寝息に思わず苦笑した。規則正しい生活は良い事だ。普段から夜更かしなんて当たり前な自分に言える事は無いが。
 サテライトの夜は静かだ。
 電気が使えない訳では無いが、使ってでも夜更かししようとする娯楽や物事がそんなに無い。余程の物好きか、自分たちの様に何かをしでかそうとしている者以外は床について暖を取っている。明日をどう過ごそうか、そんな事を夢見て。
 ナーヴ達は俺達がハッチを抜けるまで見守ると、今でも画面の前に居るのだろう。そんなに長くはない付き合いなのに、あいつ等はよくしてくれている。スバルだけでなく、まともな仕事に付かずに年中Dホイールに構っている俺にも。
 あいつ等を置いて俺達はこの街を出る。それがどれだけ残されたあいつ等に迷惑がかかるか。
 先日、セキュリティとデュエルした事で俺とラリーの繋がりは確信を持たれただろう。仮に運良く俺達がシティに入れたとして、不法侵入は記録として残るはずだ。道中に監視カメラが1つもない事の方が無いだろうし、それをどうこうする時間も無い。この作戦はタイミングに合わせただけの強行突破だ。犯罪者の仲間としてあいつ等に徴収がかかるかもしれない。
 ……こうして考えてみると、なんて無茶苦茶な事をしているだろうと思う。けれど、こうしてでも成し遂げたい事があった。
 スピーカーから聞こえる絶えない穏やかな寝息に、グリップを握り直す。もし、もしあの時──……。
 何度も考えたシュミレーションは、もうどうにも出来ない過去でしかない。
 脳裏に浮かぶのは振り返った彼女が途端に顔を綻ばせて、花を咲かせたように笑う姿だった。
 今度こそ守りたいと思った。次こそ守れるだろうかと不安にも思った。それらを全部引っ括めて、今夜、彼女を連れ出す。

BUCK

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