DUEL of FORTUNE KAPF
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 まさかこんな短時間で2つも依頼を受けるとは……。事務所に置いてきた#名前#の依頼である藍色の男を、#名前#と同じようにして拾った雑賀は最終手段の道であり最も遠回りの道を通りながら頭を悩ませた。
「このライトはマーカーの信号を攪乱させるためのもんだ、眩しいと思うが我慢しろ。」
 やけくそになりながらそう言うと藍色の男……後に知る遊星という男は#名前#と違い察しが良いらしく無言で頷いた。
「アンタが?」
「雑賀だ。」
 #名前#の時も見掛けた黒ずくめの男達に追われているこの2人はなんだと疑問に思いながらも前を向く。
「……そういやお前を拾う少し前に1人の女も拾っているんだが、お前の事を探しているようだった。今更だが、お前ら敵同士じゃねぇよな?」
 ヘルメットを被せながら聞くと遊星は目を見開いた。
「女? ……! もしかして金髪の髪をしていなかったか?」
「あぁしてるとも。髪を一括りにしてる黄色い頭をな。」
 淡い期待がすぐに確信に変わり、思わず上がる口角を押さえた。
「同じルートは使えねぇからな。シートベルトがお前の後ろにある。自分で落ちないように括り付けてくれ。」
「……あぁ。」

 再びやってきたセキュリティのヘリコプターに細心の注意を払いながら、なんとか自身の事務所に辿り着いた雑賀は辺りを見渡した。
「ここにその黄色い頭がいるはずなんだが……。」
 急いでたというのと見た目で邪気が無さそうだからという二点で一時的に信用した自分が馬鹿だったか……? と思っていると遊星は真っ直ぐソファの場所に向かった。明らかに女性もののブーツが置いてあり、暗闇に慣れ始めた目はようやくソファの上に転がっている黒い塊を見付けた。……隠せといったが全身を覆うとは予想外だった。
「#名前#か……?」
 膝を付いて黒い塊をつつく。返事が返ってこないようで布をめくると猫のように丸まって寝ている顔が覗いた。
「#名前#……。」
 遊星は恐る恐る#名前#の顔に手をのばし頬を撫でた。熱を持った頬には泣き跡があった。そのまま黒い布をさらにめくると、露わになった二の腕には赤く細長い線がいくつも付けられていて、何をされたのか想像に難くなかった。布を持つ手に無性の怒りが込められる。が、すぐに力を抜きもう一度頬を撫で、自分の額と#名前#の額をコツン……と合わせた。
「すまない、#名前#……。無事で、本当に良かった……。」
 未だ起きる気配はなく、安らかに寝息をたてながら眠り続ける#名前#から離れ、振り向いた。いつのまにか雑賀はパソコンを開きなにやら作業を開始していた。
「……アンタ、何者なんだ。」
 そう聞くと手を動かしたまま雑賀は鼻で笑った。
「自分でもよくわからねぇが大抵のものなら手に入れてやる。……何でも屋と言った所だな。」
 数十分前にも同じやり取りをそこの#名前#という嬢ちゃんとしたな、なんて思いながら答える。
「代金の心配も要らないぜ。氷室の奴から収容所に入る前に金を預かっているんでな。2人分の代金ならそこから引き抜く。」
「……2人分?」
「そこの嬢ちゃんは俺にお前を探してくれって頼んできたからな。……まさかこんな早く見つかるとは思わなかったが。」
 なるほどと納得し窓に歩み寄る。セキュリティのヘリコプターはまだ外をうろついていた。
「で、俺はなんの役に立てば良い?」
「セキュリティ保管庫ビルに潜入する。」
「なんだって?」
 雑賀が驚いて手を止めた。
 マーカーを付けられた時、裁判官はデッキとDホイールは押収した、と言っていた。ならば#名前#のデッキも押収されているだろう。
「協力して欲しい。」
 窓から目を離し雑賀に向き合うと、意を決して「あぁ。」と返した。

 机の上に従業員の服と潜入するために必要な機器を揃えながら作業を進めていく。
 遊星はそれを見守りながら部屋を見渡した。中央にいくつかの机を組み合わせて置かれていて、雑賀はその一角で作業をしている。雑賀の後ろには棚が置かれていて、そこに1つの写真立てがあった。手にとってみると写真に映っているのは雑賀ともう1人の男。2人の手にはトロフィーが握られていた。雑賀では無い男はもう片手にカードを握っていて、そこに書かれていたモンスターはレベル4の機械族。
「……【マシンナーズ・スナイパー】。」
 そして写真立ての下に伏せられた傷だらけのカード。それは写真の中にあるのと同じモンスター。……傷は焼き跡のようにところどころ焦げている。
「フッ、チョロいなぁ。」
 後ろで声がして目を向けると、雑賀の手にしているパソコンには緑の線で描かれている3D地図。
「見付けたぜ。アンタの大事なDホイールはどうやら保管庫の最上階にあるらしい。」
 そう言いながら座ったままスライドし、隣のパソコンに手を付けた。
「今、ドアロックのパスワードを調べてやる。なんとか行けそうだ。」
 キリが良いことに遊星は疑問に思ったことを口にした。
「アンタ、デュエリストだったのか。」
 デュエリスト、という言葉に反応して雑賀が立ち上がった。
「んなっ、お前! 人のものにやたらと触るな!」
 過剰に怒りを露わにした雑賀の声で奥から「んへ……?」と声がした。
「あれ、サイガさん帰ってきてたんですね……。おかえりなさい。」
 黒い布から顔を出し目を擦る#名前#は、ふああと欠伸をした。そして雑賀の向こう側にいるもう1人を視界に捕らえると、眠そうな目がどんどん見開かれていった。
「ゆ、ゆうせい……?」
 遅れて口も大きく開けるのを確認すると遊星はコクリと頷いた。
「遊星! アイテテッ!」
 急に起き上がったせいで身体の傷が疼いた。が、一瞬ひるんだだけで靴下のままで地面に立ち左脚で飛ぶようにして駆け寄った。
「遊星!? 本当に遊星!?」
 何度も聞いてくるので
「本物だ。」
 と返すと「うひゃー!」と奇声を上げながら勢いよく抱きついた。
「本物だぁ! 触れる〜!」
 幽霊でも幻覚でもない! と叫びながら一頻り遊星の胸に頭を擦りつけた。
「あぁ。」
 と軽く抱き返し背中を叩いたあと、#名前#の肩を掴んで引きはがした。
「まずは靴を履け。」
 そう言われて引きほどニヤけていた顔が一瞬にして消え、首を傾げたあと下を見るとようやく自分の現状を把握したらしい。「あっ!」と声を上げ、またケンケンとソファに戻っていった。
 一連の流れで脱力したように雑賀は溜息を付いて椅子に座り直した。
「……タックデュエルのDホイーラー。」
 写真立てを掲げ先程の話に戻すと雑賀は顔を背けた。
「……といっても正式なプロじゃねぇ。偽物リーグのデュエリスト崩れ。ただ……それだけだ。」
 すると右脚のブーツに慎重に脚を入れる#名前#が視線を上げた。
「サイガさんもデュエルするんですか? そこにいる遊星も結構やるんですよ?」
 へへっと自分のように自慢する#名前#に雑賀は一度だけ目を向けた後、パソコンに向き合った。
「そんなもんいじってないで! ……ちょっとお前らこっちに来い。」
 遊星は無言でマシンナーズ・スナイパーのカードを元のように伏せ、その上に写真立てを置いた。そして#名前#も立ち上がり右脚を引きずりながら遊星の隣に立った。
「どうだ?」
「なんですか、これ?」
 手を後ろで組みパソコンを覗くと画面には“Pass Woed EHDDN”と書いてあった。
「パスワードを手に入れた。」
「なんのですか?」
「セキュリティ保管庫ビルにある、俺達のDホイーラーが置いてある部屋だ。」
「えっ!?」
 全てが初耳の#名前#にとってまさかここまで話が進んでいるとは思ってもいなかったらしく、ひたすら「え!?」と繰り返した。いちいち構っていると話が進まないので遊星は#名前#の頭に手を置き黙らせる。
「流石だな。」
 そう返すと雑賀はチラリと遊星の顔を伺ったあと、画面を切り替えた。
「だが賭けてもいいがアンタ、収容所に逆戻りすることになるぜ。」
「俺は、やらなきゃいけないことをやるだけだ。」
「えっ、待って、なんか流れ的に私が置いて行かれる事になってるんだけど私も行くよ!?」
 遊星の手を退けながら#名前#が声を上げる。
「なんてたって私はその“やらなきゃいけないこと”に巻き込まれにわざわざここまで付いてきてあげてんだから、ここで置いて行かれたら困る!」
「だが嬢ちゃん。お前はその脚で付いていくのか?」
「うぐっ……。」
 雑賀に現実を突きつけられてひるむが遊星が#名前#の頭を2回叩いた。
「道連れにする。そう約束したからな。」
 方眉を上げ訝しげに2人を交互に見た後「お前ら、頭おかしいぜ。」と溜息交じりに椅子をスライドさせ、もう片方のパソコンに向き合う。
「……まあ俺にはどうでも良いことだ。」



:::



 各々で休んでいるとガタッと何か重い音がして目を開けると向かい側で寝ていたはずの遊星の前にオレンジ色のボストンバックが置かれていた。私はもそもそと起き上がり大きく背伸びをした。
「必要なものは全て用意した。……あとはお前らの運次第だな。」
 どうやら作戦決行が近付いているらしい。外を見ると、いやぁ良い天気ですなぁ。ラリーと外で遊びたくなるほどに。ウッ、ラリー。お姉ちゃん達はまだ帰れそうにないよ……。もうちょっと待ってておくれ。
 遊星は立ち上がりボストンバックに手を伸ばそうとすると、サイガさんはその手を躱した。
「答えろ! 何故掴まると分かっている所にわざわざ行く……!」
 声を押し殺しながらも荒らげるサイガさんに遊星は姿勢を正した。
「そこには仲間との絆があるからだ。俺達は奪われたソイツを取り戻しに行くだけだ。」
「ついでに脚の治療受けられたら良いなぁって思ってるんですけどね〜。」
 ……ん? 今私“ついで”って言ったか?
「ハッ! 仲間だと?」
 サイガさんが遊星を睨み付けた。ねえ私の言葉は?
「そんなくだらないもののために……!」
「!」
 すると遊星は後ろを振り向いた。あれ、なにか言い返すと思ったのに。釣られてその目線を辿ると1つの写真立てが見えた。立ち上がって近付いてみると、写真の中にはサイガさんともう1人の男が映っていた。なにかの表彰式のような写真だ。……ん? なんか下に伏せカードがあるぞ。
「サイガさん、これ……。」
「あぁ、そうさ。……分かってる。俺だってかつて仲間が居た。
 だが奴が残したものは深い絶望と、生きていながら死んでいるこの実感の無い現実だけだ。」
「サイガさん……。」
「フン、仲間との絆だと? そんなものは幻さ。やがては自分の事だけ考え、傷つけ、利用し、1人で生き残ろうとする。……この俺のように。」
 ……話によるとユウジさんって人と昔タックデュエリストをしていたサイガさんは、とあるデュエルで相手のスリップが原因の事故に巻き込まれたそうだ。その際Dホイールとサイドカーが分裂してしまい、お互い手を伸ばしたものの届かず、そして目の前には大きな壁。思わず自身のDホイールの方向転換をし自分は難を逃れたが、ハンドルの付いていないサイドカーはそのまま激突。そのまま炎上したらしい。
「……幸い奴は一命を取り遂げた。だがDホイールにはもう二度と……。くっ、もはや死んだも同然だ。」
「そんな……!」
 別にDホイールに乗らなくてもタッグデュエルは出来る。……そりゃDホイーラーとしては悔しいだろうけど、乗れないだけで絆が断ち切れてしまうなんて。
「このカードは奴が残した、絆の成れの果て。事故の後、このカードだけ奴から送られてきた。……見捨てた俺への当てつけだろうよ。」
 ……本当に、そうなのかな。
「仲間のために命を賭ける? 結局そんな事は出来ないのさ!だったら最初から仲間なんて作らない方が良い。」
 カードを握るサイガさんの手は震えていた。激しい後悔。自分に出来なかった事をしようとする遊星への……これは妬み、だろうか。
「そうですか?」
 思わず口から言葉が出た。
「……なに?」
 睨み付けるサイガさんに私は大きく息を吸って続ける。
「いくら仲間でも喧嘩はします。嘘をついたり、傷付け合ったり、もう二度と関わりたく無いと思ってしまう時だって……多分あります。でもそれ以上に楽しかったり笑い合ったりした日々の方がずっと多かったはずです。それをたった一度の事で幻だと断定してしまうのは、なんか……違うと思います。」
「お前に何が分かる!」
 グッと胸元を掴まれた。後ろで遊星が私の名前を呼んだけど、私はサイガさんの目を見据えた。
「だって皆、そこまで人間出来てません! 自分の命を省みない人なんてほんの一握りしか居ませんよ。きれい事なら誰だって言えます。でも実際にその場面に遭えばどうなるかなんて誰にも分かりません。
でも人間のすごい所は心がある事です! 傷付け合えるのなら傷を癒やす事だって出来ちゃうんです! 些細な半歩でも、その人にとっては世界を変えてしまうぐらい大きな一歩だったりするんです! ……生きてる限り、何度でもやり直せるんです。」
「……。」
 サイガさんは私から手を離し俯いた。
「#名前#、」
 もう一度遊星が私の名前を呼んだ。
「奴は死んだ、なんて言わないでください。彼は生きているんです、そこで。それに向き合う方法にとっておきの素晴らしいものを私達は持っているじゃないですか!」
 そうしてパッと手を広げる。目線だけ上げたサイガさんにとっておきの笑顔をプレゼントする。
「本音と本音のぶつかり合いには、やっぱりデュエルでしょ!」
 ハッとして目を見張るサイガさん。
「まずはお手本に私達がセキュリティから取り戻して見せます。私達のいう“絆”ってやつを。不運ってだけで終わらせません。」
 お世話になりました。そう言って頭を下げ、いつの間にボストンバックを肩に掛けていた遊星と共に事務所を出た。

 ビルを出て暫くして私はうーんと頭を掴んだ。
「どうした。」
 遊星が目線だけ私に向けて聞いてきた。
「うーん……、部外者なのに思いっきり地雷踏み抜いたなぁって……今更悩んでる。」
 すると遊星も黙ってしまい、やはりそうかと後悔した。誰だって触れて欲しくない部分はある。自分の無神経さに嫌気が差す。
「……いや、それは違う。」
 口を開いた遊星を思わず見上げた。
「……#名前#は間違った事を言っていない。」
 前を向いたままそう続ける。
「そっか……。届くと良いなぁ。」
「……届いたさ。きっと。」



:::



 ハロー、みんな。元気にしているかい? 私はと言えば緊張で口から心臓が飛び出てしまいそうさ。
 現在どこにいるのか正直わかんないです。ガタンガタン。段ボールの中で身を縮めています。
 やはり私の歩き方だと特徴的でバレやすいという結論になり、現地まで荷物役として運ばれる事になりました。人生初です、段ボールの中で息をひそめるの。
 作業員を装っている遊星は私のいる段ボールの上に例のボストンバックを置き、ゴロゴロと台車を押してる。そうして最上階まで潜入後、いつの間にか作ったらしい関係者用のカードを使って控え室で台車と諸々を置く。ようやくそこで私は外に出られた。こわ、こっっっっっわ。
 遊星のボストンバックにはもう1着分の作業服と鞄があるらしく(きっと重かったに違いない……。すまねぇ……。)、それに着替え、終業時間までトイレに籠もる。暇すぎて死ぬかと思った。その間ずっとハネクリボーちゃんとケライノさんが託してくれたハーピィ・レディと睨めっこしていた。このご時世、融合召喚よりもシンクロ召喚が主流なのに、こんなに懐かしいカードを持っているって物好きだよなぁ……。それを言ったら私もなんだけど。
 作業服はトイレまでの道のりをやり過ごすためだけのものなのでそそくさと私服に着替える。その時つなぎって良いなと思ったのは別の話だ。
 時計でピッタリ10時に遊星と落ち合わせた。警備用のロボットには気を付けたかって、当たり前でしょ! あんなもんに姿捕らえられたら私のレッツ耐久12時間の努力が水の泡だ! 遊星のほっぺをつねり“馬鹿にしてんのか”という怒りを表すと手刀が下った。くっそ〜〜〜〜。私への扱いが年々雑になってないか? ジャックと同い年なんだから年上なんだぞ、私!
 歩き出した遊星に遅れを取らないように急ぎ足で付いていくが、数歩歩いただけで立ち止まられた。そして私に背を向けしゃがむ。……は? いや早く乗れって目で訴えるな、やだよ。ボストンバックはお前が持てって、おい! の、乗らないぞ私! 粘れば粘るほど遊星の顔が険しくなっていく。
 ……折れたよ! だって怖いもん! 最後マジギレ寸前だった!
 これじゃどっちが年上なんだか分からないな……と思いながら上に乗る。思っていた以上に素早く立ち上がったので慌てて遊星の首を掴んだ。思わず咄嗟で……ご、ごめんなさい、そんなに睨まないでください……。
 迷わずに、けど警戒しながらも進んでいく遊星の背中でコイツの頭の中どうなってんだろうなって思った。そういえば男子の方が脳みその構造的に方向感覚や構造把握に長けているって聞いたことがある。……そうゆうものなのだろうか。
 するととある扉の前で立ち止まり、左右を確認後、ゆっくりと私を下ろした。私の持つ遊星の方のボストンバックから1枚のカードを取り出し、スキャンする。え、ええええ!? この扉のカードまで用意出来たの、サイガさん!? 迷わずロックナンバーを押す遊星もすごいけど!
 あっけなく開いた扉の先には幾つもの大なり小なりの箱が置かれている。遊星は私から2つのボストンバックを奪い取ったあと小さな機械を見ながら進んでいく。あ、なんか赤い丸が点灯してる。とある大きな箱の前で強く反応し、ここにDホイールとデッキがあるらしい。すっげーなサイガさん。
 ピカーッ!
「うっわ!」
 眩い光に12時間ぶりに言葉を発してしまった。我慢してたのに!
 腕で光を遮りながら根源を見上げると幾つかの光の中心に、あの、いやーーーーな顔が居た。
「驚いたぜェ。」
「出たなジャイ眉!」
「変なあだ名を付けんじゃねぇ!」
「アンタの横暴さが青い猫型ロボットに出てくるガキ大将とそっくりだからその立派な太眉と合わせてあげてんの!」
 私がそう叫ぶと何処かで「プッ。」と笑う声が聞こえた。
「笑ってんじゃねぇぞ!」
 アンタのお仲間さんも思うことは同じようね。
 聞け#名前#、と小声で名前を呼ばれた。
「ハンッ! 何かやるだろうと思っていたが、やっぱクズ野郎はクズ野郎。まさかセキュリティの保管庫に忍び込むとはなァ。うお〜こえぇ。」
 絶対怖いって思ってない顔で言われた。
「コイツは俺と仲間のものだ!」
「違う。」
 遊星が反論するとすぐに否定が帰ってきた。
「ここに保管されているものはネオ童実野シティのものだ。ついでに言っておくとなァ! サテライトのクズの命もこの街のものなんだよ!」
「っ!」
「また収容所にぶち込んでやる! 引っ捕らえ!」
「#名前#!」
 合図と共にボストンバックを受け取り腰を下げる。そして襲いかかとうとするセキュリティの脚をめがけて、自身の左脚を軸にして思いっきりスライング! 右側のセキュリティの足払いに成功した私はその勢いのまま左側のセキュリティの顔にぶつけた!
「女を囮にしようたってお前らは袋のネズミだァ!」
「クッソ!」
ドミノ式になだれ込んだセキュリティの上を飛び込むようにしてジャンプする。ごめんジャック! 2度と歩けない気がする! 地面に手を突き勢いのまま前転。火事場の馬鹿力ってやつで両足で立ち上がると爆発音が響いた。
「うわあ!」
途端に煙り臭くなる中ボストンバックを抱え必死に左へとケンケンする私に誰かに左腕を強く掴まれ、瞬間浮遊感が襲う。お尻に強い衝撃を受けて目を開けると遊星の背中が見えた。
「遅くなった!」
「タイミングバッチリだよ!」
 Dホイールに立ち乗りしているためアクセルが強く踏まれた状態だ。すぐさまスピードが上がり慌てて横乗りから座り直す。
 ボストンバックを肩に掛け、腰を下ろした遊星にしがみつく。
 目の前で閉まろうとする扉もスレッスレで通り抜き、長い廊下を全力疾走で駆け走る!
「無茶な事をさせて悪かった!」
 凄まじい風の中、遊星が聞こえるように叫ぶ。
 あの名前を呼んだ時、遊星は小声で『合図を出したら左に走れ』と言ったのだ。
「成功したんだから結果オーライ!」
 ゴーグルを装着して私も叫び返すと「ハハッ!」と返ってきた。おお、あの遊星が豪快に笑ったぞ! ……が。
 ガツンッと横から衝撃を受け大きく逸れた。
「馬鹿め! 俺から逃げられると思ってんのかよ! 早く観念しちまいなァ!」
 しかし遊星はさらにスピードを上げ、比例するように私も遊星に強くしがみつく。ヘルメットを被ってないだけでこんなにも命の危険を感じる!
「オイオイ、ちょっとはしろよォ、会話のキャッチボールってもんをよォ! それが無理なら一応デュエリストらしく俺とカードで語るかァ?」
「ゲッ!」
「フィールド魔法、強制発動! 【スピード・ワールド】セットオン!」
「ばかやろおおおおおお!!」
《デュエルモード・オン。オートパイロット。スタンバイ。》
「ああああッ!!」
 スイッチ・オン☆みたいなノリでそのフィールド魔法を使うなぁぁぁ!!
 時速100q越えは余裕でしてそうな中、どこにデュエル出来る余裕があるんだ!
「このデュエル、受けて立とう!」
「まじかああああ!」
 正気かよ、ゆうせえ! しかも今回はやる気だ!
「デュエル!」
 声を揃え豪速のデュエルの幕が上がった。
 男ってわかんねえや!
「先攻は俺だ! ドロー! 【ボルト・ヘッジホッグ】を守備表示で召喚! しっかり掴まれ#名前#!」
 これ以上強く掴まったらお前の贓物が潰れるんだよ!
「フヘヘヘ、俺のターンだ。ドロー!」
 なんだその笑い方! なにげに遊星とのデュエルを楽しんでるんだろ! 全敗のくせに!
「俺は【サーチ・ストライカー】を攻撃表示で召喚! 【サーチ・ストライカー】! サテライトのクズモンスターをクラッシュせよ!」
「なっ!」
 守備表示だからライフは削られないけどあっけなくやられてしまった!
「俺のターン!」
 むしろ前みたいに気付いたら外でした! みたいに意識が飛ばせればいいものの、そう問屋は下ろさないらしい。
「手札より、チューナーモンスター【ジャンク・シンクロン】を召喚! 【ジャンク・シンクロン】が召喚に成功したとき、墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚することが出来る。復活しろ、【ボルト・ヘッジホッグ】!
 レベル2【ボルト・ヘッジホッグ】とレベル3【ジャンク・シンクロン】をチューニング!」
「このタイミングでシンクロ召喚だと!? クズのくせに生意気な……!」
「シンクロ召喚【ジャンク・ウォリアー】!」
 スピードが速いせいかゲームもポンポン進んでる気がする。というかよくこんな長い廊下があるな。どうぞデュエルしてくださいってか。
「させるかよ!」
「なんだってー!?」
 風が強すぎて何言ってるか聞き取れなかった。させない? 何をだ?
「トラップ発動! 【ディスコード・カウンター】!」
 このカードの効果によってシンクロモンスターを分解、次のバトルでのあらゆる召喚が封じられてしまった!
 しかも目の前に迫るドアのシャッターが降りていく!
 さすがに間に合わないと踏んだのか急カーブして次の扉へ向かうもそっちも封鎖! あんのジャイ眉、学習したな!?

 その後遊星のモンスター2体共破壊され、次のターンはなんとか伏せカード1枚を置き、ターンを終了した。
 けど今は正直デュエルより道が無くなってるほうが危険が迫っていた! ジャイ眉の言うとおり、どの道もシャッターが降りていて下手に突き破るとどうなるか……。
 と思ったら!
「諦めなァ! その先にあるのは行き止まりだけだ!」
 なんとか左右の道を探してもその通り本当の行き止まりに来てしまった! なのに遊星はさらにスピードを上げた!?
「なにしてんの!? 遊星、遊星ったら!」
「野郎、何を……!?」
 んあぁ、もう! 1度決めたら絶対に曲げない奴だって忘れてたよ! ぎゅっと腕に力を込め大きく息を吸う。
「あああああああ!」
「いっっっけえええええ!」
 遊星の声と私の声が入り交じり遊星号は最大スピードで突っ込んだ!!

--8HOME-10

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