高校二年生
私のかわいい人へ
 午宇は良くも悪くも私を大切にしてくれた。嬉しくもあったけど、同時に心配でもあった。
 あなたから初めて私以外にチョコレートを渡すと聞いたとき、とても嬉しかったの。私は誰よりも長くあなたと一緒に居たけれど、それでも一度も見せたことない顔を見せたあなたを可愛らしく思った。相手は誰、と訊いてもあなたは濁したね。そんな事も、一度だって無かったのに。
 小学校は共に過し中学校は別々だとしても、あなたはよく連絡をくれたし月に数度は会っていた。そのためか、離れていた感覚はあまり無かった。
 それなのに高校生になってたった1年。たったその1年であなたはまるで違う人になった。昔、共に夢見た将来の為に頑張るあなたはとても格好良くて憧れた。少し欠けていただけで、本来はずっと強い子だったあなたは水を得た魚のように生き生きとしていた。私が高校を中退して宝石ヶ丘に入り直そうと思ったのも、そんなあなたが格好良くて隣に居続けたかったからっていうのも……実はあったりして。
 本当は中学校の頃、昔の自分が軽々しく言った『声優になればきっと変われると思うよ』という言葉。あの言葉であなたの人生を縛ってしまったんじゃないかっていう罪悪感を抱いていた。私が言わなければ、あなたはもっと視野を広げて違うあなたになれたかもしれない。決して努力したからといって必ず大成するわけじゃないのに、あなたを盲目的にさせてしまった。そんな風に恐怖する時が今でもある。
 けれど私を親友として大切に接してくれるあなたの隣は居心地が良かった。好きな映画も嫌いな食べ物も、午宇となら共有しあえた。嫌な事も大切な思い出に変えられた。だから……、つい甘えてしまって。あなたは気にしなくて良いって言うだろうけど、これだけは私が抱えなきゃいけないものだから。
 去年、電話越しにあなたが泣いたときに傍に居てあげられなくてごめん。慰める言葉も上っ面ばかりで、あなたを支えることが出来なかった。午宇が折れたのを見たのはあの日以来だったから、私自身戸惑ってしまっていたと思う。ただ傍に居たら、隣に居たら、抱き締めてあげられたのに、それすら出来なかった自分が悔しかった。結局私ではその涙を拭いてあげることは出来なかったけれど、エンディングにあなたの名前が消えなかった時、確かに誇りに思ったよ。地を這ってでも進む君を誇りに思う。
 死にものぐるいで育成校の講習を受けて、憧れの宝石ヶ丘の地を踏んだとき、あなたは真っ先に駆けつけてくれたね。1年ぶりの再会だった。……たった1年。何故かズボンを穿いていたあなたには驚いたけれど、それ以上に大人になったあなたが眩しかった。

 いつも私を守ってくれて、私を思ってくれて、私を追いかけてくれたかわいい人へ。

 この間、蛍くんがバレンタインであなたに言って貰った言葉にお礼がしたいってずっと悩んでいたの。偶然スタジオが一緒だったというのもあって、帰り際にその時の話を聞けた。ホワイトデーを理由にすればチョコのお返しと共に素直に受け取ってくれると思うからって言っていたよ。同時に気に掛けてくれたあなたに嘘をついてしまった事を後悔していた。だからそんな事をしなくてもって言いかけたけど、そういえばあなたは何の気もなく人の背中を押すから、そのことでお礼を言われてもまるでなんの事か分からないことを思い出した。

 鳥羽くんも決して午宇の事を嫌ってなんかいないよ。たしかに私も最近の鳥羽くんは午宇を避けているように見えたけど、偶然放課後に相談されてね。最初は役に困っているからって女子高生の好みの話しをしていたのだけど、色々話していたら言葉の端々に午宇を気に掛けている風だったから思わず『午宇ならお菓子が1番喜ぶと思いますよ』って言っちゃった。そしたらすごく驚いて誤魔化されたけど、私が笑っちゃったせいか諦めて『白鷺には内緒にしててくれる?』ってのど飴を代価に口止めされた。直接聞くには気が引けるけど、リサーチすると怪しまれるから、だって。午宇は気にしなさそうって思ったけど、そういえばあなたは他人の事はどうでもいいように見えて、些細な変化には敏感だということを思い出した。

 ねぇ、あなたを思ってくれる人が居る。私が心配することなんてまるで無かった。実はすごく怖がりで泣き虫なあなたの手を引いてくれる人が2人も居る。きっと私が知らない1年間であなたが光差し、あの日のあなたを助けてくれた2人なのだろう。だって私が当たり前にして気付けなかった一面を彼らは気付けていたから。
 それは同時に午宇の隣はどちらも埋まってしまったように思う。あとはもう、あなたの背中を追うか抜かして前へ出るか。でも抜かすのは簡単じゃない。やはり1年間先に業界を知った午宇の方が経験が多いから。そうしたら私はあなたを追う側になる。あなたの背中を、きっとこれからずっと。
 そんなの、眩しいに決まってる。

 私のかわいかった人。あなたはもう、私の元を飛び出してしまったのね。


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