高校二年生
ぼくのあかいチューリップは、まだ咲けないらしい
*期間限定イベント「煌きの祭典 宝石たちの学園祭」の後夜祭ネタ
 +某ソシャゲ楽曲「TULIP」の歌詞ネタ



 まさにハメられたとしか言い様がないがない後夜祭の出し物。僕に何かやらせようとする時ひかりを囮にすればいいとか学んでそう。事実ひかりの「ね?」には弱かった。
 煽られ乗せられ特訓したのが昨日までの話、ハッと我に返ったのが今日の朝、バタバタとクラスの出し物や悪夢もありつつ夜が来てしまい、ついに特注のアイドル衣装に身を包みボルテージの上がったステージで踊ってきたのがついさっき、今はキャンプファイヤーの周りでガヤガヤとしている連中から離れ1人座り込んでいた。疲労感が凄まじい。1週間のエネルギーを1日で使い切った気すらしてくる。数少ない女子だからと言ってアイドルソングを踊らせるのは如何なものか。しかもやたら恥ずかしい選曲を……、誰の趣味だあれ……。ひかりはその辺吹っ切れてるらしく、もう今は楽しそうに連中の輪に混ざっている。その様子を見ながら、まぁ楽しそうにしていたからいいかと思ってると、ふと左からお茶の缶を差し出された。見上げれば薄暗くともわかるその笑顔に、思わず眉間に皺がよる。
「おつかれ。随分可愛い格好してたな。」
「……煩い。ボクは疲れてるんだ、加減出来ないんだけど。」
「ちょっ、ちょっと待った! 全く、お前ってそんなに手が早かったかぁ……?」
 無遠慮に隣に座った鳥羽からもう一度缶を差し出され、礼を言ってからそれを手に取った。買ってきたばかりなのだろう。ほのかに温かい缶は、少し冷えてきた手にちょうど良かった。
「あっちに混ざらなくていいの? 神谷、特待生ちゃんに絡んでるけど。」
「フン、ドン引かれてやんの。……大丈夫だろ。今日はPrid'sの3年も居るし。」
 言葉通り、ひかりは神谷の手を躊躇したあと手招きする一色先輩と櫻井先輩の方に行った。2人の間に収まるひかりは身長差もあって囚われた宇宙人のように不格好だ。それがまたちぐはぐで可愛いとも言うが。鳥羽の方こそ混ざらなくていいのか。出来始めた歪な輪を指差して聞くと随分と曖昧な返事をした後に俺はいいと答えた。それから小さく「此処に白鷺が居るし。」と付け加えた。僕が此処に居るからあちらには混ざらない、とはどういう事だろう。それって……。
 問を続けた僕の声はダンス用の音楽にかき消され、もう一度言葉にする勇気も何処かに連れ去られてしまった。すっかり行き場を失った目線をぎこちなく前に戻す。キャンプファイヤーは高く燃え、見つめ続けるには少しばかり明るすぎた。けれど聞きそびれたこと、良いように捉えてしまった期待を外してしまった時の事を考えると気まずさに左手で頬をつく。やはり頬は少し熱くなっていて、いいやこれはキャンプファイヤーのオレンジ色のせいだと誤魔化せるだろう。
「さっきの、可愛いってのはたしかにちょっとからかいもあったけど……、ちゃんと本心だよ。」
 けれど僕の内心を知ってか知らずか、鳥羽はそう口にした。は、と声が漏れる。音楽と騒ぎにかき消されそうな、けれどたしかに届いてしまったその声にビクリと心臓が跳ね上がった。
「選曲、誰がしたのか知らないけど、あれを踊るのは予想外……というか予想を上回ったというか、」
「……。」
「……、想像以上に可愛かった。」
「……あぁ、服が。」
 意図を汲みかねて黙っていたが、なるほど、そう言えば先程格好って言っていたからその事か。なら僕じゃなくてデザイナーか服自体に言ってやれば喜ぶだろう。前者はともかく後者は知らんが。
「は? 違う!」
「わっ、びっくりした。」
「うぉぉ、こんのっ……わからず屋……。」
「え、わからず屋……。」
 突然の罵倒に地味に傷付くと彼は垂れた頭を一気に持ち上げて僕の頬をついていた手首を掴んだ。
 君が、だよ。
 真っ直ぐな目はキャンプファイヤーの光が反射しまるで燃えているようで、その言葉は何故か喧騒にかき消されること無く僕に届き、何故かその言葉だけが脳内をグルグルと回った。
「なぁ、午宇。」
 僕が弱い、そのワントーン下げた声に反射で喉が鳴る。逃がさないとでも言うかのように僕を射貫くその目に心臓は大きく脈を打った。
「“kiss me”……だっけ?」
 どうして焦らすような言い方をするんだろう。冷えていたはずの身体が動いていないのにライブの時のように温まり、ゆっくりと顔に熱が集まるのがわかる。視線に耐えきれず目線だけでも彼から逸らした。
「あれ、誰に向けて言ったの?」
「だっ、……誰にも向けて言ってない。あれは……、あれはそうゆう歌詞で……。」
「君は仕事に対して公私混同しないでしょ。ねえ、確かに誰かに向かって言ってたんじゃないの?」
「……っ!」
 ライブ中はただ歌とダンスに必死で、何も考えていなかったはず。けれどそれを否定しきるにはあまりに情熱的……煽るような歌詞ではあった。我に返るのがあまりに遅すぎたせいで、こんな、事に。
「午宇、」
「わああああ!!」
「っ!」
 あまりの羞恥心に耐えきれず思わず叫ぶと掴まれた手が緩み、咄嗟に立ち上がることで引き剥がす事に成功した。
「わ、わた、ボク! あっちに混ざってこよ! ひかりー!」
 苦しまみれの言い訳を取り付けて幼馴染の名前を呼んだ。音楽が鳴っていても届いたらしく、名前を呼ばれてた彼女は振り返って僕の顔を見るなり笑顔で櫻井先輩と繋いだ手を挙げた。その元に全力で駆けつけると、近くの輝崎と浮間が受け入れてくれた。彼らと手を繋ごうとして、先程鳥羽から受け取った缶が手に収まっていた為に慌てて内ポケットの中に入れる。浮間に何処に行っていたんだと聞かれて曖昧に返すと、反対側の輝崎に「何かあった?」と心配そうに訊かれた。全力で否定しつつ鳥羽の居る方に舌を出すイメージだけを送り付け、2人の手をしっかりと掴んだ。
 心無しか足が浮つく僕を遠目から見ながら鳥羽が人知れず「逃がしたか……。」と零した事など知る由もない。


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