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いつからか、エレナは僕の事をロイド、と呼ぶようになった。
ラルゴ、と読んでくれなくなった。
なんだかそれを酷く寂しく感じた。
「ロイドーいるー?」
「いないよー」
「いるのに何それ?」
「僕はラルゴ・ロイド、ロイド、じゃないんだよ」
「ロイド、でもいいじゃない?」
苗字なんだしさーというエレナに本から視線を移して目を細めた。
ラルゴと呼ぶ気はないんだ、と切なくなる。ため息を吐いた。
すとん、ソファーの僕のとなりに彼女は腰掛ける。天真爛漫に明るい顔を浮かべててそれを見ると、まぁいいか、そう思える一方で彼女を苛めたくなった。
「ね、ロイド、この前のテスト何点だった?」
「92」
「えーあと1点差っ」
どうやら彼女は僕に何かひとつでも勝ちたいらしく、時々、こうやって地味に競ってくる。
それは可愛らしくて僕も嫌じゃない。だから影で彼女と争えるよう努力する。
彼女に負けるわけにはいかないから努力する。
しかし、ひとつ僕が彼女に勝てないことがある。
いつからか、ラルゴと呼ばなくなった彼女にもう一度ラルゴと呼ばせようと色々するけれど、全くもって功をそうした事はない。
エレナが名前を読んでくれない。
大したことはないけれどどこか距離を置くロイド、という呼び方を寂しく感じて、ラルゴ、と呼んでくれる時を探している。
小学生の時はいつもラルゴだった。中学生の時はみんなの前でロイド、僕らだけの時はラルゴ。
高校生の今はロイド。
そして二人きりの今もロイド。
にやり、読んでいた本を閉め彼女に寄った。
残念だったね
耳元でいやらしく言ってやる。
うー、と睨んでくる彼女をみると残念なのは僕なのかな、僅かにそう思えた。
苗字より名前で呼ばれたいロイドさん。
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