main | ナノ



1

隣の部屋からチェロが流れてきた。




眠たい眼をこすって時間を確認すればまだ5時。日すら登っていない時刻。
ふあぁあ、と大きなあくびを一つして、ベッドから身を起こす。どうしてこんな早朝から彼の音が聞こえるのだろうとぼけら、と考えておよそ2分。大学の為にアパートに一人暮らしを始めたら隣がなんと幼馴染みの彼だったのだ。どうやら彼も一人暮らしを始めたらしい。昨日挨拶をしたときに驚いた。
あぁ、そうね。だから私は朝から彼のチェロで目覚める事ができたのか。
ベッド横の壁にもたれて、流れる音に耳を傾けた。
メヌエット、ボレロ、ピアノバイエルに収められてる曲、次々に流れ出す。
懐かしいなぁ、と思ってその曲に浸った。


(これは小学生の時の発表会、これはコンクールで優勝した曲)


彼が数分間奏でる曲はいっこいっこ思い出のある曲で、まるで懐かしのアルバムをめくるようだった。
そして、ふと、あ、と思った。


(私も、ヴァイオリンを弾こう)


大学は同じだけどデュエットの機会は難しいかもしれない。なら、今のうちに、とパジャマのままヴァイオリンに手を伸ばした。






星に願いを



ゴーシュが奏で始めたのはそれ。
ワンテンポ遅れてそれに乗る。壁越しで少し聴きづらい音に合わせようとする。それでもワンテンポのズレは埋まらなくて、焦りがうまれるばかり。
焦る最中、耳をすますとチェロの流れがゆっくりになった気がする。
それを気にヴァイオリンとの二重奏が始まった。




(そうだ、これは初めてデュエットした時の曲)




小学生の時に教室の発表会で初めてデュエットしたのだ。懐かしい。
懐かしさにかまけて、当時の事を振り返る。精一杯めかされた私とゴーシュは緊張してて、緊張すると足が震える私は座って演奏できるゴーシュがうらやましかったんだっけ。今思えば小学生なのによくチェロなんて大きな楽器を弾けたなぁ、なんて。
そうしてふと、思い出した。
あの時もテンポを外した私にゴーシュがあわせてくれたっけ。あの頃から優しかったんだなぁ、と幼馴染みの特権に浸った。




朝陽の二重奏
(それは懐かしの)















[ 12/116 ]
/soelil/novel/1/?ParentDataID=16


 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -