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ロイエレ(8のロイド視点
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額をくっつけた。


目の先には目。
茶色の瞳がとけている。
鼻の先には鼻。
ポイントはそばかす。
口の先には口。
ぷっくりな唇の先の息は少し、荒い。


エレナに頼まれて無料家庭教師の真似事をしていたのだけど、どうにも頭を抱えてわかんない、を連発していたエレナ。
机に座って僕は向かいに座って教えていたのだけど、ふと思って額に触れたのだ。やはり熱かった。
熱があるねと顔を引っ付けたまま囁いてみると、トロリとした瞳が少し鋭くなる。
そんなこと、ない。

なんて、とても主張する目だったけど、合わせたままの額からは熱はさらに伝わる気がする。やっぱり、上がってるんじゃないか。そう思案していたらエレナが口を開いた。


「あたしは元気よ、ラルゴ」
「どうだか。おそらく熱があるよ」


ゆっくりと顔をはずしてテーブル挟んで向かいの椅子から立ち上がった。
明らかに熱があるよ、言いながら、エレナの布団をひこうと思って動く。
そんなことないわ!と主張するエレナがいるけど、目も赤いよと髪を撫でた。
座ったままこちらを見上げるエレナは子犬みたいにかわいくて、だんだんからかいたくなって、病人だとわかっているけれど途中からわしゃわしゃとしてみる。子犬みたいだ。
するとラルゴ!と叫んでとっさに掴んだノートで僕を叩こうとするエレナ。
呼ばれ方に違和感を覚えて、え、臨戦体制に入りそびれたらエレナの体がよろめいた。
倒れる!
横のに体が斜めになる彼女の先には部屋の壁面。
素早く動いて受け止めるのは男じゃなくて僕の特権だと思いたい。ほら、僕の腕の中のエレナは息が切れ切れに僕を見つめる。体調不良の子犬。だからキスしたいこの衝動を押さえ込んでエレナを座らせる。大人しくしてるんだよ、と屈んで話しかけると小さくうん、と言う。真っ赤でトロンとした瞳で、もしかしたら座るのもきついのかもしれない。


「ほらね、熱がある」
「…」
「さ、とりあえず横になるべきだよエレナ」


しっかりとエレナを椅子に座らせ直してから、布団を引き出す。最早勝手知ったる我が家。
滞りなくと作業をしていると、後ろから声がかかる。



「大丈夫だって、ラルゴ」





ラルゴ。
こう呼ばれるのは何年ぶりだろうか。少なくとも高校生になってからは聞いていない。彼女はどこにおいても僕をロイドとしか呼ばなくなっていたのに。
小学生まではラルゴ。
中学生の時は時々ラルゴで時々ロイド。だった。
高校生からはロイド。僕はラルゴと呼んでほしかったのだけど、そんなことを言うのは野暮でロイド呼びを受け入れてきたのにどうして突然、ラルゴと呼び出したのか。
うれしいのだけど僕にとっては謎で謎で。とりあえず熱のせいにしておく。
そうでないと、ちょっと心臓が持たない。



「君は自分の発言の違和感に気付かないくらいフラフラなんだよ。さぁ、休息を」
「まだ、お昼だよ…」
「病人にはそんなこと関係ないよ、ほら」
「…もう。」



振り向けば茶髪のお姫様は頬を膨らませていた。
それでも僕のひいた布団に横たわると、大人しくしていた。
うっすら開けたりしているトロリとした瞳が色っぽいなんて僕は認めない。
ともかく今は体調がよくなってほしいと思って彼女の傍らに座って頭を撫でた。
おやすみ、エレナ、と呟いてから暫く彼女の傍らから動けなかったのは、窓からの風だけが知っている。

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