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アリア・リンク


(多分、そんな関係。)
(それはこれからも、だと思う。)







今でこそ慣れた通学と一人暮らし。音大に通うため、大学近くのアパートに引っ越した。歩いて20分。走って10分。自転車、バイク、8分。
そんなアパートに引っ越した。
迷ったけれど、御近所さんに挨拶をしよう、そう思って隣をノックをした。
ら。


お隣はゴーシュ・スエードだった。


玄関先で瞬き数回の硬直。
あれ?とお互い目を点にして、次に言ったのはお互い、何でここにいるの?だった。
何秒か間があって、音大に通うため、って応えたのもハモっていた。

とりあえず、初日はお互いこんな形で再開するとは思わなかったね、と夕食を一緒に食べながら乾杯。それは二年前の引っ越してきたばかりの18の時のこと。




お隣、204のゴーシュは私と幼馴染み。


私が通っていた音楽教室の息子が、ゴーシュだったのだ。
父親は作詞、作曲家で色んな楽器を少しかじっていて、母はオペラ歌手という音楽生粋の家庭に生まれていた私は、確りした音楽教室に通わされたのだ。
初めてチェロの音色を聞いたのは小学校、低学年。
初めて会ったのは多分、小学校高学年。
初めてチェロとヴァイオリンでデュエットしたのは小学校、高学年。それから度々デュエットしたり、管弦楽器のコンクールの度に時々見合せたり、頑張ろうね、と励まし合った仲。
彼の家と私の家は近いとは言えず、お互いの小中学校は校区外にある。それでもバスで30分で、かなり遠い、といった距離でもなかった。会おうと思えば会える、そんな距離。
でも私は毎日ヴァイオリンを弾きに音楽教室に行っていたし、ゴーシュも毎日決まった部屋で弾いていた。だから毎日のように相手の音色を聞いていたと思う。
初めてチェロの音色を聞いた時の記憶は、定かじゃないけれど。


初めて会ったときはしっかりと覚えている。


今度の発表会でチェロとデュエットしてみないか、と先生に言われて「おもしろそうです」と言った翌日、ゴーシュと対面して、デュエットの練習をした。
初めて会ったとき、お人形さんかと思った。
あまりにチェロしか目に入って無くて、少し無口で、必死に弾く姿を見ても、機械仕掛けのお人形さんが頑張ってるように見えた。

そんな彼と、仲良くなった切っ掛けは初めてのデュエットの発表会終了後。

めかされてそれなりな洋服を着ての発表会。
私が一部テンポを狂わせたけれど、それを修正するように彼がゆっくり弾いてくれて、成功を博した。
発表会が終わったあと、フォローしてくれたことと、ゴーシュのおかげで成功したから、ありがとうと言おうと思ったら、彼にありがとう、と言って抱き付かれたのだ。
素敵なデュエットができました。アリア・リンク、君とだからできました。だから、ありがとう、と。
まるっきり、私の台詞をとられたけれど、何よりも。




私は初めて彼の微笑みを見せてくれて、ときめいたのを鮮明に覚えている。






これを機にゴーシュとは家族のこと、妹のこと、学校のこと、自分のこと、色んな事を話すようになった。
そうやって、仲良くなれた気がする。
よく話すようになっても、時々先生に進められて発表会やらでデュエットを度々した。
寡黙なゴーシュのチェロはその割りにはとても、優しかった。彼自身も優しかったけれども。
初めての優しさに気付いたのは私がヴァイオリンの音を外しても中断してやり直させないことだった。
間違ったら間違ったまま、最後まで持っていき弾き終わってからここ、こうしたらいいよ、彼はそう指摘してきたのだった。感心したのは間違えた小節をしっかりと覚えていて、後から的確に指摘していることだった。
一番最初こそ不安を抱いたけれど、会話の少ない彼とのデュエット練習は悪くなかったと思う。

独奏の練習をしている時も彼を傍に感じたことがある。
それはたまに彼の隣の部屋で練習することを言い渡される時。防音が施された部屋で練習をしていると、偶然か否かはわからないけれど、私の課題曲と同じ曲のチェロの音が微かに聞こえることがあった。今だから言えることだけど、それにこっそり合わせてデュエットしたのは思い出として、しまってる。


私とゴーシュ・スエードの関係はそんな関係。
たんなる、幼馴染み。
もしくは人よりちょっと親しい、お互いの家族についてよく知ってる、幼馴染み。
たぶん。







後からわかったけれど、私の部屋203の隣の隣201も、同じ大学の今では大親友のエレナちゃんがいた。
上の階の305と302にも専攻は違うも、同じ大学の先輩のジギー・ペッパーさんや、先輩で、エレナちゃんの幼なじみラルゴ・ロイドさんがいた。


賑やかで足りない物があったら貸し借りし合える私たち。長期休暇はみんなでつるんだりもした。
今日はお隣の隣のエレナちゃんのお部屋で、軽くお茶してた。何気なく聞いた質問にエレナちゃんが一瞬瞳を曇らせて、慌てて答えた姿にあれ?と思った。

その姿はどこかで見たことある、自分の姿に重なった。
きっと、たぶん彼女も恋してるんだ、そう思った。



















アリア・リンク:ヴァイオリン
音大二年生

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